僕らのテンロクスポーツエンジン、その魅力と現在に至る変遷とは?

ロードスター

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1.6リッタークラスのDOHCスポーツエンジン。

かつての若者にとって馴染みのある、身近なスポーツエンジンではなかったでしょうか。軽快な吹け上がり、刺激的なサウンド、しかも維持のしやすさ、チューニングの選択肢の広さ・・・

しかし、時とともにその姿を変えていくことになります。今回はそんなテンロク4気筒スポーツエンジンがどのような変遷を経たのかを見てみます。
Chapter
あまりに有名な4A-G
ちょっと忘れられた感もあるけれど、日産CA16DEも!
ロードスターの魅力を牽引したマツダB6型
自動車ジャーナリストの第一人者も唸らせたB16A
90年代以降、「テンロク縛り」は無くなっていく?
排気量アップ、その背景とは
トヨタはこういう「力技」も!
そして2リッターエンジンへ
テンロクだった理由とは?

あまりに有名な4A-G

AE86に搭載された4A-G。生粋の高回転型を後輪駆動で愉しむという、絵に書いたようなスポーツカーの魅力を備えた車でしたね。

カローラのFFモデルやAW系MR-2にも搭載されて、このクラスのトヨタのスポーツエンジンとして量産され、定番のエンジンとなっていきました。この頃はいわゆるROMチューンよりもメカチューンの時代で、チューニングショップが独自にハイカムを入れたりピストンを変えたり、あるいは排気量アップから後付けターボまで、様々なチューニングの選択肢があったのも魅力のひとつでした。

トヨタ自身も、後年、スーパーチャージャー化、または5バルブ化などのバージョンアップもほどこして、ユーザーの求めるハイパワー化にも対応。それぞれの時代のそれぞれの仕様にファンがついているのも特徴ですね。

じつに幅広く愛されたエンジンです。

ちょっと忘れられた感もあるけれど、日産CA16DEも!

1986年型の日産パルサーに搭載されたCA16DE型エンジン。

このN13型は合理的かつ欧州のライバルを意識したデザインや走りの良さをアピールしたモデルで、「X1ツインカム」はそのトップグレードでした。4A-Gに比べるとすっとマイルドで下からも力のある実用的なエンジンではあるのですが、なんといってもちょっとクロスしたギアレシオで高回転まで爽やかに回ってくれる感覚が、街中で普通に走っていても楽しめるというクルマで、4A-Gとはまた違った魅力を備えていました。

このCA16DEは、他にもラングレーやリベルタビラ、またエクサにも搭載されただけでなく、同時期のサニーのクーペモデルRZ-1やサニーセダンの豪華モデル「ツインカムスーパーサルーン」にまで幅広く搭載されて、当時の日産自動車のコンパクトモデルにおける走りの良さへの定評を確実なものにした立役者でもあります。

ロードスターの魅力を牽引したマツダB6型

軽量なロードスターにB6-ZE型の120馬力は十分以上の性能でした。

それはたしかにゼロヨンや最高速などでは他には勝てなかったかもしれないけれど、ドライバーを楽しませる才能は十分でしたよね。エンジンと車体のマッチング、一体感も心地よくて、これ以外にちょっと考えられないと思わせてくれるものがありました。

しかしNA型ロードスターはのちに1.8リッターへ排気量アップが図られます。これはひとつに低速トルクをアップし扱いやすさを確保することや、ややエンジンの常用回転域を下げることで燃費を稼ぐ目的があったはずです。

90年代も半ばになると燃費に対する意識が極めて高くなり、スポーツカーといえども燃費性能を無視するわけにはいかなかったわけですね。
ロードスターも、初期の1.6の軽快さが良い、というファンと、1.8になってからの扱い易さとの両立を良しとするファンとそれぞれに支持層があります。長く作られたロードスターらしい側面でもあります。

ただ次のNB型では再度1.6リッター車が復活、やはりこの時も軽快な1.6を好むファンに支持を得ていました。
(※画像はロードスター)

自動車ジャーナリストの第一人者も唸らせたB16A

ホンダにはシビックSiなどに搭載された名器「ZC」の存在もありますが、ここはB16を。

インテグラで登場した1.6リッターDOHC、VTEC。インテグラはどちらかというとミドルクラスに近いクーペで重量もやや嵩むため、より重量の軽いシビック/CR-Xへの搭載を望む声が高まりました。そしてそれは1989年の秋に実現します。連続可変バルブタイミングリフト機構を持つこのエンジンはNAエンジン車として初のリッターあたり100馬力を達成した生粋のスポーツエンジンでありながら、市街地走行でも十全の扱いやすさと燃費を両立したきわめて評価の高いエンジンでした。

ベルギー人の自動車ジャーナリスト、ポール・フレール氏といえばその道の第一人者。某分厚い自動車雑誌の紙面でフレール氏の記事をお読みになった方もいらっしゃると思いますが、フレール氏はこのEF8型CR-Xの長期テストもメーカーから依頼されて担当されていました。

そしてあまりに素晴らしい出来のエンジン、トランスミッションと、シャープなハンドリングを気に入って自分の愛車にしてしまったそうです。極めて厳しい眼を持つベテランジャーナリストをも唸らせたことは、ひとつの勲章といってもいいでしょう。

ホンダはこの後、インテグラ用に1.8リッターにスープアップしたエンジンを用意したものの、シビック/CR-X用としてはあくまで1.6リッターのまま。そのままで諸々の要求に応えられるだけの自信とノウハウがあったということなのでしょう。そこはホンダの強みといえました。

90年代以降、「テンロク縛り」は無くなっていく?

排気量アップ、その背景とは

1990年デビューのN14型パルサーの、テンロクスポーツエンジン、先のCA16DEに代わるスポーツエンジンは、1.8リッターのSR18DE。マルチポイントインジェクションかつハイオク仕様で140馬力。この他にもラリー向けの過激なGTI-Rもあって、こちらはSR20DETの2リッターターボ。時代とともに主流だったテンロクスポーツエンジンはテンロクの縛りが無くなり、排気量アップされていきます。

この背景は先にも書きましたが、低速トルクアップによる扱いやすさ向上と、相対的にエンジンの常用回転域を下げることで燃費を稼ぐという、この二つの目的があったはずです。またさらには、安全対策などで車両重量の増加も見過ごすことができず、従来のテンロクエンジンでは十全にトータルとしての魅力を保つことができなかったということなのでしょう。
当時はまだ可変バルブタイミングなどの技術も未発達で、小排気量のまま力を得ることが難しかったという面が大きくあります。

同時期にファミリアもGTモデルは1.6から1.8になるなど、このあたりから「テンロク縛り」がなくなりはじめて、排気量アップによる諸問題への「対策」が始まっていくのです。

トヨタはこういう「力技」も!

トヨタは90年代に入ってもしぶとく4A-GEを継続採用していました。ライバルの台頭、とくにホンダB16Aの存在は4A-Gの立場を大きく蹂躙したはずです。
そこで(?)というか、トヨタはこんな力技に出たりもしました。

AE101系カローラセダン。しかしそのエンジンルームにはひとクラス上の2リッター、3S-GE型を詰め込んでしまう。もちろんこれは改造車扱いでTRDがリリースする形を採りましたが、あの真面目一辺倒のトヨタにしてはちょっと過激なモデルですよね。

99台限定で出したこのクルマ、しかし実際に生産されたのはたったの12台といいます。今残っていたら、それはそれはかなりの希少車になりますね。やはりトヨタがこうした「施策」をしてきたのも、1.6リッターという排気量のスポーツエンジンが魅力を発揮できる状態ではなくなりつつあることの証明でもありました。

そして2リッターエンジンへ

シビックタイプR、初代は1.6リッター。インテグラタイプR、初代は1.8リッター。

しかし、これらは2000年代に入るとK20型2リッターエンジンに集約されていくのです。他にもいろいろあったスポーツエンジンは姿を消していくことになり、いわゆる生粋のスポーツエンジンを搭載したモデルはこのホンダ、タイプRモデル以外になしといってもいいような状態に。

安全性確保ほか諸事情で大きく重くなった車体には2リッターが必要、であったり、また同時に、ベースエンジンとして適当なものが存在しなかったという事情もあるでしょう。
クルマに求められる重要な要素はこの頃すでに「エコ」全盛という時代でしたから仕方ない部分はありましたし、かつて4A-Gなどで走り回っていた当時の若者も家族を持つ年齢となり、「あの時代」を過去のものとしてしまった、という面も大きいですよね。

またこの時期の若者にはSR20エンジンを搭載したS13シルビアを始めとする中古車人気が高まっていたという面もあります。クルマと、そして今回取り上げているエンジンもまた、時代とユーザーの要請によって姿を変え、また同時に時代とユーザーを写す鏡のような存在であることがわかりますよね。

ちなみに、三代目マーチの12SRも、絶対的には速くはなかったけれど、気持ちの良い、いいスポーツエンジンでした、余談ながら。

テンロクだった理由とは?

新型ロードスターのエンジンは1.5リッター。

前NC型が2リッターだったものがダウンサイジングしたというわけです。でも、1.6ではないと。

なぜ?理由は簡単でしょう。1.6リッターエンジンが今のマツダになかったからですよね。では逆に、あのころテンロクだった理由とはなんだったのか?

一つの例ではありますが、マツダは1.5リッターを純然たるDOHC化してBG型ファミリアに搭載し、いちおう「スポーツエンジン」としての位置づけでラインナップしていたことがあります。

しかしこれ、乗ってみるとややトルク不足でオートマではちょっとかったるいところがあり、マニュアルで乗ってもややピーキーな印象を受けました。軽快に回る小排気量ではあるものの、ピークパワーを求めるとどうしても扱いにくくなるという面があったようです。

なのでやはり100ccプラスの1.6というのが、当時の正解だったのだと思います。今は新型ロードスターでもわかるように1.5でも十分な扱い易さと馬力を得ることが出来る、その技術が出来上がっているところもありますから、既存のエンジンの排気量を変えるまでもなかったということが理解できるはずです。

それに、自動車税も1.5の方が安い、というのは小さくないですよね。

さて。

時代はまだまだ「エコ」です。燃費の良いクルマでなければならない、と、多くの人が思っているし、メーカーもそれに応えることに必死です。どうしても少数派となってしまうスポーツエンジン派にとっては、まだまだ冬の時代というところだと思いますが、しかしエンジン技術も進化し、「エコ」性能を維持しつつ「楽しい」エンジンを作り出すことも難しくはないはずです。

かつての4A-GやB16のような、身近な存在で手軽に楽しめるテンロクスポーツエンジンの「コンセプト」を引き継ぐ、現代の「スポーツエンジン」の復活に期待したいところですね。

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