埋もれちゃいけない名車たち vol.39 世界水準を塗り替えた日本のスーパーカー「ホンダ・NSX」

アヘッド ホンダ NSX

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明確な定義がないからとしてるのも確かだけど、〝スーパーカー〟と聞いて多くの人が思い浮かべるおおまかなイメージは、1970年代のイタリアを中心とするヨーロッパで生まれたといっていいだろう。

text:嶋田智之 [aheadアーカイブス vol.155 2015年10月号]
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vol.39 世界水準を塗り替えた日本のスーパーカー「ホンダ・NSX」
ホンダ・NSX

vol.39 世界水準を塗り替えた日本のスーパーカー「ホンダ・NSX」

上流階級の人達の金に糸目をつけず特別なモノを求める昔ながらのある種の文化のようなものと、どんどん進化していくテクノロジーを下地にしたエンジニア達のスピードに対する欲求が、あの時代にちょうどいい具合に融合し、結果、世界中のクルマ好きに夢と希望を与えたのだ。

でも──僕は今でも圧倒的な大ファンだということを公言しておくけれど──当時のスーパーカー達は、あえて極めて冷静に、そしてフェアにジャッジするならば、ごく一部を除くとメーカーが公言するほどには走らなかったし、クオリティもさほどのものじゃなかったし、乗りこなすにはドライバーがクルマに合わせなきゃならない癖の強さ、設計や作りの甘さがあったのも確かだった。そしてそれは1980年代どころか1990年代に入る頃になっても、劇的に改善されたりすることはなかったのだ。──そう、ホンダがNSXをデビューさせて少し経つまでは。

日本のクルマ好きにとっては、素直に誇れる存在だったはずのNSXの登場。けれどクールな声があったのも確かだ。スタイリングが古い。たかがV6。色気がない。マジメすぎ。思い切りが悪い。特別感がない。そんな声があったことを覚えてる。

それでも、いざNSXに触れた世界中のスーパーカー関係者は、大きな衝撃を受けたようだった。NSXはそれまでのスーパーカー達とは全く違っていて、全方位的な高品質とドライバーフレンドリーな乗り味を押さえたうえで、スピードと官能の世界に入ってきたのだ。

〝たかがV6〟と小馬鹿にしたのは走らせたことがない人だけで、一度でもそのステアリングを握ったことがある人の全てが、スペックを軽く飛び越えたリアルな高性能に心の底から感銘を受けたものだった。

最も素早く動いたのはフェラーリだった。すぐに製品クオリティを徹底的に高め、誰もがサッと乗ってパッと速さを楽しめ、少なくともカタログに記したスペックなりの性能くらいはキッチリと叩き出せるだけのクルマ作りを目指し、実行した。それに世界中が追従した。そういう連鎖が生まれたのだ。

ホンダが自身の哲学を持って丁寧に作り上げた初のスーパーカーが、スーパーカーの世界基準を思い切り塗り替えた。現在のスーパーカーは極めて扱いやすく、高級サルーン並みに快適で、主張したとおりのスピードはちゃんと出る。

もしNSXがなければ、こういう素晴らしい状況にはなってなかっただろう。僕達日本人は、この1点だけ考えても、誇っていいのだと思う。

ホンダ・NSX

ホンダNSXは1990年から2005年までの長きにわたって生産された2シーター+ミドシップのスーパースポーツカー。

オールアルミのモノコックボディに乗用車用ベースの横置きV6ユニットを280psまでチューンアップして搭載。開発にはアイルトン・セナをはじめとした当時のホンダF1ドライバーやエンジニア達も関与していた。

スーパーカーとしてはパワーがあるとはいえないが、そのハンドリングの素晴らしさとコーナリングスピードの速さ、そして走らせる楽しさは、現代でも充分に通用するレベル。名車中の名車である。

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text:嶋田智之/Tomoyuki Shimada
1964年生まれ。エンスー系自動車雑誌『Tipo』の編集長を長年にわたって務め、総編集長として『ROSSO』のフルリニューアルを果たした後、独立。現在は自動車ライター&エディターとして活躍。
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