原 富治雄が見た「セナさんの自分時間」

原 富治雄が見た「セナさんの自分時間」

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1987年のテレビ放映とともに始まったF1ブームを体験した筆者のことだから、どこかの街角で原さんが撮影したポスターと遭遇しているかもしれない。だが、赤白のマシンや黄色いヘルメットが写っていることぐらいはイメージできても、具体的な絵柄となると、とんと思い浮かばなかった。

「それ、見てみたいですねぇ」と言うと、「いいよ。たくさんあるから、本にまとめてみたらおもしろいかもね」との返答をいただいた。
 
保管してあるのは公式ポスターだけではなかった。「セナがバイクの宣伝していたの知ってる?」と原さんは言った。「スパーダ」は現在ではステップワゴンのスポーツグレードの名称となっているが、もともとは1988年に発売されたバイクの名称で、『VT250SPADA』といった。その広告キャラクターにセナが起用されたのだが、撮影を行ったのは原さんだった。
 
どことなく記憶に残っているような気がしたが、公式ポスターと同じで明確な像を結ぶことはなく、純粋に「見てみたい」と思った。もっと興味を引いたのは、原さんがグラスを片手に語ってくれたエピソードだった。

撮影を行ったのは1988年9月のポルトガル。第13戦ポルトガルGPを終えた翌日だった。当時セナはプロストとドライバーズタイトルを争っていたが、前戦イタリアでリタイアしたセナは、ポルトガルでもいいところなく、6位で終えていた。結果、タイトル争いでプロストに逆転を許し、不利な状況に追い込まれていた。

「そんな状況だったからさ、『今日はやめ。そんな気分じゃない』なんて言われるんじゃないかと思ってね」と原さんは言った。顛末は誌面で確認していただくとして、ポスター用写真撮影の裏に隠れているエピソードが興味深かった。原さんしか知らないセナがそこにいたからだ。
 
グラスを傾けながら聞く話としてはまたとない話題だったが、こんなにおもしろい話を独り占めするのはもったいないと、興奮した頭で思った。完成までに約2年を費やしたのは忙しさにかまけての部分が大だけれども、原さんを含めて関係各位の思いの強さが実って形になった。
 
ホンダが第2期F1参戦を始めた頃はまだ、ドライバーが命を懸けて戦っていることが近くにいる人間にひしひしと伝わってきたという。「なぜこんなことに命を懸けるのか。それを確認したいからF1に行っていた」と、原さんは当時を振り返った。
 
本書では、「喜怒哀楽の縮図」だった頃のF1を彩ったホンダと、ホンダに乗ったドライバーたちが、カメラマン原 富治雄の視点を通じて切り取られている。

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text : 世良耕太/Kota Sera
F1ジャーナリスト/ライター&エディター。出版社勤務後、独立。F1やWEC(世界耐久選手権)を中心としたモータースポーツ、および量産車の技術面を中心に取材・編集・執筆活動を行う。近編著に『F1機械工学大全』『モータースポーツのテクノロジー2016-2017』(ともに三栄書房)、『図解自動車エンジンの技術』(ナツメ社)など。http://serakota.blog.so-net.ne.jp/

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