Rolling 40's Vol.81 新学期

Rolling

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かなり暖かくなってきたので、バイク仲間を2人呼び出し、伊豆箱根方面に向かって走ってみた。百点満点の快晴にも関らず、平日だったので高速もターンパイクも椿ラインも伊豆スカイラインも空いていた。ほとんど貸切りと言っても良いような状態である。

text:大鶴義丹 [aheadアーカイブス vol.151 2015年6月号]
Chapter
Vol.81 新学期

Vol.81 新学期

その日に集まった仲間は最年長が私で47歳、次に46歳45歳とまさに40代真っ盛りの野郎ども3人。

バイクは1台が世界最速の1400ccをさらに改造したモノで、もう1台は1千万円くらい改造している900cc、私の1100ccが一番金が掛かっていないお豆マシンである。

今日のメンバー、30代前半の頃はしょっちゅう一緒に走っていたのだが、40代に入ってからは夜に待ち合わせることはあっても、真っ昼間から集まって峠に向かうような機会は少なくなった。やはりそれぞれに商売を抱えているので全員のタイミングが合うことは少ない。

待ち合わせた海老名サービスエリア、一番乗りは私だった。少し汗ばんだジャケットを脱いでひとりコーヒーを飲んでいた。10分くらいすると2人目の仲間がやってきて、そこからまた10分すると3人目がやってきた。

集まった時間が午前10時だったので、気が付くと10時半近くになっている。急いで走り出さないと峠を楽しむ時間が少なくなってしまうと思ったが、結局、そのまま3人で下らないお喋りを始めてしまい、気が付くと11時近くになっている。

小田原厚木道路の終点で降り、箱根ターンパイクの料金所へ。ターンパイクは映画「キリン」の撮影で夜間だけ3日間貸し切ったことがあるので、私にとっても特別な場所だ。

ターンパイクを走り出すと昔のような昂揚感は感じられなかった。31歳の時にホンダのナナハンから買い替えたハヤブサ1300でここを走ったときのことは今でも忘れられない。それまで何度も走っていたターンパイクであったが、ハヤブサで走ったターンパイクは別の道であった。

そんなことを思い出しながらノンビリ走っていると、他の2台が私のことを勢いよく追い抜いて行った。私は彼らの背中を見ながら、少し前に迎えた47歳の誕生日のことを考えた。アラフォーだとおどけていたのはついこの間のはずなのに、いよいよアラフィフだというではないか。

迫りくるターンパイクの高速コーナーをヘルメットの中から見ていた。バイザーを開けて初夏の匂いさえする空気を味わった。少しすると左手に大きく海が見えた。まさに紺碧という言葉そのものの景色である。

私はバイクを止めてベンチで持参してきた炭酸水を飲んだ。

7年近く可愛がっているマシンを見つめていると、突然、そのマシンが巨大なプラモデルに見えた。

この瞬間に、私の中で峠でバイクを元気よく走らせて楽しかった時代は終わったと確信した。やればそこそこ出来るという自信はある。数ヵ月前にサーキットを走った時もそれなりの領域で汗だくになった。

しかしそれはサーキットにおけるモータースポーツ。峠とは絶対的に違う存在だ。

峠に感じていた、身体の奥の方から「アレ」を求める欲望。しかしその記憶のようなものはあっても、その感触や味は思い出せない。

そういう瞬間がいずれ来るよと、10年くらい前に誰かに言われたことがある。そんなことを言う歳上のバイク乗りが嫌いだった。だったらバイク自体を辞めてしまえと思った。

そんなことを考えていると、先行していた2人が戻って来た。あまりに遅いので転んだと思ったらしい。心配をかけたことを詫び、そのまま頂上の大観山パーキングに向かい、顔見知りのカフェでコーヒーを飲む。

そこからは芦ノ湖と富士山が良く見えた。富士山の雪は9合目まで残っていたが、夏が目の前だと言っているようでもある。店員の方が、火山活動が懸念されている大涌谷は、芦ノ湖の先だと教えてくれた。

そんな風景を見ながらコーヒーを3杯飲んだ後、私は峠ではしゃぐのことが少し飽きたみたいだと、他の2人に告白した。彼らは何も言わずに少し寂しそうな顔をした。

「ちょっと走ってくる」

世界最速の1400ccのマシンに乗っている46歳の仲間が1人カフェを出て行った。窓の下から彼の漆黒のマシンが迫力のある重低音を響かせながら峠道を下っていくのが見えた。

彼が戻って来た後に、椿ラインに向かった。ヘアピンが連続する、箱根屈指のテクニカル峠として有名である。

ここで私は、巨大過ぎるパワーを持て余している2人を尻目にスイスイと単独走行。なんでそんなに元気よく走ったのかは今でも分からない。少し走った先にある休憩所に先について、再び紺碧の海をひとり眺めた。

「ぜんぜん飽きてないじゃん、嘘つき」

遅れてきた2人が笑いながらそう言う。「そうだね、飽きてないね・・・」

私は照れながらそう言った。乙女心に負けず劣らず、オヤジの心も複雑なのである。

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text:大鶴義丹/Gitan Ohtsuru
1968年生まれ。俳優・監督・作家。知る人ぞ知る“熱き”バイク乗りである。本人によるブログ「不思議の毎日」はameblo.jp/gitan1968
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