ドゥカティ スクランブラーの復活した理由
更新日:2024.09.09
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2輪にはアドベンチャーと呼ばれるカテゴリーがある。その多くはオンロードを主体にしながら一部にオフロードのデザインや機能を盛り込みマルチな性能を高めたモデルのことを言い、もともとは一部の好き者を満足させるニッチなマーケットだったものがメジャー化。今や世界中のメーカーがこぞって新型を投入するまでになった。4輪でも似たような現象が見られ、例えばハッチバックやワゴンにSUVの要素を加えたクロスオーバービークルの流行がそれに当たる。
text:伊丹孝裕 [aheadアーカイブス vol.147 2015年2月号]
text:伊丹孝裕 [aheadアーカイブス vol.147 2015年2月号]
ドゥカティ スクランブラーの復活した理由
「1台でどこへでも、なんにでも」というイメージをカタチにしたという点では共通するものの、こと2輪に関しては実際に万能であろうとする余り、車格や車重が肥大化。
それを操るには乗り手に相応の体格やスキルが求められ、現実的にはむしろ不自由さが目立つケースも少なくない。となると必然的に、もっと気軽に走れるモデルを求める声が聞かれるようになる。
アドべンチャーほどハードではなく、オフロードモデルほどストイックではない、その間を埋めるなにか。そんな期待に応えてくれるのが先頃発表されたドゥカティ・スクランブラーである。
「混ぜ合わせる」、「引っ掻き回す」という意味の言葉から派生したスクランブラーは、オンロードモデルにアップハンドルとアップマフラーを装着したオフロード仕様車を指し、言わばアドベンチャーの原点。半世紀以上も前に登場して一世を風靡しながら、いつしか忘れ去られていったカテゴリーでもある。
その要因はオフロード性能が格段に引き上げられた専用設計のモトクロスバイクやトレールバイクが一般化したことが大きく、それらと比べるとスクランブラーは発展途上、あるいはにわか仕立ての改造車に過ぎなかったからだ。
実際オンでもオフでもないその立ち位置と性能はどちらもそこそこ走れる反面、どちらもそこそこにしか走れないというジレンマを招くことになったのである。
とはいえ、スクランブラーが大きなマーケットを築いていた'60年代当時、ドゥカティは間違いなくその中心にいた。軽快なロードスポーツとして人気だった200エリートをベースに発展させた250スクランブラーを'62年に発売し、これがアメリカで大ヒット。
様々なバリエーションを加えながら'75年まで生産され、ドゥカティのシェア拡大に大きく貢献したのである。スクランブラーが受け入れられた背景にはその頃のアメリカの若者文化も無関係ではなく、いわゆるカウンターカルチャーと呼ばれる一種の脱権威主義がそれだ。
時代がブルジョアに対する反骨や自由を求める空気を纏っていた中、ミュージックシーンにおけるロック、ライフスタイルにおけるヒッピーと同様、カタにとらわれないスクランブラーの軽やかなスタイルが時流にフィットしたのだ。
やがてカウンターカルチャーの気運が落ち着きを見せ、その役割を終えたようにスクランブラーの生産も終了。時代が巡り巡って40年後の今、その名が復活した背景には既存のバイクマーケットに向けたカウンターカルチャーという意味もある。
バイクカテゴリーにおける現在のメインストリームはスーパースポーツと既述のアドベンチャーだ。しかし、スクランブラーはなんの電子デバイスも持たず、エンジンも足周りも車体もスーパースポーツのそれと比べるまでもなくシンプルで、軽く低く細いスタイリングもアドベンチャーのそれとは真逆。
つまり、スピードやロングランにおける欲求を際限なく満たそうとするハイスペック主義へのアンチテーゼと言ってもいいだろう。
日常の傍らにあり、ユーザーのライフスタイルに寄り添ってくれるバイクへの期待感。そうした気運に対する代表的な解答例が昨年相次いだ欧米でのヤマハ・SR400の再販やメーカー自らカスタムを提唱するBMW・RナインTの登場だった。ドゥカティはそれにスクランブラーという原点回帰で応え、再び新しいうねりを巻き起こそうとしているのだ。
まるで自転車をこぎ出すような軽やかなハンドリングと優れたドライバビリティ、そして威圧感のないたたずまいと静粛性を持つスクランブラーは、多く人に受け入れられるだろう。日本の街でその愛らしいスタイルが見られるのは今年の夏頃。100万円前後とも噂される現実的なプライスにも期待したい。
それを操るには乗り手に相応の体格やスキルが求められ、現実的にはむしろ不自由さが目立つケースも少なくない。となると必然的に、もっと気軽に走れるモデルを求める声が聞かれるようになる。
アドべンチャーほどハードではなく、オフロードモデルほどストイックではない、その間を埋めるなにか。そんな期待に応えてくれるのが先頃発表されたドゥカティ・スクランブラーである。
「混ぜ合わせる」、「引っ掻き回す」という意味の言葉から派生したスクランブラーは、オンロードモデルにアップハンドルとアップマフラーを装着したオフロード仕様車を指し、言わばアドベンチャーの原点。半世紀以上も前に登場して一世を風靡しながら、いつしか忘れ去られていったカテゴリーでもある。
その要因はオフロード性能が格段に引き上げられた専用設計のモトクロスバイクやトレールバイクが一般化したことが大きく、それらと比べるとスクランブラーは発展途上、あるいはにわか仕立ての改造車に過ぎなかったからだ。
実際オンでもオフでもないその立ち位置と性能はどちらもそこそこ走れる反面、どちらもそこそこにしか走れないというジレンマを招くことになったのである。
とはいえ、スクランブラーが大きなマーケットを築いていた'60年代当時、ドゥカティは間違いなくその中心にいた。軽快なロードスポーツとして人気だった200エリートをベースに発展させた250スクランブラーを'62年に発売し、これがアメリカで大ヒット。
様々なバリエーションを加えながら'75年まで生産され、ドゥカティのシェア拡大に大きく貢献したのである。スクランブラーが受け入れられた背景にはその頃のアメリカの若者文化も無関係ではなく、いわゆるカウンターカルチャーと呼ばれる一種の脱権威主義がそれだ。
時代がブルジョアに対する反骨や自由を求める空気を纏っていた中、ミュージックシーンにおけるロック、ライフスタイルにおけるヒッピーと同様、カタにとらわれないスクランブラーの軽やかなスタイルが時流にフィットしたのだ。
やがてカウンターカルチャーの気運が落ち着きを見せ、その役割を終えたようにスクランブラーの生産も終了。時代が巡り巡って40年後の今、その名が復活した背景には既存のバイクマーケットに向けたカウンターカルチャーという意味もある。
バイクカテゴリーにおける現在のメインストリームはスーパースポーツと既述のアドベンチャーだ。しかし、スクランブラーはなんの電子デバイスも持たず、エンジンも足周りも車体もスーパースポーツのそれと比べるまでもなくシンプルで、軽く低く細いスタイリングもアドベンチャーのそれとは真逆。
つまり、スピードやロングランにおける欲求を際限なく満たそうとするハイスペック主義へのアンチテーゼと言ってもいいだろう。
日常の傍らにあり、ユーザーのライフスタイルに寄り添ってくれるバイクへの期待感。そうした気運に対する代表的な解答例が昨年相次いだ欧米でのヤマハ・SR400の再販やメーカー自らカスタムを提唱するBMW・RナインTの登場だった。ドゥカティはそれにスクランブラーという原点回帰で応え、再び新しいうねりを巻き起こそうとしているのだ。
まるで自転車をこぎ出すような軽やかなハンドリングと優れたドライバビリティ、そして威圧感のないたたずまいと静粛性を持つスクランブラーは、多く人に受け入れられるだろう。日本の街でその愛らしいスタイルが見られるのは今年の夏頃。100万円前後とも噂される現実的なプライスにも期待したい。
Icon アイコン
▶「アイコン」は、スクランブラーシリーズのスタンダードに位置する。スチール製のティアドロップ型燃料タンクは取外し可能なアルミ製サイドパネルを組み合わせる。シンプルなデザインのデュアルスポーツホイールやアップライトなワイドハンドルなどトラディショナルな存在だ。
Urban Enduro アーバン・エンデューロ
▶「アーバン・エンデューロ」は、プラスチック製のハイフロントフェンダーやフォークプロテクター、エンジン下部を保護するスキッドガードやヘッドライトグリルなど本格的なオフロード走行をイメージしたモデル。スポークホイールを装備した二輪版SUVと言えるだろう。
Classic クラシック
▶「クラシック」は’70年代のテイストを意識してディティールこだわったモデルだ。クラシックなスタイルを持ちながらも、モダンな走行を可能にしている。アルミ製の前後フェンダーやスポークホイール、ダイヤモンドパターンのブラウンシートなど、古き良き時代を再現した。
Full Throttle フル・スロットル
▶「フル・スロットル」は、ダートトラックレーサーにインスピレーションを受けて誕生した。低めのテーパードハンドルバーや短いフロントフェンダー、ゼッケンスペース風デザインのシートなど、レーシーな仕上がり。(テルミニョーニ製サイレンサーはイタリア仕様標準装備)
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text:伊丹孝裕/Takahiro Itami
1971年生まれ。二輪専門誌『クラブマン』の編集長を務めた後にフリーランスのモーターサイクルジャーナリストへ転向。レーシングライダーとしても活動し、これまでマン島TTやパイクスピーク、鈴鹿八耐を始めとする国内外のレースに参戦してきた。国際A級ライダー。