埋もれちゃいけない名車たち vol.55 わがままを継承させる「シトロエン・C6」

アヘッド シトロエン・C6

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自動車の世界で他と掛け離れたモノやコトを貫き通すのは、相当に困難だ。スタイリングの方向性であってもメカニズムであっても、一風変わったクルマというのはこれまで無数に誕生したが、ほとんどが一代限りで、なかなか継続されない。モデルチェンジの後には唖然とするほどのコンサバ路線へと宗旨替え、なんていうのは珍しくも何ともない。

text:嶋田智之 [aheadアーカイブス vol.171 2017年2月号]

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vol.55 わがままを継承させる「シトロエン・C6」
シトロエン・C6

vol.55 わがままを継承させる「シトロエン・C6」

車両開発や製造過程の構築に凄まじいコストを要するのが自動車なのだから、多くの人の支持を得て一定以上の数が売れない限り、経営的には大打撃だからだ。損失の規模が違う。

だが、タフな自動車メーカーというのも存在する。シトロエンは〝わがまま〟、つまり自分達の正義とその主張を延々と貫き通してきた。

シトロエンは昔から〝アヴァンギャルド〟と評されてきた。スタイリングひとつにしても、2CVのような大衆のための道具であろうがDSのような量産型高級車であろうが、他のメーカーではあり得ない突飛といえるデザインを世に送り出してきた。

メカニカルな面でも、ミドル・クラス以上のクルマには通常の金属スプリングとショック・アブソーバーの代わりに空気圧と油圧を利用するハイドロニューマティック(後にハイドラクティブ)と呼ばれるサスペンションを、1950年代から進化させながら採用し続けてきた。

構造がえらく複雑でコストもかさむハイドロをヤメなかったのは、「魔法の絨毯のよう」と表現されるほどの、夢見心地になれる快適な乗り心地を一貫して提供し続けるためだった。

突飛なスタイリングにハイドロ・サス。そのふたつを併せ持った〝現時点で〟最後となるモデルは、2005年から2012年まで作られたフラッグシップ・サルーン、C6だろう。

コンサバ上等なこのクラスにあって、ここまで柔らかい方向に凝ったデザインがなされたクルマは他に存在しない。ハイドロの乗り味も素晴らしく洗練されていて、笑っちゃうほど快適だった。個人的には今も欲しいと感じてる1台でもある。

C6以降もハイドロ装備のモデルが生産されているが、2015年に〝近い将来ハイドロは廃止〟とアナウンスされた。確かにバネのモデルでも乗り心地は抜群といえるところまで開発は進んで来てるけど……。それにラインアップ全体がスタイリングはコンサバ方向。2014年に特徴的なC4カクタスが発表されたけど、一代限りだろう。少なからぬ人に愛された〝らしさ〟もそろそろ終焉か。そう感じた時期もあった。

ところが昨年、量産小型ファミリーカーである新型C3のキャラの濃さを見て驚いた。ハイドロに代わる超快適な新型サスの開発も進んでると聞く。やはりシトロエンはシトロエン。気持ちよーく〝わがまま〟を通してくれるわけだ。素晴らしい!

シトロエン・C6

C6は2005年に発表されたシトロエンの大型フラッグシップ・サルーン。1998年発表の“C6リナージュ”という、CXやSMといったかつての名車へのオマージュを感じさせつつも未来的といえる姿をしたコンセプトカーを、市販に向けてリデザインしたものだ。

サスペンションにはハイドラクティブ3プラスと呼ばれるハイドロ系の最新版を採用、広い室内や出来のいいシートもあって、最高に快適な乗り心地を実現していた。エンジンはでしゃばらない性格だが、街中で不足を感じることはなく、高速巡航は得意中の得意だった。現在のところ後継モデルは生まれていない。

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text:嶋田智之/Tomoyuki Shimada
1964年生まれ。エンスー系自動車雑誌『Tipo』の編集長を長年にわたって務め、総編集長として『ROSSO』のフルリニューアルを果たした後、独立。現在は自動車ライター&エディターとして活躍。
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