ローマラリーを制した日本人とチンクエチェント

アヘッド ローマラリー

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9月15日から17日にかけてイタリアのローマを拠点に開催されたヨーロッパ・ラリー選手権"ラリー・ディ・ローマ・カピターレ"、通称ローマ・ラリーで、日本のチームが優勝を果たした。

text:嶋田智之 photo:山本圭吾、mCrt [aheadアーカイブス vol.179 2017年10月号]
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ローマラリーを制した日本人とチンクエチェント

ローマラリーを制した日本人とチンクエチェント

ドライバーは全日本ラリー選手権のJN3クラスでチャンピオンを獲得している眞貝知志選手、マシンはアバルト500R3Tである。

チームは2015年の全日本ラリー選手権でアバルト500R3Tを走らせ、グラベル(未舗装)戦を全てスキップしながら最後までチャンピオンを争った「mCrt(ムゼオ・チンクエチェント・レーシングチーム)」。

オーバーオールではなくRC3クラスでのクラス優勝であるが、日本人ドライバーがヨーロッパ選手権のラリーで勝ったのは、2013年に新井敏弘選手がルーマニアでのプロダクション・カップで優勝して以来である。

日本で活躍しているトップ・ドライバーが海外──とりわけヨーロッパでのラリーに参戦してポンと勝てないのには、理由がある。まず、日本と較べてポピュラーな競技なので、ドライバーの層の厚さが圧倒的に違う。

そして──こちらの方が難易度を高めているのだが──競技における走行環境、つまり道路の設計のあり方、舗装の質や路面の保全状態といった道路の基本的なコンディション、そしてアベレージ・スピードなどが全く異なっている。

特にローマ・ラリーは、今回の眞貝選手のパートナーを務めたベテランのイタリア人コドライバー、ダニーロ・ファッパーニ選手に「イタリアのターマック(舗装路)ラリーのコースでは一番(走行環境の)難易度が高い」といわせるほど。

それを実証するかのように今年はクラッシュが続出、SSはその影響で2つキャンセルになり、最終的には出走した45台のうちの28台しか完走できなかった。

完走したマシンの中にも、アクシデントの痕跡を残したものが少なくなかった。サバイバル戦なのだ。スピードがなければ勝てないが、絶妙に抑制を利かせる能力に欠けていても勝てないのである。
眞貝選手も昨年の初挑戦ではローマ近郊の山岳地帯の道の難しさに苦しみ、丘でジャンプをしてクルマを傷め、涙を飲んだ。

今年のコースは昨年以上の難易度で、やっぱり思うようにアジャストしきれず、競技中、表情は優れなかった。最後に笑みを浮かべたが、それは「応援してくださった様々な方の気持ちを裏切ることなく完走できたことへの安堵が大きかったから」なのだそうだ。

とはいえ、参戦2年目、ヨーロッパでのラリー出走3回目にしてのこのリザルト、それもSSでのRC3クラスでのトップタイムを2回叩き出してのクラス優勝というのは、充分に賞賛に値すると思う。

しかも根本的な問題として、アバルト500R3Tは、今やマシン・パフォーマンス的には圧倒的に不利なのだ。

文字どおり日進月歩な競技車両の中にあってアバルト500は7年も前のマシンであり、ライバルとなったDS3R3Tより60‌ps近くパワーが小さく、トヨタGT86R3やルノー・クリオR3のように最新のシャシーを持つわけでもない。mCrtと眞貝選手が参戦2年目にしてこれ以上ない立派な結果を手にしたのは、紛れもない事実なのである。

が、そもそもなぜ不利を承知でアバルト500で参戦するのか。mCrtの伊藤精朗代表に訊ねてみた。

「僕達はチンクエチェント博物館を母体にするレーシングチームで、フィアットやアバルトが好きな人達の集合体。アバルトが競技を走れるクルマを開発してくれたからモータースポーツ活動をはじめたんです。

だから大前提として、同じようにフィアットやアバルトが好きな人達と夢を共有できないと、やる意味がない。ちょうどそんなとき、日本国内の2輪駆動のターマック戦では敵がいなくなり、海外への挑戦が視野にあった眞貝くんが加わって、眞貝くんもアバルトに魅了された。

そして活動を続けてきた中でアバルト本社をはじめとする様々な人達の協力でヨーロッパで戦える環境が整って、去年(2016年)から挑戦を開始した。そういう経緯があるんです。

単に日本を踏み台にして片道切符で海外で結果〝だけ〟を追うのではなく、クルマの楽しみ方の選択肢を広げられるような経験や知識を僕達が海外で学び、日本に持ち帰って実践し、還元することを目的に活動を続けています。多くのプロ・チームとはスタンスが違うかも知れませんね」
mCrtは来年も、最も華やかで最も困難な究極のステージと捉えているローマ・ラリーに参戦するという。ただし、マシンはアバルト124ラリー、クラスをR-GTへスイッチしての新しい挑戦だ。

mCrtはWEBやFacebookで常に情報を発信してるので、彼らのさらに困難な挑戦を、皆さんも一緒に見守り、楽しんでいただきたい。

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text:嶋田智之/Tomoyuki Shimada
1964年生まれ。エンスー系自動車雑誌『Tipo』の編集長を長年にわたって務め、総編集長として『ROSSO』のフルリニューアルを果たした後、独立。現在は自動車ライター&エディターとして活躍。
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