SPECIAL ISSUE 母と子とクルマ 被害者にも加害者にもならないために

相変わらず小さな子どもが犠牲になる交通事故は後を絶たない。世の中から交通事故がゼロになることは現実的ではないのかもしれない。それでも、限りなくゼロに近づけるための努力を私たちはしなければならない。ハンドルを握る1人の大人としての心構えはもちろんであるが、子を持つ親として何ができるかも同時に考える必要があるかもしれない。子どもが被害者にも加害者にもならないために何ができるか。2人の母と共に考えてみた。

text:まるも亜希子、岡小百合、若林葉子 photo:長谷川徹 (人物) [aheadアーカイブス vol.183 2018年2月号]

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母と子とクルマ 被害者にも加害者にもならないために

母と子とクルマ 被害者にも加害者にもならないために

アヘッド 母と子とクルマ

若林:1月に兵庫県で起こった「横断歩道を歩いていた5歳の男児がクルマにひかれて亡くなった」という事故の報道があったけど、それだけじゃなくて交通ルールを守っていた子どもが犠牲になる事故は多いでしょう? いったいどうしたら、そういう事故は無くなるんだろう。

私たちにできることはなんなのだろう。そんな想いで頭がいっぱいになったとき、思い出したのが母親でありジャーナリストである岡さん、まるもさんだったの。

:それはありがとう(笑)。うちの娘2人はもう免許を取るくらい大きくなったけど、無事にここまでこられたのは奇跡に近いことなんだわって、そういう報道を耳にするたびに感じてる。「一歩間違えば……」っていう瞬間は、やっぱりあったものね。

まるも:ほんとにそうですね、自分の過去を思い返しても。日本の交通安全教育って、まずは「交通ルールを守りましょう」から始まって、ルールを正しく知ることと、それを徹底することが安全につながります、みたいな風潮がまだまだ根強いじゃないですか。

でも実際は、そうじゃない。歩行中に交通事故で亡くなった人の約40%は、ルールを守っていた人だったというデータもあるくらい(平成28年中における交通死亡事故について/警察庁交通局発表)。ヨーロッパあたりだと、交通ルールはあるけどそれ以上に自己責任というか、状況判断能力が求められているような印象があるよね。

外国人が日本に来て、クルマが1台も通らないのに横断歩道の赤信号を守って止まっている日本人を見て驚いた、という話も聞きますよね。

若林:日本人だって、ルールを守っているだけじゃダメだと気づいてはいると思うけど、じゃあどうすればいいのかという議論や声がなかなか上らないよね。

:子どもの交通安全教育については、とくにそう。一昨年、バイクの免許を取ったときにね、教習の中で右直事故と左折巻き込み事故のシミュレーションがあったの。

教官が運転するバイクの後ろに乗って、実際にクルマが走って来て「おおっと!」なんてやってくれるんだけど、これはすごく実践的だなと思った。子どもに教えるときにも、ただ「青で渡りましょう」っていうんじゃなくて、もし黄色や赤で渡ったらどんな危険が起こるのか、実際にシミュレートしてあげないとダメよね。

言葉やイラストだけじゃなくて。失敗は成功の母とはよく言ったもので、勉強でも習い事でもなんでも、怖い思いをしたり恥ずかしい思いをしたことって、絶対に身になるじゃない。交通安全教育だって、そこからだと思うのよ。

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若林:確かに、「危ない」ということを教えるだけじゃなくて、なぜ危ない状況になってしまったのか、その先にどんな悲惨な事態が待ち受けているのか。以前に取材したトヨタ市交通安全学習センターでは、そのあたりがよくできているなと感心したんだけど、通常の授業などでそこまではなかなかやってないだろうね。

まるも:そうなんですよね。うちは娘がもうすぐ3歳になるところで、まだ私の言うことを聞かずに突飛な行動に出ることが多くて…。どういう教え方をすれば危険な目に遭わない行動を取らせることができるのか、まさにこれからが正念場なんです。

娘には、「信号が青でもクルマやバイクが来るかもしれないから、左右を見ずに渡るんじゃないよ」とか、「もしクルマが来てたら歩行者優先なんて油断しないで、ちゃんと運転手の目を見て判断するように」とか、やっぱり交通ルール+自己判断能力をつけてあげたい。岡さんは、娘さんにどんなことを教えてましたか?

:私はね、交通社会の中でいちばん〝憎いモノ〟ってのがあって。それが「無灯火のクルマと自転車」なの。今なんて、無灯火の自転車とすれ違ったりすると注意しちゃうもん。「ほら、ライトライト」って。

若林・まるも:うわ〜、怖っ(笑)。でも尊敬!

:なぜそうなったかっていうとね、自分も若い頃、ライトを点けるのを忘れがちで。しかも当時の日本はスモールライトで走るとか、信号待ちの時は対向車が眩しいからライトを消すとか、そんな感じだったのよね。

でも編集部(『NAVI』)に入って、それはおかしいという教育を受けて。

ライトは自分が見えるかどうかよりも、対向車が眩しいかどうかよりも、周りから見やすいかどうか、ぶつからない・傷つけないことの方が大事なんだから、ちゃんと点けなさいと言われてね。

まるも:やっぱり一流はちがうわぁ〜。うち(『ティーポ』)なんて「ライトはカッコいいかどうか。以上」みたいな感じだったような(笑)。

:だから歩行者でもまず「人から認識されやすくすること」ってのがすごく重要なんだと。それを娘たちにもけっこう徹底して教えたの。子どもって視野が狭いでしょう。

でもそれを「あなたたちは視野が狭いから」って教えたってよくわからないじゃない。だからとにかく周りからちゃんと見てもらえるように、なるべく派手な色の服を着せるとか、傘とか持ち物も目立つ色を持たせるとかね。もう、センスは二の次。親が一緒に出かける時はいいけど、一人で出かける時はなんでも派手な色にしてたよね。

まるも:確かに、黄色や白の明るい色の服を着た人は、夜でも運転手から約38〜50m先の距離で視認できるけど、黒や紺色だと約26〜30mまで短くなってしまうというデータが内閣府のホームページにありました。

:それに横断歩道で手を挙げるというのも、どうして挙げる必要があるのかってことを3歳くらいから教えたの。周りの人や運転手に「あ、この人は渡るんだな」とちゃんとわかってもらうためなんだってね。

だから手を挙げるだけじゃなくて、手を振ってもいいし踊ってもいいから、とにかく見てもらえと。ほんとに踊ってたけど(笑)。

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若林:かわいいね〜。小さな子どもは運転手が見逃しがちだから、やっぱり目立つのは大事。最近はリフレクターもいろんな色やデザインが増えてて、それを着けてると黒い服でも視認性が60〜130mくらいまで確保されるんだよね。

私はもう、家族をはじめいろんな人にプレゼントしてる。母なんてまだ自転車に乗るから、あちこちにいっぱいリフレクター着けてる(笑)。

まるも:私も娘の持ち物とか上着とか、ベビーカーにも着けてます。でも、自転車ってもう標準でリフレクターが着いてるのに、どうしてベビーカーには最初から着いてないのかがすごく不満。夜にベビーカーで出かけるような親はいない、っていう考えなのか? って疑っちゃう。

若林:まぁそれは、親が一緒だからクルマには気をつけるだろうとか、わざわざベビーカーに着けなくても、ってことなんじゃない?

まるも:そうなんでしょうね。ベビー用品は赤ちゃんの快適性とか、体に無害という意味の安全性、親の使い勝手の面は素晴らしいんだけど、交通社会での安全性に関してはけっこう不満が多くて。

例えばチャイルドシートも、ベルトを締めるバックルのはめやすさは素晴らしいんだけど、どんなにギュッとベルトを締めていても、赤ちゃんって体が柔らかいから、気がつくと自分でクネクネと腕とか肩をよじって抜け出ちゃってることがあるの。

運転中にミラーで確認して「まさか!」って目を疑って。慌てて路肩に停めて締め直すんだけど、しばらくするとまた抜けてる。ママがひとりで子どもを乗せて運転している時に、それほど怖いことはないですよ。

ベルトの締めやすさばっかりで、抜けないようにするための対策は手薄で、これじゃチャイルドシートの意味ないよって、愕然としたのを覚えてます。

:なるほどね〜。ベビー用品メーカーの人は、たくさんのママの意見を聞いて商品化に活かしてるんだと思うけど、きっとそこまで想像力のあるママっていうか、交通安全の面での意見が言えるママって、まだまだ少ないんじゃないかな。平気でチャイルドシートも着けずに乗せてる親だって見かけるし、膝に抱っこしてる親も多いでしょう。

たまたま私たちはこういう仕事をしてきたから気づけるし、実感としてわかると思うんだけど、私だってそうじゃなければ締めやすいだけで満足しちゃうかもしれないしね。今のところ、メーカーの自助努力とかに頼らなければいけない、ってなっちゃうのがすごく悔しいんだけど。

若林:そういう安全面をしっかりしても、使いにくかったり値段が高かったりすると、結局は売れなくてそれもまた意味がないってことになりかねないし。

まるも:ただ、何年後かにはちょっと変わってくるかもしれないな、という希望もあって。というのは、私たちって自分はチャイルドシートに座って育ってない世代じゃないですか。

でもこれからは、生まれたときからチャイルドシートでした、っていう世代が社会に出てくる。うちの娘も産院を出る時からチャイルドシートに乗せてるから、いったいどんな風に育つのかと楽しみにしてたんだけど、最近はクルマが停車中でも「ベルトして!」って怒ったり、ちょっとでもゆるいと「ママ、もっとちゃんと締めてよ」なんて言うようになって。

もう、しっかりベルトを締めていないとダメな体になってるんです。この感覚は、私たちの世代とは雲泥の差だなと。そういう感覚で育った大人が、商品の安全性を考えるようになったら、きっと変わってくると思うんですよね。

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●Sayuri Oka
自動車雑誌『NAVI』で編集者として活躍したのち、フリーランスに。現在は主に自動車にまつわるテーマで執筆活動を行っている。成人した2人の娘の母親でもある。

:うんうん、うちの娘たちもチャイルドシートで育ってるから、まだ後席のシートベルトが義務化される前から、何にも言わなくても自分で締めてたわ。慣れってすごいよね。

でもさぁ、子どもが泣きわめいたりすると、中には「かわいそうだから」ってチャイルドシートから降ろしちゃう親もいるじゃない? お爺ちゃんお婆ちゃんが甘かったり。まるもさんはそういう時、どうしてるの?

まるも:自分だけの時は、オムツ汚れとか暑いとかお腹が空いたとか、そういう原因があれば停めますけど、そうじゃなければ心を鬼にしてそのまま走ってますね……。いっぱい話しかけたり、歌を唄ったり、ジュースとかお菓子でなだめたりしながら。

でも甥っ子や姪っ子だと、私がいくらダメだと言ってもパパ・ママが「そこまでして乗せなくてもいいじゃない」なんて感じだったりしますよね。

そういう時は、じゃあ一度クルマを停めようって言って、抱っこなり授乳なり落ち着くのを待って、また走り出すということを何度もしました。

:そうなのよね、自分の子ならいくらでも厳しくできるんだけど、これから幼稚園とか行き始めるでしょう? そうするとね、また難しいのよ。遊びに行って、お友達のクルマで送ってもらうなんてことになっても、そのクルマにチャイルドシートが5個も6個も着いているはずがなく。「チャイルドシートがないならけっこうです」って断れる?

逆にうちのクルマで送ることになった時、自分の子だけチャイルドシートに乗せるのもどうか……? ってことになるわけなのよ。

若林:いや〜、それは悩ましい。違反と知りつつ乗せてしまうか、それともお友達のママにチャイルドシートの重要性を説いて、納得してもらうか。

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●Akiko Marumo
カーライフエッセイスト。本誌「Letter from Mom」の連載を持つ。もうすぐ3歳になる一人娘を持つ現役バリバリの母親でもある。

まるも:できれば頑張って説得したいけど、相当大変でしょうね……。いっそのこと我が家のミニバンには、チャイルドシート5個くらい用意しておこうかなぁ(笑)。

若林:(笑)。でもそこは、そうやって見せていくことが大事かもね。このぐらいちゃんとしないと危険なんですよって。自動車メーカーのウェブサイトやユーチューブなんかでも、クラッシュシーンを流してたりするじゃないい? それを幼稚園や学校でも、子どもや父兄に見てもらうとかね。

:そうそう。私は産院でやってもらえないかなと思ってるの。ほら、退院するまでに母乳の出し方とか産後の体のケアとか、いろいろ教えてくれるじゃない。その時に、チャイルドシートの重要性についても教えてくれたらいいのにって。

まるも:それはいい!

:もう退院の時にチャイルドシートを貸し出してくれるところは出てきてるからね。

若林:そうなんだ。じゃあ、お上からのお達しが出たりすると、一気に広まる可能性はありそう。あとね、岡さんに聞きたいのは、子どもが大きくなるにつれて、被害者じゃなくて加害者になってしまう可能性も出てくるでしょう。

:そうね。うちの娘は2人ともMT免許を取らせたんだけど、表向きはね、うちにはマニュアル車しかないから、それが乗りたいならMTで取りなさいって。

でも私の目論見としては2つあって、ひとつはね、MT車の方が運転にちゃんと集中して丁寧に操作するようになるから。ATだと運転操作が簡単な分、ひとつひとつの操作の意味とか重要性が希薄になっている気がするのね。

まるも:なるほど、確かにMT車ってボーッとしてたら運転できないですよね。常に周囲の動きとかに集中してないと。

:そう。あともうひとつはね、MT車に乗ってると、周りの子はAT免許ばっかりだから、運転を替われないのよ。若い子ってけっこう気軽にクルマ貸しちゃったりするじゃない。

でもMT車だと他の子に運転させることもできないから、そういう危険は減るかなって。その代わり、誰かを乗せればその責任を負うことになるんだけど。

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●Yoko Wakabayashi
本誌編集長。相変わらずのひとり身だが、小学4年生と2年生の甥っ子がいる。子どもが犠牲になる事故の報道を聞くたび、どうしたら、子どもが被害者にも加害者にもならないで済む社会になるだろうと考え込んでしまう。

若林:そうですね。子どもが大きくなると、今度は、加害者にならないために何を教えるべきか、という視点も重要になってきます。実際に、最近は自転車が歩行者をはねてしまった、というような報道も頻繁に聞かれるようになりました。親としてはそのことも考えなくてはならないわけです。

:実は、娘が事故を起こしたことがあるの。運転中に。信号に気づかずに交差点を渡ってしまって別のクルマと衝突してしまったの。

若林:そんなことがあったんですか。

:現場に駆け付けて、誰にもケガがないとわかった後、相手の方に一緒に謝って。それから猛烈に叱りましたよ、娘を。どれだけの大人に迷惑をかけたか、分かっているか、と。お相手がバイクや自転車や歩行者だったら、命を奪うことになっていたかもしれない。そうしたらどうやって償うつもりだったのか! などとも。

それ以来、体調が優れない時はもちろん、気持ちが穏やかでない時にも、絶対にハンドルを握らせないようにしているの。成人してはいるけれど、まだまだ未熟。

社会経験もないし、大した責任がとれるわけでもない。そういう我が子を交通社会に送り出す親として、我が子を再び加害者にさせないため、なおかつ被害者にならないためにも、それが私の責任のひとつではないか、と。

若林:子どもを被害者にも加害者にもしないためには、それぞれの家庭で親がしっかり信念を持って教育することが第一歩なんですね。

まるも:そうですね。私も一人の母としてしっかり頑張らなくては。

:そうよ〜。うちなんて、周りから見てもらえるようにしなさい、目立つようにしなさいって言い続けたおかげで、今でも髪は金髪よ(笑)。

まるも・若林:(笑)

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