ステンレス車はなぜ珍しい?錆びないのに使われない意外な理由と採用車種たち
更新日:2025.10.29
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ステンレス鋼は錆びにくくて丈夫!身近な金属であるステンレスですが、実は自動車のボディ素材としてはほとんど見かけません。鉄道車両ではステンレス車体が主流なのに、道路を走るクルマで「ステンレス車」を見かけないのは不思議ですよね。一体なぜなのでしょうか? 本記事ではステンレスが車にあまり使われない理由を解説し、過去にステンレスをボディに採用した車の例や、2025年現在の最新事情まで紹介します。意外な豆知識も交えながら、ステンレスと車の関係に迫ってみましょう。
なぜステンレスがクルマのボディに使われないのか?
加工が難しく、金属疲労の懸念も
ステンレスは鉄より硬く、プレス加工による複雑な成形がしにくい素材です。強い弾性(元に戻ろうとする性質)があり、量産設備でのプレス加工や溶接が難しいとも言われます。硬い分だけ振動による金属疲労も起きやすく、車のように常に振動・衝撃を受ける構造だと思わぬダメージにつながるリスクもあります。
材料コストが高く重量も増加する
ステンレス鋼にはニッケルやモリブデンなど高価な合金元素が含まれるため、一般的な自動車用鋼板より材料コストが割高です。密度(比重)は鉄とほぼ同等で、アルミニウムの約3倍もの重さがあります。
つまり車体をステンレスにすれば、アルミや高張力鋼などに比べて重量増となり、燃費や航続距離に不利になります。メーカーが軽量化を追求する中、重い素材は敬遠されるわけです。
つまり車体をステンレスにすれば、アルミや高張力鋼などに比べて重量増となり、燃費や航続距離に不利になります。メーカーが軽量化を追求する中、重い素材は敬遠されるわけです。
修理が難しく生産設備への適合性も低い
ステンレスは加工時に強い反発で元の形に戻ろうとするため、一度ヘコんだり破損すると修復が困難です。板金修理で叩いて直すことが難しく、部位ごとパネル交換になる可能性が高いため、ユーザーにとって維持費が増す懸念もあります。
また既存の量産ラインで扱いにくく、塗装工程にも不向き(不動態皮膜により塗料の密着が悪い)など、生産現場への適合性も低いとされています。
また既存の量産ラインで扱いにくく、塗装工程にも不向き(不動態皮膜により塗料の密着が悪い)など、生産現場への適合性も低いとされています。
衝撃を吸収しづらく安全面で不利
衝突安全の観点からもステンレスボディは課題があります。通常のスチール製ボディならクラッシャブルゾーンが衝撃をぐしゃっと潰れてエネルギーを吸収してくれますが、ステンレスは剛性が高く弾性も強いため衝撃エネルギーを十分吸収できず、車体や乗員にダイレクトに衝撃を伝えてしまう恐れがあります。歩行者や他車へ与える攻撃性が高くなるとの指摘もあり、事故時の安全性確保が難しい素材なのです。
錆びないメリットが相対的に小さい
ステンレスは表面に酸化被膜を形成して錆びにくいものの、腐食環境次第では完全に錆を防げるわけではありません(例:塩分やフン害で腐食する場合も)。
一方で自動車用鋼板では防錆塗装技術の向上により錆対策が格段に進歩しており、ステンレスだからといって特別有利とは言えないのが実情です。
むしろ素材としての総合性能では、軽量で強度・靱性に優れるハイテン鋼(高張力鋼板)やアルミ合金・CFRP(炭素繊維強化樹脂)などが主流となっています。
一方で自動車用鋼板では防錆塗装技術の向上により錆対策が格段に進歩しており、ステンレスだからといって特別有利とは言えないのが実情です。
むしろ素材としての総合性能では、軽量で強度・靱性に優れるハイテン鋼(高張力鋼板)やアルミ合金・CFRP(炭素繊維強化樹脂)などが主流となっています。
以上のように、「錆びにくくて丈夫」というメリット以上に加工性・コスト・重量・安全性など多方面でデメリットが大きいため、ステンレスは自動車ボディ素材として普及してこなかったのです。
もちろん現在でもモール(飾り枠)やマフラー(排気系)といった部分には錆びにくさを活かしてステンレス製パーツが使われていますが、ボディ丸ごとステンレスというクルマは極めて珍しい存在なのです。
もちろん現在でもモール(飾り枠)やマフラー(排気系)といった部分には錆びにくさを活かしてステンレス製パーツが使われていますが、ボディ丸ごとステンレスというクルマは極めて珍しい存在なのです。
ステンレスが採用された車はある?レアな例を紹介
デロリアン DMC-12(1981年)
映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のタイムマシン役でおなじみ、デロリアンDMC-12はステンレス製ボディの市販車として史上初とも言われます。
ボディパネルはヘアライン仕上げのステンレス無塗装で、直線的なデザインも相まって未来的なルックスを実現しました。硬いステンレスでも平面的な造形ならプレス成型が可能だったわけですね。
発売当初は「塗装要らずでメンテナンスフリー」とアピールされたものの、豆知識として、ステンレスボディは下手にワックスがけすると表面がムラだらけになって悲惨な状態になるため要注意でした。
メリットがどこまであったかは議論の余地がありますが、それでも鈍い銀色の車体は当時として抜群の未来感を放ち、映画の劇中車に採用されたのもステンレスボディあってこそと言えるでしょう。
ボディパネルはヘアライン仕上げのステンレス無塗装で、直線的なデザインも相まって未来的なルックスを実現しました。硬いステンレスでも平面的な造形ならプレス成型が可能だったわけですね。
発売当初は「塗装要らずでメンテナンスフリー」とアピールされたものの、豆知識として、ステンレスボディは下手にワックスがけすると表面がムラだらけになって悲惨な状態になるため要注意でした。
メリットがどこまであったかは議論の余地がありますが、それでも鈍い銀色の車体は当時として抜群の未来感を放ち、映画の劇中車に採用されたのもステンレスボディあってこそと言えるでしょう。
テスラ・サイバートラック(2023年発表)
現代、ステンレスボディを蘇らせようとしている注目車がテスラ社の電動ピックアップトラック「サイバートラック」です。大型でポリゴンのような角張った車体は超硬化ステンレス鋼のエクソスケルトンで構成され、塗装もせず金属地肌そのままの仕上げになっています。
傷が付きにくく耐久性が非常に高いのがセールスポイントで、クリア塗装すら省略することでコストダウンも狙っています。実際、ハンマーで叩いても凹まないデモンストレーション映像が話題になりました。
ただし量産車として公道に投入するには課題も多く、ヨーロッパの安全規制当局からは「現状のままでは安全基準を満たさず公道走行は認められない」との指摘も受けています(衝突時の吸収構造や鋭角なデザインなどが問題視)。
サイバートラックは2024年以降に本格生産が予定されていますが、ステンレスボディがどこまで実用に耐えうるか、自動車業界でも賛否両論の挑戦と言えるでしょう。
傷が付きにくく耐久性が非常に高いのがセールスポイントで、クリア塗装すら省略することでコストダウンも狙っています。実際、ハンマーで叩いても凹まないデモンストレーション映像が話題になりました。
ただし量産車として公道に投入するには課題も多く、ヨーロッパの安全規制当局からは「現状のままでは安全基準を満たさず公道走行は認められない」との指摘も受けています(衝突時の吸収構造や鋭角なデザインなどが問題視)。
サイバートラックは2024年以降に本格生産が予定されていますが、ステンレスボディがどこまで実用に耐えうるか、自動車業界でも賛否両論の挑戦と言えるでしょう。
EV時代の素材選択と今後の展望
軽量化と新素材の追求
近年の自動車業界では、ステンレス以外の新素材による車体軽量化・耐久性向上の動きが顕著です。例えばBMWの小型EV i3(2013年発売)は車体骨格にCFRP(炭素繊維強化樹脂)を大々的に採用し、バッテリー搭載による重量増を相殺するためアルミフレームとの組み合わせで同クラスのガソリン車より軽い車重を実現しました。
またホンダの初代NSX(1990年)は世界初のオールアルミモノコックボディを採用し、アルミニウムの「鉄の約1/3」という軽さを武器に-140kgもの車体軽量化を果たしています。このように自動車メーカー各社は軽くて強く錆びない素材を求め、アルミやカーボンなどへのシフトを進めてきたのです。
またホンダの初代NSX(1990年)は世界初のオールアルミモノコックボディを採用し、アルミニウムの「鉄の約1/3」という軽さを武器に-140kgもの車体軽量化を果たしています。このように自動車メーカー各社は軽くて強く錆びない素材を求め、アルミやカーボンなどへのシフトを進めてきたのです。
あえてステンレスに挑む異端の存在
一方で、テスラのサイバートラックのようにあえてステンレスに挑むケースは極めて異例です。「塗装レスで生産工程を簡略化できる」「圧倒的な耐久ボディで話題性を狙う」などユニークな発想から生まれたプロダクトと言えるでしょう。ステンレス車がこの先主流になる可能性は低いものの、2025年現在、自動車の素材選択はますます多様化しています。
多様化する素材と未来の展望
ハイテン鋼やアルミ、CFRPに加え、新たな複合素材や加工技術が進歩し続けており、車体のマルチマテリアル化が今後も加速していくでしょう。いつか「錆びない夢の新金属」が登場すれば、ステンレスが再評価される日が来るかもしれません。クルマ好きの豆知識として、ぜひ覚えておきたいトピックですね。
豆知識:実は“ステンレス=錆びない”ではない?
「ステンレス=絶対に錆びない金属」と思っている人も多いですが、実は“錆びにくい”だけで、条件次第ではしっかり錆びます。
例えば、冬季の融雪剤(塩化カルシウム)がまかれた道路を頻繁に走行すると、塩分によって「もらい錆」や「すき間腐食」が起こることがあります。
特に表面に傷がついて酸化皮膜が破れると、そこから局部的に腐食が進行することも。
さらに、ステンレスは電位差の関係でアルミや鉄と接触した部分が電食(ガルバニック腐食)を起こす場合もあり、異種金属との組み合わせ設計には細心の注意が必要です。
つまり、ステンレスも「万能」ではなく、使用環境や構造設計を誤ると錆びることがある――。
それでもなお人気なのは、適切に使えば“メンテナンス性が高く長寿命”だからなのです。
例えば、冬季の融雪剤(塩化カルシウム)がまかれた道路を頻繁に走行すると、塩分によって「もらい錆」や「すき間腐食」が起こることがあります。
特に表面に傷がついて酸化皮膜が破れると、そこから局部的に腐食が進行することも。
さらに、ステンレスは電位差の関係でアルミや鉄と接触した部分が電食(ガルバニック腐食)を起こす場合もあり、異種金属との組み合わせ設計には細心の注意が必要です。
つまり、ステンレスも「万能」ではなく、使用環境や構造設計を誤ると錆びることがある――。
それでもなお人気なのは、適切に使えば“メンテナンス性が高く長寿命”だからなのです。
まとめ
いかがでしたか?
「錆びない」「丈夫」と聞くと万能そうなステンレスですが、実際の自動車開発では加工の難しさ・重量・コスト・安全性といった壁が立ちはだかっていることがわかります。
それでも、デロリアンやサイバートラックのように「常識を覆す挑戦」を続けるメーカーが存在するのもまた事実です。
2025年の今、自動車の世界ではハイテン鋼やアルミ、カーボンなど多様な素材が競い合い、「軽くて強く、長く乗れるクルマ」を目指す技術革新が進んでいます。
ステンレスが再び脚光を浴びる日は来るのか? その答えは、次世代に委ねられているのかもしれません。
金属の特性ひとつ取っても、車の奥深さは無限大。
ステンレス車というキーワードから、クルマづくりの面白さを改めて感じていただけたなら幸いです。
「錆びない」「丈夫」と聞くと万能そうなステンレスですが、実際の自動車開発では加工の難しさ・重量・コスト・安全性といった壁が立ちはだかっていることがわかります。
それでも、デロリアンやサイバートラックのように「常識を覆す挑戦」を続けるメーカーが存在するのもまた事実です。
2025年の今、自動車の世界ではハイテン鋼やアルミ、カーボンなど多様な素材が競い合い、「軽くて強く、長く乗れるクルマ」を目指す技術革新が進んでいます。
ステンレスが再び脚光を浴びる日は来るのか? その答えは、次世代に委ねられているのかもしれません。
金属の特性ひとつ取っても、車の奥深さは無限大。
ステンレス車というキーワードから、クルマづくりの面白さを改めて感じていただけたなら幸いです。