埋もれちゃいけない名車たち vol.47 敢えて選ぶ 大人のための911「ポルシェ 911 タルガ」

アヘッド ポルシェ911タルガ

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巻頭特集のテーマに〝粋〟という文字を見たときに僕の頭の中にポッと浮かんだのは、とある車種に設定され続けている、とあるルーフのカタチ。ポルシェ911にある、〝タルガ〟である。911は埋もれることない名車でしょ?という声もありそうだけど、タルガは一時期、名前はともかくとして特徴的なルーフ形状が放棄されていたという点で話が少しだけ別だし、同時に〝粋〟というテーマにマッチしてるからだ。

text:嶋田智之 [aheadアーカイブス vol.163 2016年6月号]

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vol.47 敢えて選ぶ 大人のための911「ポルシェ 911 タルガ」

vol.47 敢えて選ぶ 大人のための911「ポルシェ 911 タルガ」

初めて登場したのは1967年、いわゆるナロー時代のこと。ポルシェは356の頃からオープンモデルを生産し続けていたが、かの時代に安全性が取り沙汰されるようになると、安全性と爽快感を両立できるモデルを作ろうと考えた。

Bピラーが強固なロールバーとして機能し、ルーフ上部を取り外すことでオープンエアを楽しめる、いわゆるタルガ・トップの誕生である。

911タルガはアメリカ市場を中心にして大きな人気を得て、いわゆるビッグバンパーとも930とも呼ばれる時代になっても、964へと進化しても、シルバーに鈍く輝く極太のBピラーを持ったその姿はずっとラインアップされていた。

1981年にフルオープンのカブリオレがラインアップされ、本来ならお役御免になるはずだったにも関わらず、である。

クーペは911の高性能を楽しむための車体構造。カブリオレは華やかさと大いなる開放感を味わうための車体構造。タルガはそのどちらでもない。中途半端な存在だ。Bピラーのおかげで、911本来のルーフラインが損なわれてもいる。

けれど、そこに〝粋〟があった。カブリオレの登場以降は販売も激減したが、それでもライン落ちしなかったのは根強い人気があったからだ。〝どちらでもない〟は〝どちらでもある〟。

普段は硬いトップを固定したまま911としてのテイストをほどほどには楽しみたい。気が向けばトップを外して爽快なオープンエアを味わいたい。けれど、派手に装ってワル目立ちはしたくない。

そこには総てを理解した上であえて選ぶという成熟したチョイスがあり、ひけらかさずに自分達の楽しみを謳歌しようという嗜みがある。酸いも甘いも知った大人のための911なのだ。そこにある抑制と遊び心のバランス感を〝粋〟といわずして何という?

タルガは993から997までの3世代はルーフ全面がグラストップとなるスライディングルーフとなり、それはそれで独特の心地よさはあったけれど、本来のタルガらしいテイストは失われていた。

そして991で、またあの様式美とすらいえるBピラーが電動開閉式ルーフの仕組みを持って復活した。佳きモノは佳きモノ。時を遡ってまでそれを認めるポルシェというメーカーは、だからファンの心を掴んで放さないのだ。

ポルシェ 911 タルガ

ルーフの一部を取り外し(あるいは収納し)てオープンエアを楽しめるスタイルのことを“タルガ・トップ”というが、それはポルシェ911タルガに由来する呼称。

“タルガ”というのはポルシェに縁の深いシチリア島の公道レース、タルガ・フローリオにちなんだ名称だ。その名はナロー時代から現行のタイプ991までほぼ絶え間なくカタログに記されているが、993、996、997については大型のスライド式グラスルーフへと姿を変えていた。

991では象徴的な太いBピラーが復活。ポルシェが“タルガの精神性”まで再生させたことを、ファンは大いに喜んだ。

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text:嶋田智之/Tomoyuki Shimada
1964年生まれ。エンスー系自動車雑誌『Tipo』の編集長を長年にわたって務め、総編集長として『ROSSO』のフルリニューアルを果たした後、独立。現在は自動車ライター&エディターとして活躍。
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