トヨタのF1施設のその後

アヘッド トヨタのF1施設のその後

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ドイツ・ケルンに本拠を置くトヨタ・モータースポーツGmbH(略称TMG)は、2009年までF1参戦活動の拠点だった。親会社であるトヨタ自動車は、経済環境の変化を理由にF1からの撤退を決めたが、TMGが持つ最先端の設備は残る。この設備を生かすため、収益の見込める事業を育てる必要があった。

ttext/photo:世良耕太 [aheadアーカイブス vol.123 2013年2月号]
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トヨタのF1施設のその後

トヨタのF1施設のその後

TMGは自らが参戦するモータースポーツ事業以外に3の柱を立てた。1つはトヨタ自動車からの委託事業で、量産部門の研究開発業務を請け負うこと。2つめはモータースポーツ委託事業だ。

フェラーリがTMGの風洞を利用して空力開発を行っているのは公然の秘密。F1をはじめさまざまなカテゴリーのチームや企業が、TMGの充実した設備を頼りに開発業務を委託している。

3つめの柱は新規事業で、市販車を電気自動車に改造するコンバートEV事業は、すでに軌道に乗っている。F1時代に手がけたKERS(運動エネルギー回生システム。ハイブリッドの一種)の開発で培った技術を応用したもので、2012年のパイクスピーク・ヒルクライムでクラス優勝を果たしたEVにも、その技術が注ぎ込まれている。
その3つめの新規事業の最新事例がカスタマイズカー事業だ。レクサスLS460をベースに開発したTMG Sports 650(略称TS-650)が、潜在ユーザーの反応をうかがうサンプルである。2012年12月にドイツ中西部のエッセンで開催されたモーターショーで初公開されたTS-650は、「300㎞/hで巡航できる性能」を標榜する。

そんな性能必要? との疑問も湧くし、だとしたら大型セダンではなくスポーツカーをカスタマイズした方がいいだろうと思うかもしれない。ごもっともな意見だが、欧州、とくに高速道路に速度無制限区間が存在するドイツでは、大型セダンタイプの超高性能クルーザーに対するニーズがある。

求める層はごく少数だが、その少数は自分好みの「超高性能」が手に入るなら、多額の出費をいとわない。だから、少量生産でもビジネスとして成立する。実際、エッセンのショーでは現実味のある相談(商談)を複数受けたという。
300㎞/hクルーズを実現するための開発・設計手法は、レーシングカーを開発する際の手法とまったく同じで、そこが、TMGが手がけるカスタマイズカーの強みだ。

サスペンションやエンジンを構成する部品は、アルミ合金のブロックからコンピューター数値制御の工作機械で削り出したもの。まさにレーシングスペック。F1やル・マンカーと同様、1/2風洞モデルで風洞試験を行い、空力性能に磨きをかけた。

2013年1月、300㎞/hでクルーズできることを実証すべく、南イタリアのナルドにあるテストコースで最高速を計測。難なく322㎞/hを記録し、余裕をもって300㎞/hクルーズが可能であることを実証した。

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text:世良耕太/Kota Sera
F1ジャーナリスト/ライター&エディター。出版社勤務後、独立。F1やWEC(世界耐久選手権)を中心としたモータースポーツ、および量産車の技術面を中心に取材・編集・執筆活動を行う。近編著に『F1機械工学大全』『モータースポーツのテクノロジー2016-2017』(ともに三栄書房)、『図解自動車エンジンの技術』(ナツメ社)など。http://serakota.blog.so-net.ne.jp/
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