埋もれちゃいけない名車たち VOL.27 走らせたら滅法楽しい非スポーツカー「トヨタ・スターレット」

アヘッド トヨタ・スターレット

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スポーツカーでも何でもないのに走らせたら滅法楽しいクルマ、というのがその昔はたくさんあったように思う。とりわけ1970〜1980年代の日本は百花繚乱。

text:嶋田智之 [aheadアーカイブス vol.143 2014年10月号]
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VOL.27 走らせたら滅法楽しい非スポーツカー「トヨタ・スターレット」

VOL.27 走らせたら滅法楽しい非スポーツカー「トヨタ・スターレット」

財布の軽い庶民のための小さなファミリーカーに、エンジンの圧縮比を上げたりキャブレターを増やしたりする軽めだけどそれなりに効果のあるチューンを施したスポーツグレードが用意されていたり、どう見ても〝お父さんのクルマ〟である凡庸なセダンに、当時は高性能の代名詞だったDOHCエンジンをブチ込んだモデルがラインアップされてたりと、それはそれは賑やかだった。

若者の収入ではスポーツカーなんて夢のまた夢だし、一家に1台がせいぜいだから実用的なクルマしか選べない。そういう事情は今とそれほど変わらなかったように思うのだけど、決定的な違いとして、当時は自動車メーカーがチョイスを用意してくれていたのだ。

それらの数ある非スポーツカー系〝走らせたら滅法楽しいクルマ〟の中で最も突出した存在は何かといえば、各々諸説あるだろうけど、僕は2代目トヨタ・スターレットなんじゃないかと思う。〝KP61〟という型式から「ケーピー」とも「ロクイチ」とも呼ばれるモデルである。

何が素晴らしいって、このクルマは全長3.8mたらず、全幅1.5m少々の小さな2ボックスカーだったにも関わらず、フロントエンジン+後輪駆動だったのだ。

KP61がデビューした1978年は小型大衆車の前輪駆動化が猛烈な勢いで進んでる時期。同じように後輪駆動のスポーツできる非スポーツカーとしては4代目日産サニーが存在したが、サニーは車体がもうひとまわり大きく、クラスもひとつ上。KP61の730㎏という車重に匹敵するほど軽い後輪駆動車は、他にはなかったのだ。

KP61は大人が4人乗れてリアにハッチゲートを持つ実用車で、エンジンもたった72馬力の1.3リッター、しかも古典的なOHV。けれど、そのOHVエンジンがよく回った。

レスポンスよく吹け上がるエンジンとロックトゥロック3回転のラック&ピニオンのクイックなステアリング、それに軽くコンパクトな車体。若者がウデを磨くのにも、手練れが振り回して遊ぶにも最適で、モータースポーツに参加するためのモデルとしても重宝された。

アフターパーツがたくさん存在したこともあって、チューニングカーのベース車両として選ばれることも少なくなかった。

かくいう僕もKP61で運転を学んだ元若者のひとり。ピロ足とバケットシートを組み込んだ中古車で、あちこちを元気に走り回ったものだ。

あの小ささと軽さでリアタイヤを強く意識しながら楽しく走れる小気味のいいクルマ。もう生まれてくることはないだろう。あの時代に生きた僕達は、きっと幸せ者なのだ。

トヨタ・スターレット

2代目スターレットは、国民車構想から生まれたパブリカの上級派生車“パブリカ・スターレット”の後継として、1978年にデビューした。それまでのファストバック風のスポーティなスタイルから一転してトランクレスの2ボックススタイルとなった2代目は、見るからに実用車然とした雰囲気。

けれどこのクラスで初めて前輪ディスクブレーキを標準で備えるなど、ちゃんとスポーツできる中身を備えており、財布の軽い庶民達の走りたい気持ちに応えていた。このクラス最後の後輪駆動車で、1984年登場の3代目からはFFとなる。

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text:嶋田智之/Tomoyuki Shimada
1964年生まれ。エンスー系自動車雑誌『Tipo』の編集長を長年にわたって務め、総編集長として『ROSSO』のフルリニューアルを果たした後、独立。現在は自動車ライター&エディターとして活躍。
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