空気とゴムを使わないタイヤの未来

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東京モーターショーで見たグッドイヤーのブースは、独特の世界観を漂わせていた。ブースの外観はまるで宇宙船。宇宙空間を模した内部では、次世代月面探査車が月面を探査する様子が再現されていた。

text:世良耕太 [aheadアーカイブス vol.110 2012年1月号]
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空気とゴムを使わないタイヤの未来

空気とゴムを使わないタイヤの未来

▶︎グッドイヤーとNASAが協力して造り上げたスプリングタイヤは、2010年の「世界の技術発明ベスト100」に選出された。これは革新技術発明のオスカー賞とも言われるもので、スプリングタイヤの技術がいかに先進的であるのかが分かる。


その次世代月面探査車用に開発したタイヤがブースの主役。目を凝らして観察すると、編み込んだ金属でタイヤを形作っていることがわかる。その名もスプリングタイヤ。ゴムを使ったタイヤとは色も質感も異なるし、そもそも空気が入っていない。大気が存在しない月面専用だからと決めつけてはいけない。地球上で使用するタイヤの姿さえも変えてしまうポテンシャルを秘めているのだ。

グッドイヤーは1971年にアポロ14号が月面探査を行った際、NASAの依頼を受けて、月面探査車のタイヤを開発した。月面では昼夜の温度差が300℃にも達するので、ゴムでは耐えることができない。そこで、金属を使って弾力性を持たせたタイヤを開発した。

2007年、グッドイヤーに再びNASAから依頼があった。次の宇宙計画のためにタイヤを開発してほしいという内容である。要求はさらに過酷。次世代月面探査車は重量がアポロ計画時の10倍で、走行距離も10倍以上(2000〜1万km)を見込んでいるというのである。

グッドイヤーは、初代ムーンタイヤのレプリカを製造することから開発に着手した。性能を進化させるには、原点を知ることが大事だからだ。初代ムーンタイヤのレプリカから得られた知見を元に開発したのが、東京モーターショーに展示してあった次世代ムーンタイヤだ。

初代と同じようにゴムを使用せず、金属でタイヤに求められる機能を満たさせた点は変わりない。だが、構造に大きな違いがある。初代はピアノ線で作ったメッシュを金属の棒を束ねたトレッドでカバーし、それを金属のフレームで支える構造だった。一方、次世代ムーンタイヤは800本のスプリングを放射状に組み合わせただけのシンプルな構造。すでにジョンソン宇宙センターのテストコースで試験が実施されており、満足のいく結果を残しているという。

この次世代ムーンタイヤのどこが、未来のタイヤを暗示しているのか。それは、空気を使わなくても、タイヤとして成立してしまう点。ゴム製空気入りタイヤは1ヵ所でもダメージを受けて空気が漏れると、走行機能を失ってしまう。ところが、スプリングタイヤは一部のスプリングが損傷しても、走り続けることができる構造になっている。もちろん、空気漏れの心配はない。

月への飽くなき探求心が、空気の要らない革新的なタイヤを生みだそうとしている。

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text:世良耕太/Kota Sera
F1ジャーナリスト/ライター&エディター。出版社勤務後、独立。F1やWEC(世界耐久選手権)を中心としたモータースポーツ、および量産車の技術面を中心に取材・編集・執筆活動を行う。近編著に『F1機械工学大全』『モータースポーツのテクノロジー2016-2017』(ともに三栄書房)、『図解自動車エンジンの技術』(ナツメ社)など。
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