公道を走らないスーパーカー

アヘッド FERRARI FXX(2005)

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最初に「えっ?」と思わされたのは、2005年のこと。さすがにコレはキビシイでしょ……という大方の予想を覆し、すんなり完売しちゃったからだ。そのクルマは、フェラーリFXX。エンツォをベースにして、1155㎏の車体に800ps。29台限定で、価格は2年間の走行プログラムや各種メンテナンスなどがパッケージとなり、150万ユーロと超高額。しかも公道走行はできないと断言されていたのだ。完売には本当に驚かされた。

text:嶋田智之 [aheadアーカイブス vol.177 2017年8月号]
Chapter
公道を走らないスーパーカー
FERRARI FXX(2005)
FERRARI 599XX(2009)
FERRARI FXX K(2014)
McLAREN P1 GTR (2015)
ASTON MARTIN VULCAN AMR Pro (2017)
LAMBORGHINI SESTOELEMNTO(2010)

公道を走らないスーパーカー

それに類する超高価格スーパーカーは、他にもある。

FXXの後継として2009年に登場した599XXは、599GTBがベースで1345㎏に700ps。限定30台の130万ユーロ。さらにその後継の2014年デビューのFXX Kは、ラ・フェラーリをベースにした1050psのハイブリッドマシンで、32台限定の250万ユーロ。

フェラーリの永遠のライバル、ランボルギーニでは、2010年にセストエレメントというモデルを販売。こちらは570psと控えめ(?)だが、車重が999㎏という凄まじい軽さを誇る。20台限定で200万ユーロ。

FERRARI FXX(2005)

FERRARI 599XX(2009)

FERRARI FXX K(2014)

F1の世界でもフェラーリと戦うマクラーレンには、2015年発表のP1 GTRというモデルがある。1490㎏の車体にエンジン+モーターで1000ps。約40台を受注し、198万ポンド。

そしてそれ3社ともある意味ライバル関係にある、アストンマーティン。2015年に発表されたヴァルカンというモデルがあり、1360㎏に832ps。24台のみで、180万ポンド。

まだ他にも幾つかあるけれど、こうしたモデルの共通項は何かといえば、公道を走ることを全く前提とせずにパフォーマンスのみを追求したクローズド・コース専用車、ということ。

そして、いずれもほとんど即時完売で、それに加えて購入には〝ベースになったクルマを所有してること〟〝自社のブランドのスペシャルモデルをこれまでに数台購入していること〟みたいな条件があり、金さえ払えばいいんだろ? が一切通じないこと。

McLAREN P1 GTR (2015)

ASTON MARTIN VULCAN AMR Pro (2017)

つまり、2億円だ3億円だという大枚を用意しても買えない人は買えないし、買えたとしてもドレスをまとった美女を乗せて海岸線を……なんてことはできないわけだ。もちろんクルマの成り立ちとしても、それどころじゃないのだけど。

なのに、なぜ人気が……?

こうした高額なクローズド・コース専用車の面白いところは、一部を除けばコレクターズアイテムとしてではなく、オーナーが実際にサーキット走行を楽しむために購入するケースが多いことだ。

いずれも競技の車両規定には縛られず、ひたすらスピードを、速さを追求しているモデルだから、何らかのレースに出るということはできないが、代わりに並みのレーシングカーを軽く凌ぐパフォーマンスを味わえる。

一部を除けばメーカー主導による走行プログラムもたっぷり用意されていて、プロのドライバー同様に走行データをエンジニアが分析して改善すべき点の指摘やラップタイムを縮めるための提案がなされたり、プロドライバー達にレクチャーを受けたりすることもできる。

クルマそのものにも途中からアップデート・パッケージが用意され、さらにパフォーマンスを引き上げた状態での走行も楽しめる。
フェラーリの〝XXプログラム〟に至っては、オーナー・ドライバー達の走行データを市販車開発に役立てると明言しており、開発ドライバーとしての誇りを持てるという〝特権〟も味わえる。そもそもこれら一連のクルマを購入できることそのものが、選ばれた人物であることの証、ある種の特権なのだけど。

何より重要なことは、こうしたクルマはそれぞれのブランドがその時点で持つスピードにまつわるテクノロジーを余すところなく注ぎ込んだ究極的マシンであり、一般のスーパーカー・ユーザーからすると雲の上のさらに上にあるパフォーマンスと随の随を煮詰めたような濃厚なテイストを満喫できることだろう。

スピードに魅せられたドライバーにとって、操縦することが好きで堪らないドライビング・マニアにとって、そのブランドを愛するクルマ好きにとって、これほど琴線を刺激するものはないだろう。

もちろんこれらのクルマのオーナーとなる人達は他に何台もスーパーカーを所有し、様々なシチュエーションで乗っておられるのだろうが、やはり行き着く先はクルマ好きにとってのピュアな世界、ということなのか。

僕もスーパーカーは大好きだが、仮に彼らのような経済力を持っていたとしても、ここには行けそうにない。何せ雑念が多過ぎて。

LAMBORGHINI SESTOELEMNTO(2010)


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text:嶋田智之/Tomoyuki Shimada
1964年生まれ。エンスー系自動車雑誌『Tipo』の編集長を長年にわたって務め、総編集長として『ROSSO』のフルリニューアルを果たした後、独立。現在は自動車ライター&エディターとして活躍。
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