ミニカーを愛しすぎる専門店 アイアイアド・カンパニー

アヘッド ミニカーを愛しすぎる専門店 アイアイアド・カンパニー

※この記事には広告が含まれます

耳を澄ませば、あちこちからヒソヒソ話が聞こえてくる。新入りもやってくるが、何十年もの間、じっとガラスの向こうを見守っている者もいる。運命の出逢いを待ち続けているのか、それとも安住の地を得たりとのんびりしているのか。覗き込めば、ウインクを返してくれそうだ。

text:まるも亜希子 photo:長谷川徹 [aheadアーカイブス vol.182 2018年1月号]
Chapter
ミニカーを愛しすぎる専門店 アイアイアド・カンパニー

ミニカーを愛しすぎる専門店 アイアイアド・カンパニー

そんな妄想さえ浮かんでくるここは、東京・銀座の一角にあるミニカー専門店、アイアイアド・カンパニー。妄想の中でひそひそ話をしているのは、所狭しと並んだ小さなクルマたちである。

店主の増田定治さんは、ミニカーの達人としてこの道で知らぬ人はいない。クルマたちを見る目には優しさがにじみ、言葉の端々から普通のミニカー屋さんとはなにかが違うと感じさせる。

店内には何個くらいのミニカーがあるのかという問いにも、「もう、よく分からないんです。何万、って数があることは確かだと思うんだけど」と笑う。
絶版で、とくに希少価値の高いミニカーたちは、箱から出して透明なフィルムに包まれた上で、ガラスケースの中に収まっている。店舗のすぐ前を通る首都高からの粉塵で、ミニカーが傷んでしまうことに気づいてから、この保存方法にたどり着いたという。

「最初は箱ごと入れられるクリアケースをわざわざ作ってたんだけど、それでも少しずつ傷むんですよ。だからフィルムで包むようにしたんです。ミニカー専用ってわけじゃないけど、なるべく透明度の高いものを探してきてね。最初は1個1個くるむのも面倒だったんだけど、もう慣れちゃいました」

普通のミニカー屋さんと違うと感じるのはこんなところだ。仕事と割り切っているなら、古いものが傷んでいくのは当然だし、コストと手間をかけてまでそれを食い止めようとはしないだろう。でも増田さんはどんなに古いミニカーも、できる限り良い状態を保とうとあれこれ世話をやく。
「もう、良心的なペットショップみたいなものだよね。情がうつると売りたくなくなっちゃうし」と、自身でも分かっている。そこでガラスケースの中の貴重な1台を指差し、もし私みたいな客がこれを買いたいと言ったら心配ですよね? と聞いてみた。

「そうですねえ。この先も大切にしてくれるかどうか、気を揉むかもしれませんねえ」

ペットショップというより、まるで娘を嫁に出す父親のようである。増田さんがネットショップではなく実店舗にこだわるのもそうした理由からだ。まったくの新品ならまだしも、絶版品になると実際に手に取って状態を見てから買いたい、と思うもの。そして売る側もミニカーの将来をその買い手に託すような気持ち。だから実店舗は言わば売り手と買い手の一期一会の出会いの場でもあるのだ。
なぜこんなに増田さんがミニカー愛にあふれているのかといえば、もともとご自身がコレクターだからである。初めてミニカーを手にしたのは、小学3年生の頃。当時、走る姿を「カッコいいなぁ」と眺めていたら、ミニカーが出ることを知って親に買ってもらったという、プリンス・グロリアがコレクションの第1号だ。

実は、青年になった増田さんは、シナリオライターになるという夢を追いかけていた。

「ロンドンを舞台にした物語を書きたかったんですよ。それなら、現地に友達がいた方がいいじゃないですか。それで、ロンドンのコレクターたちと交流していたら、いつの間にかそっちの方が面白くなっちゃったんです」

執筆作業の事務所として借りていたアパートの畳を剥がし、DIYでベニヤ板をトントン打ち付け、アルバイト代がわりにもらったショーケースやカラーボックスを置いたのが、アイアイアド・カンパニーのスタートだった。まだ当時は競合店が少なく、毎週のように良い品が買い取りで入り、お客も金に糸目をつけぬ人ばかりだった。
そこから35年余り、ミニカーを取り巻くさまざまな〝栄枯盛衰〟を見つめてきた増田さん。ずっと贔屓にしてくれるお客がいる反面、注文したミニカーを引き取ることなく連絡が途絶えた人も少なからずいるらしい。ミニカーの価格も、在庫状況やブームなどで刻々と変化していくから、売り時を逃すと赤字になってしまうこともある。

「そこが難しいところなんです。まずメーカーから買い付ける時点で、10個注文したら10個入るかどうかがわからない。色だって赤しか売れないのに黄色もきちゃったりね。適正な値付けをするためにも、常に市場の動向を把握していないといけないので、なかなか大変なんですよ」

仕入れから販売まで、もはやこれは株の世界かギャンブルか。近頃は中国でもトミカ人気に火がつき、世界中でミニカーを巡る熱い攻防が繰り広げられているらしい。でも増田さんが市場の動向に常に目を配るのは利益追求のためではない。全てはミニカーへの愛情ゆえ。

私たちとそんな話をしながらも、せっせと棚にミニカーを並べていく増田さんはどこか楽しそうだ。「キミにふさわしい人がいたら行ってもいいけど、ここにずっといてもいいんだよ」 その背中は、ミニカーにそんな言葉をかけているようにも見えたのだった。

■アイアイアド・カンパニー
住所:東京都中央区銀座4-14-4
TEL:03(5184)1582
営業時間:(平日)12:00〜20:00/(日曜・祝日)11:00〜19:00 月曜定休(祝日・振替休日の場合は営業)コレクターだけでなく、普通の人が普通に購入できるミニカーも多数揃っている。銀座の買い物ついでに気軽に立ち寄れるお店なのでご安心を。www.iiado.co.jp

--------------------------------------------------
text:まるも亜希子/Akiko Marumo
エンスー系自動車雑誌『Tipo』の編集者を経て、カーライフジャーナリストとして独立。ファミリーや女性に対するクルマの魅力解説には定評があり、雑誌やWeb、トークショーなど幅広い分野で活躍中。国際ラリーや国内耐久レースなどモータースポーツにも参戦している。
【お得情報あり】CarMe & CARPRIMEのLINEに登録する

商品詳細