ヤマハMTシリーズの動的質感
更新日:2024.09.09
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「バイクはただのマシーンではない。単に人間が乗る機械ではなく、そこに人間が使う道具としてのうるおいを持たせたい。言わば人と道具をもっと親密に結びつけたい」というのはヤマハ初の量産市販車と知られるYA-1('55年)のデザインを手がけ、その後も数々のモデルに携わった故憲司氏の言葉である。
text:伊丹孝裕 photo:長谷川徹 [aheadアーカイブス vol.174 2017年5月号]
text:伊丹孝裕 photo:長谷川徹 [aheadアーカイブス vol.174 2017年5月号]
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- ヤマハMTシリーズの動的質感
ヤマハMTシリーズの動的質感
常に求めていたのは、人とバイクが一体になった時に生命が吹き込まれ、快楽がもたらされる「人機一体」の感覚だ。ここで言う快楽とは自然界のあらゆる事象を五感で感じることを指す。
そのため、ヤマハのバイクには視覚から得られる躍動感や聴覚がもたらす高揚感、触覚として伝わってくる鼓動感など、体のあらゆる部分を刺激する要素が込められている。
それらはいずれも静的な状態のままでは不完全であり、走り出した時に、つまり動的な状態になってこそ完成する、という概念がヤマハには根づいている。
もちろん、それはレーシングマシンさながらのスピード域に限ったことではなく、引き締められた筋肉を思わせるボディラインやコーナーでの軽やかな振舞い、まるで会話が弾むように意志疎通が図れるエンジンレスポンス…というような感性の領域も含む。
数値では表せないそうした性能はYA-1の時からすでに意識されていたもので、現在も変わらない。国産4輪メーカーの間で最近使われるようになった、いわゆる「動的質感」へのこだわりをヤマハは創業当初から持ち合わせていたのである。
よく言われる「デザインのヤマハ」あるいは「ハンドリングのヤマハ」という評価の出発点もそこにある。単に見た目の華やかさやシャープな運動性を意味しているわけではないということを、ヤマハ車に乗ったことがあるライダーなら肌感覚として知っているに違いない。
そのため、ヤマハのバイクには視覚から得られる躍動感や聴覚がもたらす高揚感、触覚として伝わってくる鼓動感など、体のあらゆる部分を刺激する要素が込められている。
それらはいずれも静的な状態のままでは不完全であり、走り出した時に、つまり動的な状態になってこそ完成する、という概念がヤマハには根づいている。
もちろん、それはレーシングマシンさながらのスピード域に限ったことではなく、引き締められた筋肉を思わせるボディラインやコーナーでの軽やかな振舞い、まるで会話が弾むように意志疎通が図れるエンジンレスポンス…というような感性の領域も含む。
数値では表せないそうした性能はYA-1の時からすでに意識されていたもので、現在も変わらない。国産4輪メーカーの間で最近使われるようになった、いわゆる「動的質感」へのこだわりをヤマハは創業当初から持ち合わせていたのである。
よく言われる「デザインのヤマハ」あるいは「ハンドリングのヤマハ」という評価の出発点もそこにある。単に見た目の華やかさやシャープな運動性を意味しているわけではないということを、ヤマハ車に乗ったことがあるライダーなら肌感覚として知っているに違いない。
■MT-10 SP
車両本体価格:¥1,99,8000(税込)
エンジン:直列4気筒DOHC
総排気量: 997cc
最高出力:118kW(160ps)/11,500rpm
最大トルク:111Nm(11.3kg)/9,000rpm
現在、そんな動的質感を最も高いレベルでバランスさせているモデルがMTシリーズだ。'14年に登場したMT-09(845cc 3気筒)を皮切りに、MT-07(688cc 2気筒)、MT-25(249cc 2気筒)、MT-03(320cc 2気筒)と続々とラインアップを拡大。先頃そこにフラッグシップのMT-10 SP(997cc 4気筒)が加わり、ひとつの完成形に到達した。
排気量もエンジン形式もそれぞれ異なるものの、スロットルを開けた時の力強さや俊敏なレスポンス、それらがリヤタイヤに伝わった時のトラクションを想像させる共通の佇まいがあり、ごくシンプルに言えば「またがってみたい」と思わせる魅力が詰まっている。
そういう意味でネイキッドでもストリートファイターでもツアラーでもなく、それでいてそのいずれにも成り得るジャンルを構築。単にアップハンドルを装着しただけでも、単にカウルを取り去っただけでもない独特の存在感は世代を超えて幅広く支持され、2輪から離れていた人をも引き戻した。
そしてハンドリングにもヤマハらしさがある。それを端的に示しているのがパワーよりもトルクを重視したスペックだ。ピークパワーを求めていくとエンジンはどんどんピーキーになり、操作にも走行ラインにも余裕がなくなる。特にコーナリング中は神経を擦り減らすことになるため、そこからの立ち上がりを優先した方が効率的で安全で楽しい。MTシリーズに限らずヤマハは常にそう考える。
それを実行するには車体に高い安定性と素直な旋回性が必要であり、それがあればスペックを持て余しながら走るバイクを横目に素早くスロットルを開けて立ち上がることができる。そのために導き出された答えが過渡特性に優れたトルクフルなエンジンだった。
自由度の高いコーナリングのために確保されたトルクは目に見えないが、それを活かすために仕立てられた旋回力の高さは傍目にも分かりやすい。いつしか「ハンドリングのヤマハ」と呼ばれるようになった所以である。ハンドリングと聞けばディメンションやフレームが注目されがちだが、実はそれ以前にトルクが大いに貢献していたのだ。
数値で示すことができるピークパワーとは異なり、過渡特性やハンドリングはライダーの感覚に依るところが大きい。しかし数値か感覚かの選択が必要になった時にヤマハは往々にして感覚を取る。理想のハンドリングを作るためのレシピは、そうやって引き継がれ、MTシリーズの語源にもなった「マスター・オブ・トルク(トルクを支配する)」というコンセプトでひとつの極みを見せた。
走り出せば、スロットルを開けたぶんだけ湧き起こってくる独特の爆発フィーリングの中でライダーとバイクはシンクロしていく。ヤマハが求めてきた人機一体の意味がそこに込められている。
車両本体価格:¥1,99,8000(税込)
エンジン:直列4気筒DOHC
総排気量: 997cc
最高出力:118kW(160ps)/11,500rpm
最大トルク:111Nm(11.3kg)/9,000rpm
現在、そんな動的質感を最も高いレベルでバランスさせているモデルがMTシリーズだ。'14年に登場したMT-09(845cc 3気筒)を皮切りに、MT-07(688cc 2気筒)、MT-25(249cc 2気筒)、MT-03(320cc 2気筒)と続々とラインアップを拡大。先頃そこにフラッグシップのMT-10 SP(997cc 4気筒)が加わり、ひとつの完成形に到達した。
排気量もエンジン形式もそれぞれ異なるものの、スロットルを開けた時の力強さや俊敏なレスポンス、それらがリヤタイヤに伝わった時のトラクションを想像させる共通の佇まいがあり、ごくシンプルに言えば「またがってみたい」と思わせる魅力が詰まっている。
そういう意味でネイキッドでもストリートファイターでもツアラーでもなく、それでいてそのいずれにも成り得るジャンルを構築。単にアップハンドルを装着しただけでも、単にカウルを取り去っただけでもない独特の存在感は世代を超えて幅広く支持され、2輪から離れていた人をも引き戻した。
そしてハンドリングにもヤマハらしさがある。それを端的に示しているのがパワーよりもトルクを重視したスペックだ。ピークパワーを求めていくとエンジンはどんどんピーキーになり、操作にも走行ラインにも余裕がなくなる。特にコーナリング中は神経を擦り減らすことになるため、そこからの立ち上がりを優先した方が効率的で安全で楽しい。MTシリーズに限らずヤマハは常にそう考える。
それを実行するには車体に高い安定性と素直な旋回性が必要であり、それがあればスペックを持て余しながら走るバイクを横目に素早くスロットルを開けて立ち上がることができる。そのために導き出された答えが過渡特性に優れたトルクフルなエンジンだった。
自由度の高いコーナリングのために確保されたトルクは目に見えないが、それを活かすために仕立てられた旋回力の高さは傍目にも分かりやすい。いつしか「ハンドリングのヤマハ」と呼ばれるようになった所以である。ハンドリングと聞けばディメンションやフレームが注目されがちだが、実はそれ以前にトルクが大いに貢献していたのだ。
数値で示すことができるピークパワーとは異なり、過渡特性やハンドリングはライダーの感覚に依るところが大きい。しかし数値か感覚かの選択が必要になった時にヤマハは往々にして感覚を取る。理想のハンドリングを作るためのレシピは、そうやって引き継がれ、MTシリーズの語源にもなった「マスター・オブ・トルク(トルクを支配する)」というコンセプトでひとつの極みを見せた。
走り出せば、スロットルを開けたぶんだけ湧き起こってくる独特の爆発フィーリングの中でライダーとバイクはシンクロしていく。ヤマハが求めてきた人機一体の意味がそこに込められている。
■MT-25
車両本体価格:¥523,800(税込)
エンジン:直列2気筒DOHC 4バルブ
総排気量:249cc
最高出力:27kW(36ps)/12,000rpm
最大トルク:23Nm(2.3kgm)/10,000rpm
車両本体価格:¥523,800(税込)
エンジン:直列2気筒DOHC 4バルブ
総排気量:249cc
最高出力:27kW(36ps)/12,000rpm
最大トルク:23Nm(2.3kgm)/10,000rpm
■MT-09 ABS
車両本体価格:¥1,004,400(税込)
エンジン:直列3気筒DOHC 4バルブ
総排気量:845cc
最高出力:85kW(116ps)/10,000rpm
最大トルク:87Nm(8.9kgm)/8,500rpm
車両本体価格:¥1,004,400(税込)
エンジン:直列3気筒DOHC 4バルブ
総排気量:845cc
最高出力:85kW(116ps)/10,000rpm
最大トルク:87Nm(8.9kgm)/8,500rpm
■MT-07 ABS
車両本体価格:¥760,320(税込、ABS)
エンジン:直列2気筒DOHC 4バルブ
総排気量:688cc
最高出力:54kW(73ps)/9,000rpm
最大トルク:68Nm(6,9kgm)/6,500rpm
車両本体価格:¥760,320(税込、ABS)
エンジン:直列2気筒DOHC 4バルブ
総排気量:688cc
最高出力:54kW(73ps)/9,000rpm
最大トルク:68Nm(6,9kgm)/6,500rpm
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text:伊丹孝裕/Takahiro Itami
1971年生まれ。二輪専門誌『クラブマン』の編集長を務めた後にフリーランスのモーターサイクルジャーナリストへ転向。レーシングライダーとしても活動し、これまでマン島TTやパイクスピーク、鈴鹿八耐を始めとする国内外のレースに参戦してきた。国際A級ライダー。
text:伊丹孝裕/Takahiro Itami
1971年生まれ。二輪専門誌『クラブマン』の編集長を務めた後にフリーランスのモーターサイクルジャーナリストへ転向。レーシングライダーとしても活動し、これまでマン島TTやパイクスピーク、鈴鹿八耐を始めとする国内外のレースに参戦してきた。国際A級ライダー。