エンケイの不思議

エンケイの不思議

アヘッド エンケイ

例えば浜松にある本社のオフィスにはあちこちに観葉植物が置かれている。インテリアのアクセントというには数が多すぎる。廊下に面した数ヵ所の出入り口にはドアではなくて、のれんが扇風機の風にふわふわと揺れている。

そしていい歳をした立派な男性社員が社長を父親のように慕っているという。そんなグローバル企業が他にあるだろうか。……と思っていたら、先日、偶然にもその社長に会う機会を得た。

エンケイは1950年創業。今年、創立67周年を迎えたわけだが、浜松市北部にあった本社を、現在の浜松駅前に移したのは1994年のこと。当時の役員からは「そんなことをするくらいなら機械の一つも買ったほうがいい」と反対もあったという。

「でもね、そうじゃないんです。人は田舎にいると進歩しない。同じ浜松の中でも人の多いところで刺激を受けることが大事。女性社員もね、制服にしてください、お弁当を取ってください。そう言うんです。それじゃあ何のためにここに来たかわからない。画一的なものは良くない。自由な服装で、自由に外に食べに行きなさい、と」 鈴木社長は当時をそう振り返る。

画一的なものは人をだめにする。閉塞感に包まれたオフィスもいけない。有機質な環境を作ろう。「ただ、有機質と言っても抽象的なので、3つ定義しました。すなわち窓を開けて外の空気を入れる。オフィスに緑を置いて気を入れる。生き物を飼う」 なるほど、そういうことだったのだ。

本社ビルは高層階にあるので残念ながら窓は開けられない。それで扇風機を回し、空気が常に循環するようにドアではなくのれんを掛けているのだ。「生き物」は本社では観賞魚、工場では実際に動物を飼っている。

木も花も動物も、生き物はケアをしないと死んでしまう。自分から積極的に働きかけることの大切さを身を以て知るには一番の方法だ。「最初の頃はそれでも造花が置かれていたりね。見つけるたびに捨てましたよ」と笑う。実にユニーク。この方針は国内外全てのグループ会社でも実行しているというから、徹底している。

実はエンケイには「ENKEI DNA BOOK」なるものがあって、そこには社是、経営理念、会社方針、行動指針、DNA15ヵ条、エンケイオーナーシップ、7つの努力、安全基本理念などがびっしりと綴られている。

この中で一番、大事にしてらっしゃるものは何ですか? と聞いてみた。

「ONE STEP FORWARDです。ちょっとだけ先に、ということ。これを軸に、根底のいい部分だけは残しつつ常に変化しなさい、とも言っています。うちはね、自動車メーカーの生産拠点のすぐそばにいて、常にしっかりとしたサプライをする。互いに技術的進歩があって、信頼関係を構築しつつ永続を図る。そこを目指しています。だから嘘は絶対にだめ。特にホイールは強度部品ですから、性能や品質は厳格であるべきです。価格競争は避けられませんが、エンケイの方がちょっと高いけどこっちにしようと言っていただけるようなサムシングエルスが我々には必要なんです」

トップの考え方や人柄が、その会社の企業風土を決定づける。

エンケイグループは鈴木社長が家長を務める一つの大きな家族なのだ。社員が社長を父親のように慕うのはその表れ。一見、日本的な企業風土が、エンケイを世界的なホイールメーカーへと押し上げている。そこにもまたエンケイの不思議がある。

アヘッド エンケイ

画一的なものはよくない。
有機質な環境で、常に”気”を入れる。
そして、自由な環境でものを考えるべきです。
ーエンケイ株式会社 代表取締役社長 鈴木順一


ENKEI
自動車、オートバイ用アルミホイール、及び精密アルミ鋳造部品の製造メーカー。創設は1950年。旧中島飛行機金属天竜製作所のOBらが軽金属鋳造製品の製造に着手したことが現在のエンケイの源流となっている。1967年、まだ日本にアルミホイールの存在すら知られていなかった頃にアルミホイールの製品化に成功し、アメリカへの輸出を開始。その後、技術革新を繰り返しながら、現在は海外8ヵ国の拠点を含めたグループ全体で年間約2400万本を生産し、日本国内はもとより欧米、アジア、オセアニアなどグローバルな市場でホイールを提供。世界トップクラスのホイールメーカーである。http://www.enkei.co.jp

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text:若林葉子/Yoko Wakabayashi
1971年大阪生まれ。Car&Motorcycle誌編集長。
OL、フリーランスライター・エディターを経て、2005年よりahead編集部に在籍。2017年1月より現職。2009年からモンゴルラリーに参戦、ナビとして4度、ドライバーとして2度出場し全て完走。2015年のダカールラリーではHINO TEAM SUGAWARA1号車のナビゲーターも務めた。

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