夏休みの思い出と、親子電気レーシングカート教室

子どもの頃に親子でどこかに出かけた記憶がほとんどない。母親と夏休みに祖母の田舎へ出かけたりすることはあったが、父親となるとこれが本当に思い出せない。

text:ahead編集長・若林葉子 [aheadアーカイブス vol.190 2018年9月号]

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夏休みの思い出と、親子電気レーシングカート教室

夏休みの思い出と、親子電気レーシングカート教室

アヘッド 夏休みの思い出と、親子電気レーシングカート教室

高度経済成長のピークは過ぎ、第一次オイルショックや円高不況の影響はあったものの、まだまだ経済は成長するという前提で社会は動いていたし、男は外で働くものという固定観念に疑問を呈する人も少なかったと思う。

金物屋を営んでいた我が家も土曜日はいわゆる半ドンで日曜日だけがお休み。お盆と正月に短い連休を取るだけで、家族旅行などは考えられなかった。ひとクラスにサラリーマン家庭は1人か2人という特殊な環境ゆえ、周りの友だちも似たようなものだった。

代わりに、親は忙しいがいつでもそばにいた。配達に行く父の助手席に乗ることも多かったし、母の隣で邪魔をしながら、従業員の昼食を作るのをよく手伝った。包丁の研ぎ方、クギの打ち方、のこぎりの使い方は父から教わった。

だからと言って、いま、DIYに勤しむかといえば全くそんなことはない。それでも、例えばクルマのオイルを変えたり、タイヤ交換をしたり、ラリー用のクルマの改造を手伝ってクルマの下に潜ったりということが嫌じゃないのは、もしかしたら父のおかげかもしれないと思ったりする。たまに研石を出して包丁を研いでいると、ふんわりと亡くなった父の存在を感じることがある。

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前置きが長くなったが、なぜこんな話をするかというと、この夏、2人の甥っ子と一緒に、日本EVクラブが主催する「ストップ! 温暖化。親子電気レーシングカート教室」に参加したからだ。正確には、父と子で参加してもらった。

私は見学である。親子で参加する「親子○○教室」などのイベントは探せば今は山ほどあるが、昔は、親が子に教えることはあっても、親子で一緒になって何かを教えてもらうなんて機会はそんなにはなかったはず。いい時代になった。

この教室は今回が2度目。筑波サーキット コース1000で開催するのは初の試みである。なぜコース1000かというと、子どもたちが組み立てを手伝ったレーシングカートをサーキットで試乗するからだ。さらには親子でEVスーパーセブンに乗ってサーキットを走るからだ。

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子どもたちの教材となるのは「kids ERK」(子ども用電気レーシングカート)。レーシングカートのシャシーにモーターとバッテリーを搭載したエレクトリックレーシングカートで、最高出力は3kW(4馬力)。大人用は18kW(24馬力)とエンジンカートを上回る。筑波サーキット コース2000で片山右京がドライブし、1分04秒を記録したというから速い!

配布されたテキストと実車を見ながら、まずはその構造を学ぶ。シンプルであるがゆえにクルマの基本を知るには最適だ。組み立てのまえににちょっとした作業を体験する。

配線用ケーブルの端っこのビニールをカッターで切って剥がし、端子用に圧着。ケーブルがとても太いので、圧着するのも一苦労だ。お父さんやお母さんに手伝ってもらいながら、「えいっ」と力を込める。

うまくできたら感電防止にビニールテープを巻き付ける。そしてシャシー以外のパーツを自分たちで組み立ててゆく。

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取り付けるタイヤの空気圧を測るのもきっとみんな初めての経験だろう。エアゲージをきちんとエアバルブに圧着しないと空気がもれてうまく測れない。タイヤを取り付ける際も軸に対してまっすぐにタイヤを嵌めて、固定しながらボルトを回す。

最後は工具でしっかりと増し締め。「ここが緩んでたらどうなる?」 「タイヤが外れちゃう」 親子のそんな会話も聞こえてくる。

コントローラーにPCをつないで、モーターの出力調整を実演してくれたのは面白かった。最高出力や出足の鋭さの変化などを、実際にタイヤの回る速度で理解する。2020年度から小中学校で義務付けられたコンピュータ・プログラミングを先取りした形だ。

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午後はいよいよ組み立てたレーシングカートの試乗である。カートに初めて乗る子どもたちの安全面に配慮して、予め最高速は調整されている。全員、長袖長ズボン。初めてのヘルメットだから、自分にあったサイズを選ぶのも一騒動。手には軍手をはめる。

「右がアクセル、左がブレーキ。アクセルを踏むときはブレーキは必ず離す。ブレーキを踏むときはアクセルを必ず離す。アクセルとブレーキを同時に踏まないようにね」と教えられて、電源をオンにする前に何度か練習を繰り返し、いよいよ出走だ。

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みな最初は緊張した面持ちだけど、慣れてくると表情が緩んで笑顔が見える。

興奮冷めやらぬうち、今日のハイライト、「親子でEVスーパーセブン」の時間がやって来た。お母さん、またはお父さんが運転席に乗り、子どもは助手席へ。静かに風を切ってスーパーセブンが駆け抜けてゆく。緩やかなGを受けて、髪をなびかせ、子どもたちはみんな大きく手を振ってくれる。

今の時代にEVが求められている意味や、自動車の仕組みなどを知ることも大切だけど、将来、EVカーが主流になったとき、親子の幸せなひとときを思い出してくれたらいいなと思う。


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text:若林葉子/Yoko Wakabayashi
1971年大阪生まれ。Car&Motorcycle誌編集長。
OL、フリーランスライター・エディターを経て、2005年よりahead編集部に在籍。2017年1月より現職。2009年からモンゴルラリーに参戦、ナビとして4度、ドライバーとして2度出場し全て完走。2015年のダカールラリーではHINO TEAM SUGAWARA1号車のナビゲーターも務めた。

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