F1ジャーナリスト世良耕太の知られざるF1 Vol.44 ベッテルというキャラクター

Vol.44 ベッテルというキャラクター

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▶︎ベッテルは4度目の王座獲得を決めた第16戦インドで、スピンターンを繰り返す「ドーナツ」を演じてクルマを置き去りにし、罰金を科されたが、以後も優勝後にドーナツを演じてやんちゃぶりを発揮している。ファンジオは’50年代に活躍したドライバー。プロストはマクラーレン・ホンダ時代の'89年にチームメイトのセナとの死闘を制して3度目のタイトルを獲得。シューマッハは7連勝した’04年に7度目のチャンピオンを獲得した。ベッテルは第18戦アメリカで、シューマッハの連勝記録を破った。


4度以上のタイトルを獲得したドライバーはベッテル以外に3人いる。最多記録はミハエル・シューマッハの7回で、ファン・マニュエル・ファンジオの5回、アラン・プロストの4回とつづく。

母国アルゼンチンで英雄視され、'95年に84歳で没した際には国葬で送られたファンジオは、まさにヒーローだった。そのファンジオが4度目のタイトルを獲得したのは46歳のとき。フェラーリを去ったプロストが1年のブランクの後、ウィリアムズで4度目のタイトルを獲得したのが38歳。シューマッハが在籍6年目のフェラーリで4度目のタイトルを獲得したのは、32歳のときだった。

時代が下るにつれ4度目のタイトル獲得年齢は低くなっているが、4回もチャンピオンになるドライバーというものは、ベテランと呼ぶにふさわしいキャリアを重ねてからであることを歴史は証明している。チャンピオンになるには、戦闘力の高いマシンが不可欠であり、戦略や戦術面で隙のない働きをするチームのサポートも必要。ドライバーの才能や努力ではいかんともしがたい側面があるからだ。

ファンジオはドライバーの規範とされる名手だったというし、プロストは冷徹にして隙のない走りから「プロフェッサー」の異名をとった。シューマッハには超人ぶりから「サイボーグ」のあだ名がついた。呼称はなんであれ、偉大な記録を打ち立てたドライバーに漂うのは、偉大な記録を打ち立てたドライバーにしかまとうことのできない威厳であり、風格である。

その点、ベッテルは拍子抜けするほどに「軽い」。BMWでジュニアフォーミュラを闘っていた縁で、ベッテルは10代後半の頃からF1のパドックに顔を出していたが、隙あれば人を笑わせようとするやんちゃな少年だった。その性格は、グレートドライバーの仲間入りをした現在も変わらない。

チャンピオンは近寄りがたいムードを漂わせているもの、というのは受け手が勝手に作り上げたイメージで、だから我々はベッテルの偉業を前にすると当惑してしまうのだろう。簡単にチャンピオンになれるわけではないことは、アロンソをはじめとするチャンピオンドライバーの苦闘ぶりが示している。

ベッテルだけが楽をして栄光を手にしているわけではない。若くして偉業を成し遂げたのは、相応の努力と才能があればこそ。それを軽く見せてしまうところが、ベッテルのキャラクターである。

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text:世良耕太/Kota Sera
F1ジャーナリスト/ライター&エディター。出版社勤務後、独立。F1やWEC(世界耐久選手権)を中心としたモータースポーツ、および量産車の技術面を中心に取材・編集・執筆活動を行う。近編著に『F1機械工学大全』『モータースポーツのテクノロジー2016-2017』(ともに三栄書房)、『図解自動車エンジンの技術』(ナツメ社)など。http://serakota.blog.so-net.ne.jp/

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