”No Sharp Edge” エンケイの感触力
更新日:2024.09.09
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ーホイールが大好きで、大好きであるがゆえに手間も時間も惜しまずにひたすらに仕事に没頭する。これはホイールを愛しすぎた男たちの物語りである。
text:伊丹孝裕 photo:STUDIO ROOKY [aheadアーカイブス vol.188 2018年7月号]
text:伊丹孝裕 photo:STUDIO ROOKY [aheadアーカイブス vol.188 2018年7月号]
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- エンケイの感触力
エンケイの感触力
国内総生産量第1位、グローバルマーケットでも第2位の規模を誇る世界屈指のアルミホイールメーカーがエンケイだ。
国内外のグループ企業を併せると現在27社、9450人超の従業員から成り、'17年のホイール総生産本数は2400万本に到達。また、それを支えるアルミ鋳造技術をエンジンやフレーム製造といった他分野のパーツにも活かしている。
つまりその規模はとてつもなく大きいわけだが、やっていることは普通じゃないほど細かい。それを象徴するのが「NSEゲージ」である。
NSEとは〝No SharpEdge〟を略したものだ。
端的に言えば「尖っていないかどうか」を測るためのゲージで、マイスターと呼ばれる社内の有資格者が常にそれを携帯している。
測る対象はもちろんホイールである。ホイールにはリム、ディスク(スポーク)、センターハブなど様々な部位があるが、そのすべてがなめらかになっているかどうか。その判断基準になるのがNSEゲージというわけだ。
とはいえ、例えばマイクロメーターやダイヤルゲージのように絶対的な数値が表示されるツールではない。見た目は全長30㎜ほどの直方体に過ぎず、そこには目盛も単位もない。ただ四隅に、レベルを意味するL2/L3/L4/L5と記してあるだけだ。
国内外のグループ企業を併せると現在27社、9450人超の従業員から成り、'17年のホイール総生産本数は2400万本に到達。また、それを支えるアルミ鋳造技術をエンジンやフレーム製造といった他分野のパーツにも活かしている。
つまりその規模はとてつもなく大きいわけだが、やっていることは普通じゃないほど細かい。それを象徴するのが「NSEゲージ」である。
NSEとは〝No SharpEdge〟を略したものだ。
端的に言えば「尖っていないかどうか」を測るためのゲージで、マイスターと呼ばれる社内の有資格者が常にそれを携帯している。
測る対象はもちろんホイールである。ホイールにはリム、ディスク(スポーク)、センターハブなど様々な部位があるが、そのすべてがなめらかになっているかどうか。その判断基準になるのがNSEゲージというわけだ。
とはいえ、例えばマイクロメーターやダイヤルゲージのように絶対的な数値が表示されるツールではない。見た目は全長30㎜ほどの直方体に過ぎず、そこには目盛も単位もない。ただ四隅に、レベルを意味するL2/L3/L4/L5と記してあるだけだ。
実はこれ、その角の曲率や面の処理が微妙に異なっている。そう言われ、注意深く触ってみてようやく(まぁ、そうかも)と思う程度なのだが、レベルの数字が増えるほど滑らかになっていく。
確かにL2のあとですぐL5部分を触ればなんとなく差があることは分かる。しかし、L4とL5の違いを区別するのは難しい。目をつぶって当てられたならそれはたまたまである。
もちろんマイスターならそんなことはない。工場からラインオフした製品を手に取り、触診して、理想のレベルを満たしているかどうかを確認していくのだ。
もしもその時、L5になっているべき箇所がL4だと判断すれば専用のツールで研磨することになるのだが、実際の指摘はもっと細かい。L4とL5の間ならL4.5、ややL4寄りならL4.3。そういう極めて繊細な感覚を磨くためのツールなのである。
もっとも、こうしたレベルは図面で指示されているわけではない。原料になるアルミを溶解し、鋳造・スピニング・熱処理・切削加工・エア漏れ検査・バランス取りといった過程を経てカタチになった時点で設計上の品質はすでにクリアしているからだ。
確かにL2のあとですぐL5部分を触ればなんとなく差があることは分かる。しかし、L4とL5の違いを区別するのは難しい。目をつぶって当てられたならそれはたまたまである。
もちろんマイスターならそんなことはない。工場からラインオフした製品を手に取り、触診して、理想のレベルを満たしているかどうかを確認していくのだ。
もしもその時、L5になっているべき箇所がL4だと判断すれば専用のツールで研磨することになるのだが、実際の指摘はもっと細かい。L4とL5の間ならL4.5、ややL4寄りならL4.3。そういう極めて繊細な感覚を磨くためのツールなのである。
もっとも、こうしたレベルは図面で指示されているわけではない。原料になるアルミを溶解し、鋳造・スピニング・熱処理・切削加工・エア漏れ検査・バランス取りといった過程を経てカタチになった時点で設計上の品質はすでにクリアしているからだ。
▶︎水色のワッペンは"マイスター"の称号を持つ検査員が胸に付けているもの。「Always Keep Smile」はエンケイの仕事に対する姿勢を示すワッペン。仕事に向かう気持ちが製品のクオリティのみならず、職場の空気を作り、作業の安全にも繋がると考え、このワッペンを社員が腕に付けている。
つまり、マイスターによる点検や修正はクオリティコントロールの観点から言えば必要のないもので、コストの観点から言えば当然不利に働く。しかしエンケイは頑なにそれを守っているのである。なぜか?
その答は「だってその方が気持ちいいじゃないですか。良いホイールとは表面がなめらかなホイールのことを言うんですよ」というごくシンプルなものだ。普通の人はホイールを手触りで判断したりはしないし、それによって塗装の仕上がりがよくなるわけでもない。
しかし、それがたったひとりのユーザーだとしても「エンケイのホイールはなにかいい」と感じてもらうことに意義を見出している。エンケイからホイールを大量に購入する自動車メーカーからすれば、「そんなことよりもコストを下げてほしい」という要求もあるに違いないが、それに応え始めると塗装すら不必要ということになりかねない。
そのため、ここから先は譲ないという絶対的な基準を高いレベルで設けているのだ。
少々手間が掛かっても、ユーザーのことを思っての信念なら巡り巡ってそれがプラスに働くこともエンケイは知っている。例えば鋳造で成形したリム部分をスピニングと呼ばれる製法で鍛えながら引き伸ばす手法を取り入れているが、最初からその形に鋳造していれば本来必要のない工程だ。
しかし、それがより軽量高剛性なホイールを生み出すという直接的なメリットのみならず、伸ばすことによって原材量が少なくて済み、品質が向上するため検査ではねられる割合も格段に減少するといった副産物的な価値が生まれたのだ。
近視眼的には遠回りに見えても還ってくるモノがあるということ。NSEゲージのそれがなにかはまだ誰にも分からないが、その姿勢こそが〝One StepForward〟、つまり「先へ一歩踏み出し、未来を切り拓く」という社是そのものなのだ。
モノ作りに対して誠実であること。NSEゲージはそういう姿勢を磨くためのツールでもあり、その強い思いがエンケイの製品に高い付加価値と競争力をもたらすのである。
その答は「だってその方が気持ちいいじゃないですか。良いホイールとは表面がなめらかなホイールのことを言うんですよ」というごくシンプルなものだ。普通の人はホイールを手触りで判断したりはしないし、それによって塗装の仕上がりがよくなるわけでもない。
しかし、それがたったひとりのユーザーだとしても「エンケイのホイールはなにかいい」と感じてもらうことに意義を見出している。エンケイからホイールを大量に購入する自動車メーカーからすれば、「そんなことよりもコストを下げてほしい」という要求もあるに違いないが、それに応え始めると塗装すら不必要ということになりかねない。
そのため、ここから先は譲ないという絶対的な基準を高いレベルで設けているのだ。
少々手間が掛かっても、ユーザーのことを思っての信念なら巡り巡ってそれがプラスに働くこともエンケイは知っている。例えば鋳造で成形したリム部分をスピニングと呼ばれる製法で鍛えながら引き伸ばす手法を取り入れているが、最初からその形に鋳造していれば本来必要のない工程だ。
しかし、それがより軽量高剛性なホイールを生み出すという直接的なメリットのみならず、伸ばすことによって原材量が少なくて済み、品質が向上するため検査ではねられる割合も格段に減少するといった副産物的な価値が生まれたのだ。
近視眼的には遠回りに見えても還ってくるモノがあるということ。NSEゲージのそれがなにかはまだ誰にも分からないが、その姿勢こそが〝One StepForward〟、つまり「先へ一歩踏み出し、未来を切り拓く」という社是そのものなのだ。
モノ作りに対して誠実であること。NSEゲージはそういう姿勢を磨くためのツールでもあり、その強い思いがエンケイの製品に高い付加価値と競争力をもたらすのである。
▶︎いわゆる"バリ"取りの工程は、かなりの部分が機械化されているが、最後は人の手に委ねられている。写真下のサイコロが「NSEゲージ」感覚に頼らざるを得ない滑らかさの尺度をなんとか共有できないものか、と考え出された。検査員は常日頃、このゲージの四隅のエッジを指で触って、感覚を磨いている。また作業に携わる人にも一目で自分の作業の結果が分かるように、リザルトとして数値を示している。求められている訳ではない高みにまで、コストと時間を掛けて製品のクオリティをあげるのは、「ホイール屋の矜持」であるとともに、結果としてそれが未来の競争力につながることを、これまでの経験によって分かっているからでもある。
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text:伊丹孝裕/Takahiro Itami
1971年生まれ。二輪専門誌『クラブマン』の編集長を務めた後にフリーランスのモーターサイクルジャーナリストへ転向。レーシングライダーとしても活動し、これまでマン島TTやパイクスピーク、鈴鹿八耐を始めとする国内外のレースに参戦してきた。国際A級ライダー。
text:伊丹孝裕/Takahiro Itami
1971年生まれ。二輪専門誌『クラブマン』の編集長を務めた後にフリーランスのモーターサイクルジャーナリストへ転向。レーシングライダーとしても活動し、これまでマン島TTやパイクスピーク、鈴鹿八耐を始めとする国内外のレースに参戦してきた。国際A級ライダー。