子供ができた...ミニバンなんて買わないと思ったけれど購入した。今は亡き名車、マツダ プレマシー オーナーズレビュー
更新日:2024.09.09
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ボクがプレマシーを買った理由は、単純明快だ。子供ができたからである。「小さい子供がいるファミリーはミニバンに乗る。それが幸せ」という風潮が世間にはあるけれど、ボクは自分自身がミニバンを買う日が来るとは夢にも思っていなかった。なぜなら、背の高い箱型のクルマが好きではないからだ。クルマは走る楽しさがなければ買う必要がない、と常々思っているボクにとってミニバンは購入対象ではなかった。しかし、ミニバンを買った。子供ができたから。
文/写真・工藤貴宏
文/写真・工藤貴宏
ミニバンを買った。子供ができたから。
もっと正確に言うと、その前に乗っていたクルマでは赤ちゃんの乗せ降ろしがスムーズではなかったからである。ステーションワゴンで、ISO-FIX対応チャイルドシートで着座位置が高かったこともあり、子供を抱き抱えてチャイルドシートに乗せたり降ろしたりする際にどうにもこうにも天井が邪魔だった。だからもっと背の高いクルマ、せっかくなら開けたドアが邪魔にならないスライドドアのクルマに買い替えようと思ったのだ。「一生に一度くらいミニバンに乗ってもいいかな」まさに、環境が変わってクルマを買い変えたパターンである。
とはいえ、走りには妥協したくないからとびきり背の高いボックス型ではないのは、せめてもの抵抗だ。そしてプレマシーを選んだ理由は、購入当時に「スライドドア付きのクルマとしては世界一優れたハンドリング」だったからである。たとえミニバンを選ぶとしても、ハンドリングの良さは絶対に譲れなかった。
3列目が欲しいと思ってミニバンを選んだわけではなかったから、3列目のシートは使うつもりがなく、購入時にはオプションでトノカバーを追加(音の発生源のひとつであるリヤタイヤ付近を覆うことで静粛性も高まる)。納車時に畳んだ3列目は、所有する5年間で1度も起こすことはなかった。ボクにとってはミニバンというよりも、ちょっと背の高いスライドドア付きのステーションワゴンを買ったくらいの感覚だ。
サイズは絶妙だ。日常的に妻が運転することが多かったが、車体がコンパクトなのに加えて視界がいいから「運転しやすい」と大好評。室内の広さに関しては上を見ればきりがないけれど、ボクにとってはプレマシーくらいで十分だった。2列目を最後部までスライドすればその足元は十分に広く、小さな子供との3人暮らしならちょうどいいサイズだ。クルマは大きければいいってもんじゃなとボクは常々思っている。
ちなみにボクが手に入れたプレマシーは、スカイアクティブのパワートレインが搭載された仕様。2.0Lのガソリンエンジンに6速ATを組み合わせたモデルで、最上級の「20S Lパッケージ」を選んだ。電動スライドドアが両側に付くしサイドエアバッグやクルーズコントロールも備わるので、充実装備の割にはお買い得感が高かったからだ。カラーは鮮やかな「ジールレッドマイカ」。希望ナンバーで「55」を取得したが、それは松井秀喜選手の大ファンだからではなく、マツダが1991年にル・マン24時間耐久レースに出場し優勝した787Bのゼッケンであるのは言うまでもない。
ミニバンとは思えない走りには、期待以上に素晴らしかった。
意のままの操縦性。人馬一体の走り。プレマシーのハンドリングは、運転しているとミニバンだとは感じさせなかった。しなやかなのに反応遅れなく素直に曲がり、嘘偽りなく峠道が楽しくて仕方がないほどである。ミニバンなのに。
運転好きのボクにしてみれば、たとえミニバンであっても運転がつまらないクルマなんて所有する価値がない。そんな偏った視点から見ても、大満足のクルマだった。ドライビングプレジャーが詰まっていたのだ。
そのうえ、ファミリーカーとしては重要な乗り心地だって悪くなかった。操縦安定性の開発担当者に聞いたところ「バネレート自体はけっこう硬い」というが、いっぽうで「でも、それを感じさせないでしょ?」というのはまさにその通りで、マツダはじつにいい仕事をしたと思う。
パワートレインに関しては、トランスミッションがよかった。一般的に4気筒エンジンを搭載するミニバンのトランスミッションはCVTである。しかしプレマシーは6速ATを搭載。ほかのミニバンとはアクセル操作に対するクルマの反応が違ったし、速度の伸びがリニアで心地よかった。
雹に見舞われてボンネットや天井にへこみができるというアクシデントはあったものの、所有する5年間の間で、トラブルらしいトラブルもなくしっかり活躍してくれた。バッテリー寿命が短くなりがちなアイドリングストップ車ながらバッテリーは5年間無交換で済んだし、燃費もほぼ街乗りなのに約11キロと良好。満足度はかなり高く、不満点と言えばもう少しトルクがあれば乗りやすいと思うくらい。
エアコンが左右独立温度設定じゃないとか、インテリアの質感が高くないとかもあるけれど、価格とのバランスを考えればこのくらいが最適解なんじゃないかと思う。いずれにせよ、小さな子供を持つクルマ好きのパパにとっては最高のマッチングだった。
やっぱり、不満に思うのはプレマシーには後継モデルが存在しなかったこと。
ただ、オーナーとして悲しかったのはマツダがプレマシーを育てようとせずに完全に放置してしまったこと。CX-5など次世代商品がどんどんアップデートされていくのとは対照的に、プレマシーは購入から5年にわたって小改良すらおこなわれなかった。ずっと最新モデルだったのはある意味ラッキーなのかもしれないが、フルモデルチェンジすることなくそのまま最終モデルになってしまったのだ。
もしフルモデルチェンジした次期プレマシーが登場し、マツダ自慢のディーゼルエンジンを積んでいたら、僕は間違いなくそれに買い変えたことだろう。
きっと、こんなにハンドリングに凝ったスライドドアの小型ミニバンは二度と発売されることがないに違いない。プレマシーのポジションは売れ筋ジャンルではないからメーカーの利益に貢献しないという背景があるにせよ、実に残念と思う。
工藤貴宏|TAKAHIRO KUDO
1976年生まれの自動車ライター。クルマ好きが高じて大学在学中から自動車雑誌編集部でアルバイトを開始。卒業後に自動車専門誌編集部や編集プロダクションを経て、フリーの自動車ライターとして独立。新車紹介、使い勝手やバイヤーズガイドを中心に雑誌やWEBに執筆している。心掛けているのは「そのクルマは誰を幸せにするのか?」だ。現在の愛車はルノー・ルーテシアR.S.トロフィーとディーゼルエンジン搭載のマツダCX-5。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。