排ガス規制違反問題をちゃんと理解するための10の質問

アヘッド 排ガス規制

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今年の9月末に突然報道されたフォルクスワーゲンによる排ガス規制の違反問題。当初は不正の起きたアメリカだけで収束すると思う向きもあったのですが、対象車両が全世界で1,100万台に及ぶという大問題に発展してしまいました。

text:清水和夫 [aheadアーカイブス vol.156 2015年11月号]
Chapter
Q1 そもそも「NOx」っていったいなに?
Q2 ディーゼルエンジンはガソリンエンジンに比べてどうして燃費が良くなるの?
Q3 「三元触媒」ってなにをする部品?
Q4 ディーゼルエンジン用の触媒の種類は?
Q5 「EGR」を使えば良いって聞いたんだけど?
Q6 「室内テスト」ってどんなことをやるの?
Q7 「ディフェートデバイス」ってなんのこと?
Q8 ソフトを作った「ボッシュ」の責任は?
Q9 どうしてヨーロッパで販売するクルマにも不正プログラムを入れてしまったの?
Q10 なぜメルセデスやBMWは大丈夫?
最近になってアメリカに続き、ヨーロッパでも対象となるエンジンを使用したクルマの販売禁止命令が出されたものの、問題解決の糸口は未だに不鮮明な状態です。

日本の正規ディーラーで販売されたフォルクスワーゲン車は、問題のエンジンを一切搭載していないので、これからも堂々と安心して乗ることができます(←ここ重要!!)が、この問題の行く末は気になるところでしょう。

報道されている内容を正しく理解するため、常に国際的見地でクルマを評価する自動車評論家の清水和夫さんに現時点で疑問に思う10の質問に答えて頂きました。

Q1 そもそも「NOx」っていったいなに?

空気中には78%も窒素が含まれているから、ガソリンエンジンでもディーゼルエンジンでも完全燃焼すると窒素と酸素がくっついて窒素酸化物=NOxが作られる。

これは光化学スモッグの原因となり、喘息など健康被害が生じる。カリフォルニア州での大気汚染が発端となり、排ガス規制が世界で初めて制定された。日本では昭和53年から規制が始まっている。

Q2 ディーゼルエンジンはガソリンエンジンに比べてどうして燃費が良くなるの?

燃料に含まれる炭素量がガソリンよりも軽油の方が多いのと、空気だけを圧縮して燃やすので、ポンピングロスと呼ばれる吸入抵抗が少ない。さらに一般的なディーゼル(マツダは例外)では圧縮比が高いので、効率がよくなる。ディーゼルの特徴は燃費がよい→CO2が少ない→しかしNOxが発生しやすい、となる。

Q3 「三元触媒」ってなにをする部品?

ガソリンエンジンでもNOxは作られるが、三元触媒という優秀なNOxの掃除機があるので、どんどん浄化してくれる(連続して浄化可能)。この触媒は燃料と空気の比率が1対14.7でしか使えない。薄く燃やすディーゼルはこの三元触媒が使えないのが辛いところ。

Q4 ディーゼルエンジン用の触媒の種類は?

ディーゼルでNOxを浄化できる触媒は二つ。ともにNOxを貯めてから浄化する。一つは白金を使ったリーンノックス触媒。白金に吸着したNOxに燃料を濃く噴いて還元する(NとOを分離)ので燃費が悪くなる。

もう一つは尿素(アンモニア水)を使用した尿素方式。尿素方式はアンモニア水を噴くから、定期的にアンモニア水が入ったカートリッジ式タンクを交換するのでコストが掛かる。

Q5 「EGR」を使えば良いって聞いたんだけど?

燃焼の段階でNOxの生成量を抑えることができるのがEGRだ。排気ガスをシリンダー(エンジン内)に戻すと燃焼温度が下がり、NOxの生成を90%近く低減できる。しかし、EGRを多く使うと性能と燃費に悪影響がでる。

Q6 「室内テスト」ってどんなことをやるの?

排ガス試験を高精度で行うために作られた試験設備を使用したテスト。床にローラーがあり、実際にタイヤを回転させて走行をシミュレーションする。クルマは固定されて動かず、ハンドル操作も行われない。だからコンピューターにこれはテストだと教えることが可能だった。

Q7 「ディフェートデバイス」ってなんのこと?

室内テストでは排ガス浄化装置を正しく機能させ試験をパスさせるが、実際の走行では浄化装置をキャンセルする機能のこと。排ガス浄化装置は走りと燃費を悪くするので、二重のプログラムを用意するのがディフェートデバイスだ。日本語では「無効化機能」と呼ばれている。もちろん法律で禁じられている。

Q8 ソフトを作った「ボッシュ」の責任は?

コンピューターソフトを作ったのはボッシュだが、ディーフェートデバイスは法令違反であると自動車会社側に通告していたらしい。そういう意味で法律的には白だが、道義的な責任は残るだろう。ディフェートデバイスは法令違反どころか、ユーザーを欺くことになることを知らないわけがないからだ。

Q9 どうしてヨーロッパで販売するクルマにも不正プログラムを入れてしまったの?

今回の事件の最大のなぞが、2008年以降欧州で販売していた2リッターと1.6リッターのディーゼル車に不正が見つかったことだ。当時の排ガス規制のユーロ5なら、簡単にクリアできたはずだ。アメリカは排ガス規制が非常に厳しかったので不正を働いてしまったけれど欧州では何故? という疑問が残る。

Q10 なぜメルセデスやBMWは大丈夫?

今回アメリカで調査した結果、規制値通りのクリーンなディーゼル車も多数確認できた。とくにBMWやメルセデスなど3リッターのディーゼル車はコストをかけて作っているので、問題はない。もちろん日本で人気のマツダはそもそも触媒がないので、まったく問題はない。

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text:清水和夫/Kazuo Shimizu
1954年生まれ。自動車の運動理論・安全技術・環境技術などを中心に多方面のメディアで執筆し、TV番組のコメンテーターやシンポジウムのモデレーターとして多数の出演経験を持つ。近年注目の集まる次世代自動車には独自の視点を展開し自動車国際産業論に精通する。
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