かわいいorカッコイイ

アヘッド かわいいorカッコイイ

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かわいいと言う人も、カッコイイと言う人もいるスズキ「ハスラー」は、本格的なSUVのルックスで、老若男女、幅広い層に受け入れられている。何においても〝かわいい〟はタブーというイタリアが生み出したチンクとベスパはヨーロッパにしっかりと浸透している。一方、 フランスでは少し前、DS3が〝女性が選ぶ10台〟で1位を獲得した。かわいいやカッコイイにはお国柄の違いが反映される。かわいい、カッコイイって何だろう。

text:竹岡 圭、松本 葉 photo:山岡和正、渕本智信 [aheadアーカイブス vol.153 2015年8月号]
Chapter
HUSTLERが売れている本当の理由
チンクとベスパとイタリアと
パリジェンヌはなぜDS3を選んだのか

HUSTLERが売れている本当の理由

text:竹岡 圭 photo:山岡和正

軽自動車保有率が47都道府県で一番少ないと言われる東京都でも、最近、実によく見かけるのがスズキ『ハスラー』だ。台数が出ているのも間違いないが、それだけルックスが目立つクルマなんだとも思う。

どんな方が乗っているのだろうと、運転席をチラリと覗き込んでみると、ドライバーは見事にまちまち。鮮やかなパッションオレンジ ホワイトツートーンルーフボディには元気いっぱいの若者が、クールカーキパールメタリックボディにはシブイオジサマがといった具合で、ひと口に老若男女と言っても、かなり幅広い層に選ばれているのが見て取れる。

それだけ多くの人に愛されているのは、まずはデザイン。フェンダー部分に流れるような水平のキャラクターラインや、丸型のヘッドランプ&すぐ側に位置するウインカー、縦型のリアコンビランプなど、歴代スズキSUVの伝統のモチーフを上手く取り入れながらの、甘すぎず、道具っぽすぎずのカッコカワイイあふれるルックス。それと共に、ハスラーが選ばれているのは、このクルマの本物感がきちんと伝わっているからこそだろう。
そもそもハスラーが生まれた理由は「SUVってどこでも行けちゃいそうな頼もしさはあるけれど、荷室は意外と狭い。オマケに荷室高も高いから、荷物の積み下ろしも大変だったりする。だったら、荷室が広くて開口部も低いワゴンと融合させたら、便利なんじゃない?」という発想からだったと聞いている。結果「'93年にワゴンRが登場したときのような、なんだか新しいジャンルのクルマが出てきたゾ、というときの感覚なんですよ」と、スズキの社内がワクワクと沸き立つくらいのクルマが出来上がったそうだ。

とはいえ、そうそう単純に出来たわけではなく、開発はそうとう大変だったらしい。それは「ワゴンRとプラットフォームもパワートレインも、まったく同じものを使わなければいけない状況の中での開発だったので、触れるのはタイヤとダンパーとパワーステアリングだけ。このチューニングだけで、ハスラーらしさを作り上げなきゃいけなかった…」から。

ワゴンRが市街地でのキビキビした走りを特徴とするなら、ハスラーに求められたのは、SUV的なゆったり感としなやかなバネの動き。「ダンパーを緩めるだけでは、高さが上がった分だけヨロヨロになってしまうので、逆にサスペンションは全体的なグラグラ感をなくすために固めてあるんです。ところが、ただ固めるだけではSUVらしい乗り味は失われてしまうので、ピストンスピードの低い動き出しの部分はソフトに、ピストンが動き出したら抑えてやろうというセッティングをチョイスしたんですよ」とのこと。

これが見事に功を奏し、乗り心地はしなやかに。ステアフィールはSUVっぽく重さを持たせ、ゆったり感を演出。しかしハンドルを切ったら切った分だけ動き、ドライバーが意図したラインにスッと乗せられるという、スズキらしいシャキッと感はきちんと確保。見事な本物のクロスオーバーSUVの乗り味と走破性が出来上がった。

そしてほどなく、私自身がこの本物感を体感することになる。それは関東地方が、高速道路が数日間通行止めになるほどの大雪に見舞われた日のこと。スタッドレスタイヤを履かせてあるとはいえ、本当に無事に帰れるのか? と不安になるほどの悪天候の中、軽自動車初のグリップコントロール、ヒルディセントコントロール等々の装備を搭載したAWDモデルのハスラーは、ドライバーを一時も不安にさせることなく、走り切ってくれたのだ。

あれから早くも1年半が過ぎたが、未だハスラーの人気は衰えを見せない。本格派クロカン軽のジムニーと、マルチワゴン軽のパイオニアであるワゴンRを送り出したスズキだからこそ生み出せた本物感と伝統と遊び心。軽自動車に馴染みのない都会人の心までをも虜にした人気の秘密はここにある。本物だからこそカッコよく、それをひけらかさないからカワイイのだ。

チンクとベスパとイタリアと

●FIAT 500C 1.2Pop
車両本体価格:¥2,505,600(税込)
排気量:1,240cc
最高出力:51kW(69PS)/5,500rpm
最大トルク:102Nm(10.4kgm)/3,000rpm

text:松本 葉 photo:渕本智信

もっともイタリアらしいものを3つ、挙げよと言われたら、私は迷うことなくフィアットの『チンクエチェント』とピアッジオのスクーター『ベスパ』とチョコレート風味のスプレッド『ヌテラ』を選ぶ。フェラーリもあればドゥカティもこの国生まれ、アルマーニからパルマの生ハムまで、それこそイタリア産を挙げたらきりがないが、イタリアらしさが押し合いへし合い、ぎゅうぎゅうに詰まっている、そういう意味でチンクエチェントとベスパとヌテラが私にとってのイタリアなのである。

この3つに共通するのはまずは歴史だが、歩けばローマの遺跡にぶち当たる国にあっては〝らしさ〟に長さを挙げるときりがない。いや、歴史はすべての前提。築30年のアパートはイタリアでは新築だ。だったらこの国の人間のごとく、憎めないかわいらしさかと言えばそれも違う。

イタリアでは〝かわいい〟は誉め言葉ではなくて〝美しい 〟とか〝かっこいい〟に入らなかったときの受け皿。男友達のカノジョを語るとき「かわいい」といったら、それはブスじゃないけど美人じゃないってこと。

唯一、かわいいが許されるのは子供だが、子供はみんなかわいく、かわいい子供のなかに 将来、〝美人になりそうな女の子〟と〝かっこよくなりそうな男の子〟がいる。ちなみにかわいいの下に控えるのは〝性格がいい 〟という言い方で、そういえば私は何度もこう言われた。イタリアの皆さん、ありがとう。
●VESPA Primavera 125
車両本体価格:¥428,000(税込)
排気量:124.5cc
最高出力:7.2kW(9.6ps)/7,750rpm
最大トルク:9.5Nm(0.96kgm)/6,000rpm

特に工業製品にかわいいはタブーだ。なぜってかわいさは未熟さであり、ガジェットであり、時が経てばしらける。とどのつまり一発もの、歴史を生み出すことがない。工業製品は使い捨てであってはならず、キャラクター製品であってもならない。こういうコンセンサスがしっかり根付いている。カワイイ日本車を見ると10年後に乗っていられるものがどのくらいあるだろうかと私はいつも考えてしまう。

単純なことを複雑に仕上げるより、複雑なことをシンプルに見せる方がよほど難しい。技術からデザインから味から制作方法まで、考え抜いたことを見せずに、まるでひらめきで作ったかのように仕上げたモノ、それがイタリアらしさだ。初めはポップなレトロに見えた現行チンクエチェントだが、今では欧州の街にスタイリッシュに浸透している。デザインに力があるのだろう。1964年に販売が開始されたヌテラは未だ欧州全体のチョコレート・スプレッド市場を独占する。
原材料がはっきりしている、ただの、チョコレート味のスプレッドなのに誰にも作れないのである。戦後すぐに登場したベスパは海辺で風を受けて走ったり、街中をすり抜けるのがピッタリのスクーターだが、メカは航空技術を多用している。『ローマの休日』を見て、このスクーターにそんな複雑な技術が使われているなんて誰が想うだろう。

チンクエチェントを生み出したのはダンテ・ジアコーザ。ベスパはコラッディーノ・ダスカニオで、ヌテラはピエトロ・フェレロ。いずれも天才と言われた人物。1000人の凡人よりひとりの天才。1000回の(結論の出ぬ)会議よりひとりが下す決定。職場で天才はひとり、黙々、図面を引き、凡人は天才を置いて定時に家に帰り、家族と食卓を囲み、バカンスの話をする。これがイタリア。天才のひらめきを凡人が気楽に楽しめるのもまた、イタリアである。

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text:松本 葉/Yo Matsumoto
自動車雑誌『NAVI』の編集者、カーグラフィックTVのキャスターを経て1990年、トリノに渡り、その後2000年より南仏在住。自動車雑誌を中心に執筆を続ける。著書に『愛しのティーナ』(新潮社)、『踊るイタリア語 喋るイタリア人』(NHK出版)、『どこにいたってフツウの生活』(二玄社)ほか、『フェラーリエンサイクロペディア』(二玄社)など翻訳を行う。


パリジェンヌはなぜDS3を選んだのか

text:嶋田智之

異国を歩くと、気づけば、走ってくるクルマを眺めてる。街角スナップみたいな写真を撮ることもあるけど、その多くはクルマが主役だったりもする。自分の国と違う空気がそこに流れていることを最もシンプルに、そしてストレートに認識できるのが、僕の場合は職業的にも趣味の上でもクルマだ、ということだろう。

そして今あらためて、そういえばそうだ、と気づいた。スナップを見ても明らかだった。いつ頃からなのかはあやふやだけど、確かにパリの街を散歩したりパンや果物を買いに出たりすると「DS3」に出くわすことが次第に多くなり、売れてるんだな、と何度か思った記憶もある。なぜか男性より女性がステアリングを握っているのが目立ったことも。

そのちょっとした裏付けとして、ちょっと前のフランスの〝オート・プリュ〟という自動車雑誌が行ったアンケートで、〝女性が選ぶ10台〟の第1位がDS3だったことがあった。18歳以上の男女1000人ずつぐらいに計80台の中から様々な視点で好きなクルマを選ばせる、というような感じだったはずだ。

オモシロイと思ったのは、男性の選ぶトップ5がポルシェ911を頂点に、シボレー・カマロ、シトロエンDS5、ジャガーFタイプ、メルセデスSLKという順位で〝憧れ〟系がメインだったことに対し、女性は3位に911、4位にFタイプという〝憧れ〟系が入りはしたものの、それを押さえて2位にミニ、そしてトップがDS3という比較的現実を見たチョイスが堂々上位にあったことだ。

ちなみにベスト10の中には、他にもプジョーの208と308、シトロエンC4ピカソ、ダチア・ロッジーがランクイン、〝現実〟系が6割を占める計算になる。男どもが夢見がちに何かを語る横で、キリッと現実を見つめてる女子達、というどこかで見たような図式がパッと思い浮かんだものだった。

女性達のチョイスは、フランスの街の構造を考えると、わりとすんなり納得できる。パリはもちろん地方の田舎の村でも、幹線道路から一歩入ると、自動車が通行することなど想像したことすらない中世の時代のスケールそのままと思しき狭い道が入り組んでいたりする。

彼女達はそんなところで気を使ったり面倒な想いをしたりするよりも、お気に入りの曲をハミングなどしながら軽やかに駆け抜けたいのである。基本、我慢は大嫌い、思いのままに〝快〟を優先させるのが、彼女達にとってのごく自然な行為なのだから。つまりサイズが手頃なクルマ達の中で〝いいもの〟を選んだ結果なのだ。

それに、思わずクスリと笑ってしまったのだけど、これまでの断続的な渡仏や滞在の中で知り得たフランス人女性(というか、ほとんどパリジェンヌ)の特徴をランダムに並べてみたら、DS3が好まれることに妙に納得がいく。
当たり前のように美意識が高い。同じくらい誇り高い。他人の価値観では動かない。〝自分〟をちゃんと持っている。ナンバーワンではなくオンリーワンを重んじる。知識は大切、知恵はもっと大切。

おすまししてても実は中身はエネルギッシュ。お洒落な着まわし上手。悪目立ちを好まないくせに、埋没することは絶対に許さない。プリティであるよりキュートであれ、キュートであるよりラヴリーであれ、ラヴリーであるよりコケティッシュであれ、コケティッシュであるよりセンシュアルであれ。

ほら、何だかまるで、DS3そのものに思えてこないだろうか?

作り手が意識していたかどうかは判らないし、選んだ彼女達が意識したかどうかも判らない。でも、つまり彼女達は自分達を選んだようなもの。そういうことなのだ。

そう考えると、DS3が最もフランス的な──というかパリジェンヌっぽい──クルマであるように思えてくる。この日本でもDS3を走らせてる女性を見ると、どういうわけか凜としたかっこよさみたいなモノを感じてしまうのは、だからなのかも知れない。

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text:嶋田智之/Tomoyuki Shimada
1964年生まれ。エンスー系自動車雑誌『Tipo』の編集長を長年にわたって務め、総編集長として『ROSSO』のフルリニューアルを果たした後、独立。現在は自動車ライター&エディターとして活躍。
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