KTM新社長・野口英康氏という人 バイクを売る責任とは

バイクを売る責任とは

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野口英康
1965年生まれ。1989年マツダ入社。'91年〜'97年までアメリカに駐在。1998年退社。その後、バイクメーカーのインポーターを経て、2011年2月、KTM入社。本年7月よりKTM JAPAN代表取締役社長に就任。


業界を見回してみれば、これだけ狂ったようにバイクを乗り回している社長は、間違いなく野口さんただ一人だ。数十台のバイクのコレクターながら、盆栽バイクにすることなく、暇さえあればどこかで乗っている。もちろん、KTMオンリーなんてことはなく、世界各国のバイクを愛しているのが本物らしい。

実は野口さん。若かりし頃は本気でプロレーサーを目指していたことがあって、ライセンスも国際ライセンスを取得しているし、その昔は全日本選手権なんかにも参戦していた。そう。筋金入りなのだ。

僕と野口さんが知り合ったのは、野口さんの前職である某バイクメーカーのインポーター時代。野口さんが勤めていたそのバイクメーカーのイベントで、長いことインストラクターを務めさせていただいた。年間、3〜4回あったこれらのイベントは、バイク・オーナーに向けた至れり尽くせりの贅沢なイベントだった。

「買うかもしれない人に向けての何かではなくて、買ってくれた人に何かをしてあげたい。それがメーカーの責任でもあると思う」。自身が開発にも携わっていたそのバイクを心から愛していた野口さんは、愛すべきマシンを買ってくれた人にも感謝の気持ちを忘れなかったのだ。

そんな野口さんがそのインポーターを退社。少しの充電期間を経てKTMに入社したと聞いたとき、正直、僕はホッとした。「バイク以外の仕事も考えている…」。休業中には、そんなことも言っていた。

もしそんなことになったら、バイク業界にとって、大切な人材を失うことになったのだから、野口さんにラブコールを送ったKTMにも感謝しなければならない。

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さて。KTMに入った野口さんは、以前にも増してエネルギッシュに動いている。昨日まで日本にいたと思うと、「今オーストリアの本社です」なんて電話も一度や二度じゃない。もともとスポーツバイクが好きというところから、KTMの波長にも合っているのだろう。

そして販売が低迷していたKTMを立て直すべく、様々な仕掛けを行った。「KTMは楽しいですよ!」といった単純な宣伝、試乗会だけでなく、オーナーになった後の、バイクライフの広がりをめざし、イベントでは、レーシングスーツを着て相変わらず一番先頭に立って走り回っている。コーポレートカラーのビビッドオレンジのイメージのように、KTMがいきなり勢いついた印象を持ったのは野口さんの功績も大きい。

そんな野口さんが社長である。平社員から社長に昇格したという前例は、バイクメーカーのインポーターでは初めてだと思う。そしてこれだけのバイク好きが社長になったのも。

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ビジネスの世界では、それは全く関係のないことなのかもしれない。別にバイク好きじゃなくたって、バイクに乗らなくたって、売ることは出来る! と、皆さんおっしゃる。

実際、そうなのかもしれないけれど、バイク馬鹿である僕からすると、それはちょっと寂しい。バイクメーカーのお偉いさんでも、話していると「この人、ライダーの心理を全然わかってないな」と思うことも案外多い。

それは単純に、バイクに乗っていないからで、その温度差はとてつもなく大きかったりする。クルマと違って、寒いし、暑いし、危ないし、難しいし…。良いところよりも悪いところの方が多いくらいのバイクを、しっかり理解する義務が、売る側に本当はあるのではないか。そして、そんな酸いも甘いも知っている強みはあるのか?

そこに期待できるのは、ライダーならではの視点による判断力である。たとえば125や690DUKEの価格設定。単純に利益を考えれば、なかなかできない思い切った値段だ。ライダーだからこそわかる「それなら買う!」金額と、「それじゃあ買わない!」の線引き。

そして、ライダー目線によるバイク遊びの提案。「KTMを買って良かった!」と思うのは、性能だけじゃない。いろいろな意味で得をしたと思ってもらいたい。そんな催しが全国各地で行われている。

野口さんが入社してから、KTMは販売台数を着々と伸ばしている。意地悪な見方をすれば、これは大ヒットした125DUKEが数を伸ばしたから。また、今年も200DUKEという期待のマシンがリリースされたからとも言える。なのでとりあえず、今年も安泰ではあるだろう。正念場はその先にある。しかし、「買ってくれた人を…」というポリシーがKTMジャパンにある限り、一過性に終わることはないはずだ。

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