2輪部門、 日本人初表彰台を目指せ!伊丹孝裕のPIKES PEAKへの挑戦 VOL.6

アヘッド 2輪部門、 日本人初表彰台を目指せ!伊丹孝裕のPIKES PEAKへの挑戦 VOL.6

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パイクスピークにおけるレースウィークの日程。それ自体は、一般的な国際レースとほとんど変わりはない。フリー走行と予選を兼ねた公式練習が3日間設けられ、決勝は1日を通して開催されるというものだ。今年の場合、6月26日(水)~28(金)が公式練習に当てられ、30日(日)が決勝というスケジュールになった。

text:伊丹孝裕 photo:山下 剛/藤村のぞみ  [aheadアーカイブス vol.130 2013年9月号]
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2輪部門、 日本人初表彰台を目指せ!伊丹孝裕のPIKES PEAKへの挑戦 VOL.6

2輪部門、 日本人初表彰台を目指せ!伊丹孝裕のPIKES PEAKへの挑戦 VOL.6

パイクスピークならではと言えるのは、公式練習最終日となる28日の夜で、この日はファンサービスのために費やされる。これは〝ファンフェスタ〟と呼ばれ、エントラントは皆、麓の街であるコロラドスプリングス市内のメインストリートに参戦車両を展示。そこをレースファンや観光客のために開放し、ライダーやドライバー、スタッフとの交流が図られるというものだ。

夕方5時から始まるこのイベントは夜10時頃まで続き、モータースポーツと日常との距離感の近さを感じさせてくれるものだった。

印象的だったのは子供の多さだ。しかも、その親や祖父母達が車両やレーサーのことを子供にもちゃんと説明し、僕らにも「明日は気をつけて」「レースを楽しんで」というひと言を忘れない。

前号でも触れたが、人種も国籍も関係なく、そのフィールドに立った者をきちんとリスペクトし、その気持ちを伝えようとしてくれる様は、こちらのモチベーションをどんどん高めてくれる。そして、その場にいることを誇りに思わせてくれ、そのお返しにいい走りを見せることでレースを楽しんでもらいたい。ファンとの一体感が高まる中、自然とそういう気分になれるのだ。

そんなファンフェスタ当日の早朝に2輪部門の予選は開催された。

予選方式はやや変則的で、全長約20㎞のコースのすべてを使うわけではない。ボトムセクションと呼ばれる8㎞程の区間が設定され、そこでのタイムアタックで争われるのだ。

ここは、例えるなら箱根に似た中高速のワインディングで、リズミカルな切り返しが続くため、日本人にも馴染みやすい。そんな好条件もあって、僕らのチーム〝トライアンフ横浜北&ワイズエステート〟は2輪部門の出走65台中、総合10位、クラス3位というタイムで決勝進出を決めることができたのだ。

ところで、初参戦となった今回、最大の懸案事項はライバル勢の動向よりも参戦車両であるスピードトリプルRのマッピングとタイヤの選択だった。
 
というのも、ゴール地点は標高4300mという日本ではテスト不能な環境で、空気は極めて薄く、気圧は低い。つまり、ノーマルのままではエンジンに十分な空気を取り入れることができず、最高出力は理論上40%近くをロスすると言われ、またタイヤの内圧は上昇し、適正なグリップを得られなくなることが想定されていたのだ。

そこで事前に用意していたのが、空気密度に合わせて燃料の噴射量を素早く補正してくれるサブコン〝ラピッドバイク〟と、幅広い条件に適応するダンロップのハイグリップタイヤ〝スポーツマックス・α13〟だった。日本で何度か行ったシミュレーションの結果、これらがパイクスピークの地でも正常に機能。予選タイムにもそれが現れ、安堵することになった。

この時点でトライアンフ横浜北の那波社長とスポンサーであるワイズエステートの高木社長とは、〝表彰台獲得〟という明確な目標を立て、それを実現するために坂上メカニックが車両を完璧に整備。30日のレースに備えたのだ。

決勝の朝は早い。

なにせスタート地点へ向うゲートは午前2時にオープンし、パドックとは名ばかりの林の中でピットを設営。それがひと段落すれば、凍えるような寒さの中で、夜明けを待つという、なかなかの過酷さだ。

午前5時を過ぎた頃から山脈と空の境がゆっくりと白み始め、観客も続々とお気に入りの観戦ポイントへと散らばっていく。空には中継のヘリコプターが飛び交い、山全体に熱気が帯びていくのを感じながら、チーム内の緊張感も高まっていったが、やがてそれも気にしてはいられなくなる。

なぜなら、エントリーしていた〝1205クラス〟は数あるクラスの中でも、一番最初にスタートすることになり、しかも出走順は予選1位からである。つまり、2輪4輪合わせて147台ものエントラントがひしめく中で、我々のコースインは全体の3台目。否応なしに、慌ただしさが増していったからだ。

スタートは午前8時だ。

予選と同じく決勝も1台ずつのタイムアタックのため、ライダーは自分の判断で前走者と間隔を置き、スタートのタイミングを図ることが許されている。スケジュールには若干の遅延が出たものの、予選1位のミッキー・ダイミンド、そして2位のブルーノ・ラングロアが駆るドゥカティ・ムルティストラーダ勢が順当にスタートを切っていく。

ほどなく、僕もトライアンフ・スピードトリプルRをスタートラインに着けた。

空は快晴、タイヤも十分に温まっていて、すべてが順調。あとは走り切りさえすれば、おのずと結果がついてくるはずだった。

しかし、あろうことか僕はスタートからわずか2分あまりでクラッシュし、スピードトリプルRはフレームを破損して大破。リタイヤを余儀なくされたのだった……。

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text:伊丹孝裕/Takahiro Itami
1971年生まれ。二輪専門誌『クラブマン』の編集長を務めた後にフリーランスのモーターサイクルジャーナリストへ転向。レーシングライダーとしても活動し、これまでマン島TTやパイクスピーク、鈴鹿八耐を始めとする国内外のレースに参戦してきた。国際A級ライダー。
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