鎌倉さんぽ、開運の旅

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いつものルートで、いつものドライブ。

気にはなっているけれど、ついすっ飛ばしてしまう、

そんな場所はありませんか。

思い切ってクルマを停めて、歩いてみたら…

いつものドライブ風景も、違って見えるかも知れません。

text:村上智子 photo:山岡和正 [aheadアーカイブス vol.123 2013年2月号]

「アンタ、今年は本厄やで」。

 実家へ帰った私に、開口一番母が言った。言外に「厄払いに行ったら?」とのニュアンスが響く。

 私は、昔からこうした習わしや儀式にどこか否定的だった。成人式の日はバイトをしていたし、過去の厄年は叔母が代わりに祈願したと言っては、お守りを送ってきて事なきを得ていた。

 厄年に関して言えば、前厄後厄も含めると、女性は30代の半分以上が厄に引っかかる。そんなの気にしていたら何にもできない、という意地もあったのだと思う。でも、歳を重ねて環境の変化もあり、ようやく自分の意固地な態度がなんだか子供じみてかっこ悪いな、と気づいた。

     *

 第三京浜から横浜新道を通り、横浜横須賀道路を南へとクルマを走らせる。冷え込みは厳しいものの、道路には温かな陽射しが降り注いでいる。車窓からは、一段と澄み渡った景色の中にそびえる鮮やかな富士山が見えた。お参りにはうってつけの一日になりそうだ。

 厄除け参りと言えば、破魔矢、御祈祷などが定番だが、皿を割って厄除けをするという珍しい神社を鎌倉に見つけた。JR鎌倉駅から徒歩30分。駐車場もある。朝比奈のインターを降りて、金沢街道の交差点を右に折れる。かつての鎌倉ドライブで苦労した細くて複雑な道もなく、目的地である「」へとたどり着いた。

 鎌倉宮には、悲劇の人物として知られる親王が祀られている。後醍醐天皇の皇子である護良親王は、楠木正成らとともに鎌倉幕府滅亡の立役者として活躍するも、その力を恐れた父親によって、対立していた足利尊氏に引き渡された。幽閉の末に暗殺され、28歳の若さでこの世を去ったという。彼が戦に赴く際に、兜の中に常にお守りとして入れていたは、今日では、鎌倉宮の象徴となっている。

 神社の左手にある駐車場へクルマを停めた。参道を歩いて一つ、二つと白い鳥居をくぐると、拝殿のど真ん中に、獅子舞の頭だけを数倍大きくしたような「獅子頭守」が、ドンと鎮座しているのが見えた。赤い顔に金色の歯をむき出しながら口を開いている。

 まずは獅子頭守に今年一年の厄除開運をお願いする。さらに巫女さんに尋ね、厄除け守を購入した。獅子頭の口がカタカタと開くカスタネットみたいなお守りで、災厄をパクパクと食べてくれるのだという。玄関に飾るのがお勧めだそう。

 拝殿の右手に回ると、親王の身代わりとして亡くなった武将・村上彦四郎義光を模した木彫りの像が、手を合わせて腰掛けていた。「体の悪いところと同じ個所を、三度撫でると身代わりとなってくれる」そうで、まだ10年も経たないのに、膝のあたりは随分と黒ずみツルツルだ。人々の身代わりとして頑張っているこの像、苗字が一緒だけに、何やら他人とは思えない。切ない気分に浸りつつも、しっかりと撫でてきた。

 それにしても。代わってもらいたい願いを書き納める「身代わり人形」、一つだけ願い事を書く「ひとこと願い串」、絵馬など、境内の中は人々の願い事であふれている。奉納された想いを見ながら、私なら何を書くかな、と考えて気付いた。記憶を遡ってもこれまで絵馬や札などに願い事を書いたことがない。今書け、と言われてもこれといって浮かばない。「幸せなんじゃない」とも言われたが、むしろ望むものが自分で分かっていないからではないか。奉納された願い事は、それぞれの意志や決意を示しているようで私にはまぶしく映った。

 お目当ての厄割石は、鳥居の近くで見つけた。地面から半分顔を出した厄割石の回りには、貝塚のごとく素焼きの白いお皿(かわらけ)の破片が飛び散っている。まず、脇に置かれた〝かわらけ〟に息を吹きかけ、体の中の悪い物を移してから石に向かって投げつける。割れれば厄も散る、ということらしい。

 では、さっそく。フウッと息を吹きかけ、振りかぶって…「エイッ!」

 投げる、というよりも叩き付けるという距離なのに、〝かわらけ〟は石の右側へ外れた。いやいや、手がかじかんでいたからだ。そそくさと拾い、もう一度「エイッ!!」。

 今度は当たったものの、跳ね返って端部分が僅かに欠けただけ。三度目のリベンジで、ようやく割れた。

 こう書くと難しいのか、と思われそうだが、他の人たちを見ていると皆、いとも簡単にパリーンと割っている。見ている限り、割れないほうが珍しい。

「これでいいのかな」。

 初めての厄除け参りは不完全燃焼に終わったが、この後、クルマで鶴岡八幡宮に向かい「強運掴み矢」というなんとも縁起のよさそうなアイテムを買おうという欲深い計画を立てている。

 その前に、すぐ近くにある神社へと向かうことにした。歩いてものの数分で、閑静な住宅街の奥に参道の入り口を見つけた。参道の先には急勾配の長い石段。石段の両側には木々が植えられており、和紙の原料に用いられるミツマタがぷっくりと蕾を膨らませている。

 青空を仰ぎながら階段を上り切ると、こじんまりとした境内が迎えてくれた。実はここ、福岡の太宰府天満宮、京都の北野天満宮と合わせて三天神社と称されている、歴史ある名社だそう。

 受験シーズン真只中とあり、境内には絵馬がズラリ。さすが受験生のメッカだ。授与所では、合格祈願の絵馬や鉛筆、お守りなどに加え、神職の方が試験当日の早朝に合格祈願をしてくれるという、日にち指定の「受験当日早朝祈願」なんていうものまであった。受験生の母親らしき人が、用紙を手に巫女さんに尋ねている。

 それを見て、私の受験日に、母が仏壇でお経を上げたと言っていたことを思い出した。当時は少し呆れながら聞いたが、どんな気持ちでお経を上げていたのだろうか。

 拝殿のほうへ歩いていくと、新聞社の腕章を付けたカメラマンが、脚立の上でしきりにシャッターを切っていた。のぞいてみると、一つだけ梅の花がポツン、と花開いている。幹には「寒紅梅」の札。梅の名所としても有名な神社で、中でも寒紅梅は、鎌倉で最も早く咲く梅と言われているそうだ。たまたま立ち寄って初咲きに出会えるとは、なんてラッキー。

 門や手水舎の水の出口、拝殿の朱色の扉など、あちらこちらにシンボルマークの梅がデザインされた社は、何とも可愛いらしい。一方で、町を眼下に見る斜面という立地のためか、神秘的な厳かさを感じると同時に、抱かれているような安心感で満たされる。「強運掴み矢」よりも、今はこちらのほうが感じ入るものがある。良い空気を頂いたところで、今日のお参りは切り上げることにしよう。

 だが、せっかく鎌倉まで来たのだから街の雰囲気も味わいたい。クルマを鎌倉駅付近のコインパーキングに移動させ、またもや徒歩で散策する。

 鎌倉駅東口から鶴岡八幡宮方面へと延びるのは、観光客向けの店が軒を連ねるおなじみの道。今日はあえて西口を歩いてみよう。西口から南へと延びる御成通りは人通りも少なく、のんびりとした商店街といった風情だ。婦人服店に酒屋に駄菓子屋といった昔ながらの店に交じり、カフェや、アーティストの店、雑貨屋など、素材やデザインにこだわった店が並ぶ。「何だろう」と立ち寄ったのは、鳥居のモチーフが気になった店。旅をテーマにした鞄や雑貨を製造しているそうで、機能は本当に必要な物だけに絞り、デザインは限りなくシンプル。使いこなす側のセンスが試されそうだ。

 ブラブラ寄り道しながら御成通りを抜け、由比ガ浜のほうへと曲がる。途中おいしそうなわらび餅屋さんを見つけたが、今日はあんみつと心に決めている。しばらく歩いて六体のお地蔵さまが並ぶ交差点を左に曲がれば、江ノ電の線路が見えてくる。歩いたのは鎌倉駅からひと駅、お隣の和田塚駅はすぐそこだ。 

 甘味処「無心庵」は、和田塚駅から徒歩数秒と聞いていたが、行き方が分からない。迷いかけたところで、通りかかったおじさんに「どこ行くの?」と話し掛けられた。「その店ならこの駅の構内を抜けていけばいいよ。線路をまたぐとき、ひかれないようにね」。

 教えられたとおり、駅の構内を抜けると、目指す無心庵は線路を挟んで向こう側にあった。入り口は線路に面した不思議な立地。線路をまたがないと入れない。

「右、左、右、ダッシュ!」。

 非日常な行為にワクワクしながら門をくぐると、昔ながらのお茶屋さんといった佇まいの庭が広がった。タイミングよく先客がいなかったようで、庭を眺められる窓際の席へと案内された。メニュー表には、あんみつやまめかん、あんこ玉など、懐かしい名前が並ぶ。注文の品を待つ間、お客さんが次々に現れたちまち満席になった。やはり今日はツイているようだ。玄関の鼻先をかすめるように通り過ぎる江ノ電を眺めながら、黒蜜をたっぷりかけたあんみつを頂く。のんびりと時間は流れ、陽射しの傾きが過ぎた時間を教えてくれる。そろそろ、行こうかな。

 本日初めての江ノ電で鎌倉駅に戻り、再びクルマに乗り込む。

 海沿いの風景は、キラキラと光る水面があまりにも美しくて、冬なのに窓を開けて走っていく。富士山があれほどきれいに見えたのだから、今日はきっときれいな夕焼けが見られるだろう。日が落ちるのを待ちながら、鎌倉宮で引いたおみくじの言葉を思い返していた。

「神のおかげは拝んで分かる、甘いすいヽは食べて知る」

 砂糖の甘さ、米のおいしさは食べれば分かるが、神様のありがたさは、拝んでみないとわからない。つまり理屈だけではありがたさは分からない、という意味らしい。分かったような、分からないような。でもこの一年は、凝り固まった自分の理屈からちょっと離れて生きてみよう。

 今年初めて見た海に沈む夕日は、この上なく美しくて、また幸せな気分になった。

PEUGEOT 208 Premium

プジョーの新型ハッチバック。「207」よりダウンサイジングして登場。コンパクトハッチでありながら、デザインの質感などはため息が出るほどに美しい。今回はオートマティックモデルを借りたが、マニュアル車である208Allure(5MT、総排気量1,199cc)、208GT(6MT、総排気量1,598cc)も要チェック!

車両本体価格:¥2,160,000 全長:3,960mm 全幅:1,740mm 全高:1,470mm

排気量:1,598cc 最高出力:88kW(120ps)/6,000rpm 最大トルク:160Nm/4,250rpm

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