誕生から28年!いまもなお愛される初代NSX

ホンダ NSXを語る際、日本のバブル景気が市場に大きな影響を与えていた事実は避けて通れません。初代NA1型の発売は、1990年。バブル絶頂の頃に開発されていただけあり、その内容は野心に溢れていました。後年「唯一の国産スーパーカー」とまで言われた贅を尽くした名車の誕生です。
文・山里真元|日本スーパーカー協会 事務局 ライティングGT代表ライター
モータースポーツから市販車へ
1980年代、日本のモータリゼーション黎明期に4輪に参入したホンダは、性能や品質という点ではすでに世界トップレベルに近づいていました。しかし、自動車の持つ官能要素やスポーツ性能を訴える、いわゆるスーパーカーのような車両は存在せず、欧米勢に太刀打ちできていませんでした。
そこでF1を筆頭とするモータースポーツでの活躍を武器に、さらなるブランドイメージの向上をかけて、莫大な資金を投じて”最高のスポーツカー”開発に挑みます。
開発にあたっては、世界に君臨する高性能な車たち、特にフェラーリを意識していたのは有名な話です。そんなライバルを越えることが目標になっていました。
革新的ボディ構成とエンジン
スポーツカーの性能は乱暴に言ってしまえば、「走る」「曲がる」「止まる」しかありません。これを極めるのが大変なわけですが、そのための大きな武器となったのがNSX最大の特徴とも言えるオールアルミのモノコックボディです。
市販車としては、当時、世界でも類を見ない革新的な構造で、車体の軽量化と高剛性の両立を可能としました。量産にあたっては、それまで使用されていた鋼板やプラスチックと違い、成型や溶接方法など製造には高い技術力が必要でした。また手作業のプロセスが多いなど、課題も多発したと言います。
走行試験に選んだステージのひとつは、現在でも世界中の自動車メーカーが使用するドイツのニュルブルクリンク。荒れた路面を持つ世界的にも過酷なコースとして有名です。サーキット近くに専用の工場を建設してテストを繰り返すことで、ボディ剛性やスタビリティなどを煮詰めていきます。
軽量なボディに搭載されるエンジンは、3.0リッターV型6気筒のVTEC(のちに3.2Lに拡大)。NAながら当時の自主規制値いっぱいの280psを達成しています。
初代NSXのC30Aエンジンのカタログスペックを見てみると、最高出力280ps/7,300rpm、最大トルク30.0kgm/5,400rpm。自然吸気エンジンらしい高回転です。
低回転時と高回転時の吸気効率を最適化するホンダ自慢の可変バルブタイミング機構VTECは、その特徴的な吸気音が他メーカーのスポーツカーに無い官能要素になっています。
NSX開発のきっかけとなった”ミドシップレイアウト車両の研究”にのっとり、車体の中心に近い場所にエンジンを搭載し後輪を駆動する方式を採用しています。このミドシップレイアウトは、ハンドリング性能を求めるにはもっとも優れています。
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