埋もれちゃいけない名車たち vol.44 デートカーがドリフトマシンに「日産・5代目シルビア」

アヘッド 日産・5代目シルビア

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〝鉄ちゃん〟こと鉄道ファンには〝乗り鉄・降り鉄・撮り鉄・録り鉄・模型鉄・スジ鉄・葬式鉄……〟と数え切れないほどの分類があるようだ。マニアの多様化・細分化が、驚くほど進んでる。でも、考えてみたらクルマの世界も似たようなモノで、むしろ分類の細かさからいうなら鉄道の世界を遙かに凌いでるかも知れない。

text:嶋田智之 [aheadアーカイブス vol.160 2016年3月号]
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vol.44 デートカーがドリフトマシンに「日産・5代目シルビア」
日産・5代目シルビア

vol.44 デートカーがドリフトマシンに「日産・5代目シルビア」

その傾向は昔からあって、自動車メーカーが本来狙っていた客層とは異なる「えっ?そっち!?」なカテゴリーの人達が見事にはまり込んでしまったクルマというのもある。1988年にデビューした5代目日産シルビアは、その代表格だろう。

シルビアは1965年に初代が登場して以来、骨の太さの度合いは少しずつ異なるものの、代々、ミドルクラスのスペシャルティカーとしてラインアップされてきた。

マニアからは〝S13〟と型式で呼ばれる5代目シルビアが目指したのも、当然そういう方向。バブル華やかなりし頃、ホンダ・プレリュードが頂点に君臨していた〝デートカー〟のカテゴリーに投入されたというわけだ。

S13型シルビアはスタイリングデザインにこだわったクルマだった。無駄な線や余分な抑揚のないシンプルでクリーンなクーペスタイルは、デビューイヤーのグッドデザイン大賞を受賞したほど評価も高かった。

もちろん目論見通りデートカーとしての人気は高く、S13型は代変わりする1993年までの間に30万台前後が売れた歴代最ヒット作となった。

が、この手のスペシャルティカーはスタイリッシュであるだけではなく、スポーティな側面も求められるもの。

S13型は徐々に少なくなりつつあった適度なサイズの後輪駆動モデルであり、リアサスペンションには新開発のマルチリンクが傲られ、エンジンも前期は175ps、後期は205psの直列4気筒DOHCターボを搭載。スポーツ走行にバッチリ、のクルマでもあったのだ。

そのためワインディングロードなどを攻めて楽しむドライバーの好みにもドンズバではまり、操縦性がよかったことからテールを滑らせて楽しむドリフト走行のためのマシンとして最適という側面もクローズアップされた。

そして2000年代に入り、ドリフトがモータースポーツのカテゴリーとして確立されはじめると、後継モデルであるS14、S15と並んでドリフトのためのベストマシンとして人気を博すようになった。メーカーとしては想定外の出来事だっただろう。

いわゆるドリ車にはエアロパーツなどでコテコテに武装したものが多く、S13にもそうしたモディファイを加えられたクルマが少なくない。

今も「えっ? そっち!?」な方向で人気を保っているのは素晴らしいことだとは思うけど、本当はノーマルのルックスがいちばん美しいのだけどなぁ……と、僕などは感じてる。

日産・5代目シルビア

シルビアは、1965年に登場した初代から2002年に生産が終わる7代目まで、日産自動車のミドルクラスのスペシャルティカーとしてラインアップされてきたモデル。歴代で最も売れたのは5代目となるこのS13型で、1988年から1993年にかけて30万台ほどが販売された。

最も大きな人気の理由は、外観も内装もシンプルな美しさで統一されたスタイリッシュなクルマであったこと。“デートはクルマで”が当たり前だった時代の若者達が、素直に欲しいと感じる説得力を持っていたのだ。まさかドリ車として人気になるとは、お釈迦様でも気づかなかったはず……。

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text:嶋田智之/Tomoyuki Shimada
1964年生まれ。エンスー系自動車雑誌『Tipo』の編集長を長年にわたって務め、総編集長として『ROSSO』のフルリニューアルを果たした後、独立。現在は自動車ライター&エディターとして活躍。


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