熟成する首都高 ー「3環状」概成へ

熟成する首都高

アヘッド 3環状

増える一方だった自動車保有台数は、ここ数年頭打ち傾向を見せ始めている。だが、相変わらず渋滞はなくならない。

人や物の移動が滞れば、それだけ経済的な損失になる。CO2の排出量も増える。逆に、人や物がスムーズに動けば、経済的効率は上がる。環境への負荷も減るし、渋滞を起因とする事故も減り、ドライバーの精神衛生上も大変好ましい。

首都圏の道路ネットワークを整備し、交通状況の改善を目指す高速道路ネットワークが「3環状9放射」だ。2015年度の概成を目指すこのネットワークが計画されたのは、高度経済成長期、東京オリンピックの数年前だった。

東名高速道路を手始めに、中央、関越、東北道など、放射方向の高速道路は順調に整備されていったが、一方で、環状方向の高速道路は整備が遅れた。その結果、都心に用のないクルマが首都高速・都心環状線に流入する「通過交通」が増え、日常的に渋滞が発生。人や物の動きが停滞し、経済効率と環境の悪化を招いた。

放射方向に延びる9つの道路を、同心円状に配された3つの環状道路で結ぶことにより、バイパス効果が生まれる。都心部に用のないクルマは3つの環状道路のいずれかを選択することで都心を経由することなく、地方から地方に移動することができる。

3つの環状道路とは、内側から「首都高速中央環状線(都心から約8㎞)」「東京外かく環状道路(外環道:都心から約15㎞)」「首都圏中央連絡自動車道(圏央道:都心から約40〜60㎞)」からなる。

このうち、中央環状線は首都高速道路として整備。外環道と圏央道の事業中区間はNEXCO東日本・中日本と国が、互いに連携を取りながら協力して整備を進めてきた。

首都高の立場で3環状9放射ネットワークを眺めてみると、中央環状線の整備は首都・東京の交通を円滑にする意味で、大きな意義がある。もともと首都高は、自動車の急増による一般道路の渋滞を解消する手段として計画され、建設された。地方から地方へ通過する交通の受け皿ではなく、あくまでも都内の交通を円滑にするための道路だったのだ。

「首都高は当初、環状5号線(明治通り)や環状6号線(山手通り)の内側程度までしかなかったのですが、二期工事で延ばし、高速道路とつながりました。その結果、通過交通が増え、都心部に用のないクルマが約6割を超えるようになりました」。こう説明するのは首都高速道路株式会社 計画・環境部 計画調整課の担当者。

「その通過交通を受け止めているのが最も都心にある都心環状線で、ここに集中する交通による渋滞が慢性化しています。バイパスの役割を果たす中央環状線が完成することで都心部の渋滞は解消でき、首都高本来の機能に集中させることができる。整備を急いでいる理由はそこにあります」。

皇居の周囲を巡り、丸の内のオフィス街や霞が関の官庁街を通り抜ける全長約14㎞の都心環状線は、1967年に完成した。3環状9放射ネットワークの計画は東京オリンピックの前まで遡れることは前述したが、整備が遅れたのは、首都高の放射線を延伸し、都市間を結ぶ高速道路との接続を優先したのが発端。景気の低迷が追い打ちをかけた。

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スや霞が関の官庁街に用事のあるクルマの利用よりも、ある放射線から別の放射線に乗り換えるための接続路として利用する比率が高くなり、交通が集中して、渋滞の始点となるに至ったのである。

整備が後回しになっている間に環境は変化した。東京はもともと住宅やビルが密集した過密都市だったが(諸外国の都市に比べて整備が遅れたのは、その過密さが最大の原因)、全長約47㎞で計画された中央環状線のうち、西側部分はいっそう過密の度合いが増し、整備を難しくした。

また、高速道路建設に対する社会の風当たりが強くなり、環境への配慮が強く求められるようにもなった。

中央環状線の東側と北側約26㎞は1982年から2002年にかけて開通した。監督官庁との調整は容易ではなかったとも聞くが、東側区間の整備に関し、河川(荒川)の堤防を利用できたのは用地確保の面で有利だった。

懸案は西側区間である。2010年3月に開通した中央環状新宿線(熊野町ジャンクション〜大橋ジャンクション)は当初、開通済みの東側区間と同様、高架で整備する構想もあったという。1990年に都市計画決定がなされた際にトンネルとされたのは時代の要請だ。

トンネルで工事を進めるに際して、首都高は一歩先を行った。トンネル工事と言えば、地盤を掘り下げてトンネルを設置し埋め戻す開削工法が一般的で、中央環状新宿線も都市計画決定時は開削工法で計画されていた。

だが、開削せずにトンネルを掘り進むことのできるシールド工法を適用できる目処が立つと、最新の工法に切り替えて工事を行ったのである。その結果、地上にある山手通りの交通に与える影響を小さくして、事業を進めることができた。

最新の工法を取り入れたとはいえ難工事には違いなかった。なぜなら、ルートと交差して地下鉄や地下河川、電気・水道・ガスといった社会インフラが縦横に張り巡らされていたからである。

これらに影響を与えないよう、それこそ針の穴に糸を通すような精度でもって工事は進められた。新たな路線を開通させるなら高架という発想を捨て、最新の技術を駆使しながら環境に対して負荷の小さな手法で整備していくやり方は、いかにも熟成の時代にふさわしい。

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2013年度に開通する予定の中央環状品川線(大橋ジャンクション〜大井ジャンクション)には、中央環状新宿線で培われたノウハウが生かされている。ひとつはトンネル掘削工法の技術。

中央環状新宿線の場合、構造が複雑過ぎるために開削工法を採らざるを得ない区間も多かったが、品川線はシールド工法の長距離掘進技術の向上により、全線シールド工法による建設が可能となった。新宿線に比べて用地買収による負担が低かったとはいえ、都市計画決定から開通まで、新宿線は20年を要したのに対し、品川線は10年で済む予定である。

中央環状新宿線の建設で得たノウハウその2は、出入口の設計だ。首都高では用地確保の制約もあり、出入口を中央車線側、つまり追い越し車線に設置する場合が多い。

すると、流れの速いレーンで合流することになり、利用者に余計な負担を強いることになる。そこで、品川線では内回りと外回りの2本のトンネルを逆転配置することで、中間の出入口では左側車線から分岐し、合流する構造とした。

また、それにより避難路を左側に配置することが出来るというメリットも生まれた。バイパス機能を持たせて渋滞を解消できればそれでよしとせず、利便性や安全性を高めようとする姿勢に思いやりを感じる。

品川線の完成で、中央環状線は3環状の中で最も早く全線が完成する。

「中央環状新宿線が開通したことでもかなり大きな効果が出ていますが、品川線が開通することで、走行時間の短縮や交通事故の低減など、多方面で大きな便益が期待できます。ただ、ネットワークが新しくなることで意図しない渋滞が発生することもあり、気を抜くことなく、見守っていく必要があります」(首都高担当者)。

 ハード面の進化は一応の完成を見ても、ソフト面の進化・熟成に終わりはない。区画線を引いて流入路上のクルマが本線上にスムーズに合流できるようにしたり、看板を設置して注意を促したりする対策はその一例。

交通は生き物であるがゆえ、時代の要求や状況の変化に応じて最適な手を打っていく必要がある。首都高には、その要求に応える準備と覚悟があるということだ。

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text:世良耕太/Kota Sera
F1ジャーナリスト/ライター&エディター。出版社勤務後、独立。F1やWEC(世界耐久選手権)を中心としたモータースポーツ、および量産車の技術面を中心に取材・編集・執筆活動を行う。近編著に『F1機械工学大全』『モータースポーツのテクノロジー2016-2017』(ともに三栄書房)、『図解自動車エンジンの技術』(ナツメ社)など。http://serakota.blog.so-net.ne.jp/

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