F1ジャーナリスト世良耕太の知られざるF1 vol.26 速いマシンがかっこいいか

やっぱり気になりますか? 段差のついたノーズ。それとも、指摘されるまで気づかなかった?  「ステップドノーズ」(段差ノーズ)と表現される、美しいとは言い難いノーズ形状は性能向上のためでも奇をてらうためでもなく、単純に、変更になった規則に対応するためだ。年々高くなる傾向にあったノーズを低くするのが、ルール変更の狙いである。

text:世良耕太 [aheadアーカイブス vol.114 2012年5月号]

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vol.26 速いマシンがかっこいいか

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では、なぜノーズは高くなる傾向にあったのか。あるいは、高くする必要があったのか。答えは空力だ。2007年に主要部品の開発が凍結されて以降、エンジンパワーは頭打ちだし、タイヤはピレリの1社供給で全車が同じスペックを履くため、競争力を生む要素とはなり得ない。では、どこで相手と差を付けるかというと、空力性能なのである。

走行中に受け止める空気の力を、車体を地面に押さえ付ける力、すなわちダウンフォースに変換するのが性能向上の近道。ダウンフォースが増えると、それまでよりも高いスピードでコーナーを通過できるようになり、ラップタイムが短縮できる。

前後のウィングをはじめ、ボディのありとあらゆる形状を吟味して空力性能を向上させるのが、近年のF1開発なのだ。シーズン中に絶え間なく開発をつづけることで、F1マシンは開幕戦と最終戦の間におよそ2秒のラップタイム向上を果たす。2秒はどれくらいの差かというと、予選トップと18番手くらいの差である。

空力性能を向上させるには、ノーズを可能な限り高く設計した方が有利とする考えが2009年以降の流れだ。ダウンフォースは前後のウィングとフロアの下で主に発生させるが、フロントウィングは前方に障害物がないので、比較的自由に狙ったダウンフォースを獲得できる。

問題なのはフロアとリヤウィングで、前方にあるフロントウィングやタイヤが乱した空気を利用するため、狙った性能が得にくい。そこで、ノーズを高くしてフロントウィングとの間に障害物のない空間を作り、そこを通り抜けた空気をフロアの下に流したり、ボディ側面を経由してリヤに導いたりしているのである。

こうしてノーズが徐々に高くなっていくと、ある懸念が増していった。アクシデントで他車に衝突した場合、それも相手に対して横からぶつかった際に、ノーズの先端がドライバーの頭部を直撃する恐れが出てきたのだ。それはまずいということで規則が変更され、2012年型マシンはノーズの最大高が前年より75㎜低く定められた。

一方で、ノーズより後ろに位置するモノコックの最大高には変更がなかったので、最大75㎜の不自然な段差が生まれてしまったのである。トップチームではマクラーレンだけが段差のないスムーズなノーズを採用しているが、このチームは伝統的に低いノーズで開発を積み重ねて狙った性能を手にしており、醜い段差に手を出さなくても済んだのだ。

速いマシンは格好良く見えるというが、段差ノーズの場合はどうだろう。

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text:世良耕太/Kota Sera
F1ジャーナリスト/ライター&エディター。出版社勤務後、独立。F1やWEC(世界耐久選手権)を中心としたモータースポーツ、および量産車の技術面を中心に取材・編集・執筆活動を行う。近編著に『F1機械工学大全』『モータースポーツのテクノロジー2016-2017』(ともに三栄書房)、『図解自動車エンジンの技術』(ナツメ社)など。http://serakota.blog.so-net.ne.jp/

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