ひこうき雲を追いかけて vol.57 父と子

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この仕事をしているとたくさんの父と子に会う機会がある。特にレースの世界では、父と息子が、役割は違っても同じ舞台で活躍していることが多い。有名どころで言えば中嶋 悟と中嶋一貴、星野一義と星野一樹だろう。

text:ahead編集長・若林葉子 photo:長谷川徹 [aheadアーカイブス vol.172 2017年3月号]
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vol.57 父と子

vol.57 父と子

中嶋 悟氏には昔、まさに「父と息子」というテーマでインタビューをしたことがある。ダカールラリーで闘う菅原義正と菅原照仁とはどちらともにしているし、平手晃平の父は市井の人だが、この二人の親子関係も興味深い。

レース自体が完全なる男性の世界であるだけに、父と子の関係が端的に表れるのかも知れない。
私はなぜか〝父と息子〟に弱い。そこには母との間にはない、また父と娘の間にもない複雑で厳しい関係性が内包されていると感じるからだ。

一般的に女性というものはそもそも感情的で、〝共感〟をベースにフラットな人間関係を築こうとする。対して男性は論理的に考え、ルールを重視し、ヒエラルキーを形成する、と言われている。良い悪いは別として、現代の社会は男性性の産物なのである。

だから、この社会で生きていくためには父親(あるいは父親的役割を担う人)の存在はやはり大きな意味を持つ。

菅原義正の長男の義治は若い頃、カーデザイナーを目指しており、イタリアの著名なデザイナーの元で働きたいという夢を持っていた。父親はその方面に多くのつてがあることを知っていたから、彼は父に「誰か紹介してください」と頼んだ。

菅原の答えはこうだった。「イタリアへの渡航費も向こうでの当面の生活費も全て出してやるから、毎日、その会社の前を掃除するなりしたら良い。そのうち声を掛けてくれる人もいるだろう」

つまりは助けてはやるが自力で何とかしろということだ。つてはあったが、菅原はそれを使うことはしなかった。

義治はそれを聞いて、自分はそこまではできないと思ったそうである。しかし彼は自分なりの方法でデザイナーの夢を掴み、約30年後、日本を代表するデザイン会社のひとつ、GKダイナミックスの社長になった。

父と息子ということを考えるとき、私はいつもこの話を思い出す。

愛情と厳しさ。私の知る多くの男性が、人生で何か難しいことにぶち当たったとき、いつも「親父ならどうするだろう」と考えるそうだ。息子はいつも父の背中を見ている。だから父は人生から簡単には逃げられない。

今号では土屋武士さんに登場いただいた(継承 父と子の闘い 土屋武士)。結果的に壮大なる父と子の物語に触れることになり、私自身、深い感銘を受けた。ときには息子の指針となり、ときには大きな壁となって息子の前に立ちはだかる父。

読者の皆さんも多くが息子であり父であろう。だいたい男性はこういうことは胸に秘め、ぺらぺらとしゃべったりはしないものだ。この記事が〝父と息子〟について考えるきっかけになってくれたらうれしい。

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text:若林葉子/Yoko Wakabayashi
1971年大阪生まれ。Car&Motorcycle誌編集長。
OL、フリーランスライター・エディターを経て、2005年よりahead編集部に在籍。2017年1月より現職。2009年からモンゴルラリーに参戦、ナビとして4度、ドライバーとして2度出場し全て完走。2015年のダカールラリーではHINO TEAM SUGAWARA1号車のナビゲーターも務めた。
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