埋もれちゃいけない名車たち vol.51 歴史とパワーを放つ小型車「ランチア・Y(イプシロン)」

アヘッド ランチア・Y(イプシロン)

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つい先日まで1週間少々、ローマの街に滞在していた。慌ただしい取材の旅だったが、1年半ぶりのイタリアであらためて感じたのは、小さいクルマ強し!である。感覚的には、走ってたり路上駐車したりしてるクルマの半分以上がスモールカーなのでは?と思えたほどだった。

text:嶋田智之 [aheadアーカイブス vol.167 2016年10月号]
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vol.51 歴史とパワーを放つ小型車「ランチア・Y(イプシロン)」
ランチア・Y(イプシロン)

vol.51 歴史とパワーを放つ小型車「ランチア・Y(イプシロン)」

何せ地元のドライバーにはダイナミックかつアグレッシブな運転をする人が多いし、路上駐車文化であるがゆえ、停められる場所をようやく見つけたと思っても、そのスペースはうんざりするほど狭い。そういう過酷な交通環境の中にあると、車体の小ささというのは何よりの正義なのだ。

だから、歴代フィアット・パンダやチンクエチェントのような小さなクルマが重宝がられる。そして、それらの中でいい意味での異彩を放って見えるスモールカーがある。ランチア・イプシロンである。

ランチアというブランドはFCAグループの中にあって最近では消滅が危惧されている存在だが、元々は素晴らしく上質で素晴らしく上品なクルマを作る、高級車メーカーであった。

同じグループの高級車ブランドとしてマセラティがあるけれど、華やかでやや油ののったマセに対し、ランチアは本来、もう少し高貴で格式が高く、もう少し渋味のある大人のブランドだった、といえるだろう。

イプシロンは、歴代ランチアの中で最もコンパクトなラインである。

初代がデビューしたのは、1994年。同じグループのフィアット・プントのプラットフォームに、伝統的なランチアのテイストが各所に散りばめられた、他のコンパクトカーとは一線を画す個性的かつ高級感のあるスタイリングと、デザイン性が極めて高く、素材も含めて上質で洒落たインテリアが組み合わせられていた。

ボディカラーはオプションも含めれば100色を超え、インテリアもアルカンターラや本革など豊富に用意され、それらの無数に近い組み合わせの中から自分好みのイプシロンを作り上げることができた。もちろん装備類もブランド名に恥じない豊かといえるものが用意されていた。

どういうことかといえば、小さなクルマ達にありがちな小型車の悲哀のようなものがどこにもなく、〝裕福じゃないから仕方なく選ぶ〟小型車ではなく〝小さいことに加えて他にしっかりした価値があるから積極的に選ぶ〟小型車というポジショニングを作り上げたのだ。

それが支持され、ヒット作となった。世界的なプレミアム・コンパクトカーの先駆けになったクルマともいえる。

小型車は、自分が気に入って乗っていても、周りからはヒエラルキーの下の方に置かれがち。そういう外野の小煩い視線をあっさり跳ね返して小さいことそれ自体を楽しめるチカラを、イプシロンは持っていた。これが歴史と伝統のパワーなのだ。

ランチア・Y(イプシロン)

イプシロンは、それまでのY10の後を継ぐスモール・ランチアとして1994年にデビューした。主要コンポーネンツは同じグループのフィアット・プントをベースにするが、ファミリー向けのフィアットと異なり、こちらはエクステリアやインテリアのデザインに凝りに凝るなど、明らかにプレミアム性を帯びたパーソナルなスモールカーとして企画されたもの。

とりわけ都市部に住む20代や30代の若い層を中心に支持を得て、ヒット作となった。その後、2002年に第2世代へ、2011年に第3世代へと発展。今やラインアップに唯一残されたオリジナル・ランチア、である。

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text:嶋田智之/Tomoyuki Shimada
1964年生まれ。エンスー系自動車雑誌『Tipo』の編集長を長年にわたって務め、総編集長として『ROSSO』のフルリニューアルを果たした後、独立。現在は自動車ライター&エディターとして活躍。
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