テスラ モデルXの試乗レビュー|性能や安全性は?

テスラモーターズ モデルX 75D

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世界で唯一無比の完全電気SUV「テスラ モデルX」。2012年のジュネーブモーターショーで発表され、2015年から北米でデリバリーが開始されました。日本でも2016年に発売が開始されましたが、試乗して感じたその魅力に触れたいと思います。

文・山崎友貴 写真・S.Kamimura
Chapter
テスラ モデルXは人類未体験の領域を走るSUV
テスラ モデルXの車内はまるでコンセプトカー!
テスラ モデルXの走りは従来のクルマとは異次元
テスラ モデルXは自動運転制御も先進的

テスラ モデルXは人類未体験の領域を走るSUV

スポーツカーの「ロードスター」、セダンタイプの「モデルS」に続いて、EV専門メーカーであるテスラモーターズがリリースしたのが、クロスオーバーSUVの「モデルX」です。世界にPHVやHVのSUVは存在しても、電気自動車はこのモデルXのみという希有な1台なのです。

エクステリアは非常に特徴的です。フルサイズに若干満たないボディサイズですが、堂々たる体躯の持ち主と言えるでしょう。エンジンがないため冷却系を必要とせず、必然的にフロントグリルは存在しません。そのマスクは、まさしくテスラの1モデルという印象に溢れています。

ルーフラインは空力を考えて、後部に向かって緩やかに下がっています。通常のSUVであれば、ラゲッジルームのスペースユーティを考えて箱形にすることが多いのですが、後ろが垂直気味に切れ落ちたボディ形状は車両後部で乱流が発生しやすく、空理的に不利です。

そこでプリウスのようなハッチバック形状を採用して、X6のようなクーペスタイルに仕上げています。この形状は一見して空気抵抗が少ないことが分かりますが、SUVでありながらモデルXは最長推定航続距離565㎞を達成しています。もちろん、これには素材の軽量化なども寄与しています。
さらに驚くべきは、ファルコンウイングという上方に向かって大きく開口するドアを、セカンドドアに採用したことです。ドアのヒンジ部分も非常にユニークな機構を使い、電動によってストレスなく開閉できます。ストレスがないのは、乗降も同様です。例えドアサイドのスペースがない場所で乗降する時でも、開口部が大きいために身をよじらせるなどということがありません。

さらにファルコンウイングドアは大きなメリットを持っています。モデルXはこのサイズのライバル同様、サードシートを選ぶことができるのですが、サードシートへの乗降が驚くほどスムーズにできるのです。狭い「穴」に入り込むような姿勢を取る必要は無く、立ったまま車両後部に乗り込めるのは感動でした。

ちなみにモデルXは購入時に5人乗り、6人乗り、7人乗りのシートレイアウトの選択が可能で、多様なライフスタイルに対応しているのもトピックのひとつですが、インテリアについては後述することにしましょう。
ヘッドライト内に設けられたポジションランプ(デイライト)やリアコンビネーションランプが明発光になっているのも、いかにも高級車という印象。タイヤ&ホイールは20インチを採用し、このクルマが非凡な走行性能を持っていることをさりげなくアピールしています。

ただしインテリアに比べたら、エクステリアは敢えて凡庸であると言っておきましょう。このクルマのドライバーズシートに乗り込んだ時、それは分かります。


テスラ モデルXの車内はまるでコンセプトカー!

モデルXへのエントリーは、個体別に付属するスマートキーで行います。ロック解除などの操作の必要はなく、ドライバーがドアに近寄れば、電動でドアを開けてくれるのです。またドライバーズシートに座った後、ブレーキペダルを軽く踏めば、ドアを自動で閉めてくれます。まだ「ナイトライダー」のように音声で…とはいきませんが、十分に“未来”を感じさせてくれる瞬間です。

乗車するとすでに、モデルXの“準備”は完了しています。ON/OFFスイッチ(イグニッションに匹敵するもの)すらありません。ブレーキを一度踏むことで、モデルXは目覚めます。エクステリアがシンプルなのに対して、インテリアはまるでショーに出展されるコンセプトカー。
メーターはもちろん液晶式、センターコンソール部にはひときわ目立つ大型の縦位置液晶モニターが配置されています。モデルXの各部の操作は基本的に、この液晶パネルにてすべて行うのです。それはまるで、かつてSF映画で観た未来のクルマそのものです。

ちなみにカーナビゲーションシステムはGoogleマップと連動しており、通信モジュールで検索や地点情報を入手。新鮮な地図情報と交通情報が常に愛車にインストールされていることは、何気に大きなメリットと言えるでしょう。
各シートは背面がスタイリッシュなシェルは丸見えで、まるでスポーツカー。もちろん無粋なシートレッグなどありません。1本のレッグが床のプレートと直結しており、床が動くような感じで前後に電動で移動します。

サポート面のトリムは本革。豪華さをアピールするために、インストルメントパネルには、クリア処理さえもしていない杢のパネルが奢られているのもポイントです。

上を見上げれば、フロントガラスがフロントシート頭上まで回り込んでいます。戦闘機のコックピットにでも座った高揚感がありますが、ガラスはUV(紫外線)とIR(赤外線)の対策が施されており、ルーミーであっても日光による不快感はまったくありません。

ドリンクホルダー内のディバイダーひとつにとっても、非常に前衛的です。クルマ好きのオーナーがどういう点で悦楽を感じるのか、エンジニアやデザイナーが十分に理解し、それを丁寧に具現化していることが非常によくわかります。

アナログ的な操作系はごく一部で、ほとんどがデジタルのインターフェイスで…というのはフェイルセーフという点では気になります。ですが、従来の自動車メーカーの価値観とはまったく異なるアプローチがされなければ、テスラモーターズのクルマは生まれなかったということでしょう。

テスラ モデルXの走りは従来のクルマとは異次元

モデルXの“異質さ”に驚いた後は、実際に走らせてみましょう。モデルXでは「ドライバーズプロフィール」を作成することができます。シート位置やドアミラー調整などの“記録”を残しておくがことができるのです。一度設定すれば、仮に別な人が乗った後でも自分の設定をモニター画面から呼び出すことが可能です。

またPINコードを設定することで「バレーモード」にすることができます。このモードにしておくと、解除しない限り、最高速度、最高出力、最大トルクが制限される他、様々な機能を他人が使えないようにできます。この辺りは何ともアメリカ的な感じがします。

さて、すでにモデルXは「スタンバイ状態」になっています。発進させるにはブレーキペダルを踏み、コラムシフトタイプのATレバーをDレンジに入れたらOKです。

EVの特徴はエンジンのトルク変動を感じることなく、ミズスマシのように発進するところにあります。スーっと滑るよう発進する感じと言えばいいでしょうか。モデルXでも同様のフィーリングを想像していたのですが、実際はまるで異なります。大排気量V型エンジンを積んだスポーツカーのように、力強く飛び出していくのです。

モーターは電流が流れた瞬間に最大トルクを発生するという特性があるためですが、最初はとまどうほどのトルク感です。何回か信号でのストップ&ゴーを繰り返すうちに、とまどいは快感へと変わっていくでしょう。

ちなみに減速時のエネルギーをバッテリーに戻す「回生ブレーキ」には、強弱2つのモードがあります。強の方にしておくと、アクセルペダルを離すだけで完全停止ができるほど、強力なブレーキがかかります。これを上手くコントロールすれば、1ペダルでドライブが可能になります。

高速道路に入り、さらなる加速を試みてみましょう。ここでも、モデルXは異次元を走りを体験させてくれました。グレードによってモーターのトルクが異なるため加速データも変わりますが、最上級グレードの「P100D」で0-100km/h加速が3.1秒という数値が発表されています。

実際には戦闘機には乗ったことはありませんが、空母からカタパルトで射出される際はこんな感じなのかも…と思わせるような、恐ろしいほどの加速感でした。

ただしEVなので、欲望を抑えてアクセルを踏まないようすれば、至ってジェントリーなフィーリングです。サスペンションの味付けも実によく吟味されており、スポーティ感と高級感の融合が実に上手く実現できていると言えるでしょう。

首に来るような硬さはなく、かと言ってSUVにありがちな不快なロールもない。敢えて言うなら、「ごくごく普通に乗れる」感じに好感が持てます。

テスラ モデルXは自動運転制御も先進的

モデルXには1個の前方監視カメラとレーダー、そして12個の超音波センサーが装備され、これで常に周囲の状況を監視しています。この各装置からの情報を基に、様々な運転支援制御を行っているわけです。

中でも今、自動車オーナーが最も注目しているのは、テスラの「自動運転システム」なのではないでしょうか。残念ながら日本では、コンプライアンスの問題からアメリカで実用されている完全自動運転システムは導入されていません。ですが、「半自動」でもモデルXのそれはかなり先進的です。

国産車の同様なシステムでも、敢えて条件の悪い首都高速で試してみるのですが、国産車に搭載されている多くの自動運転支援システムは、セーフティファーストが徹底されているのか、それともセンサーからの情報をCPUが処理し切れないのか、頻繁に解除されることが多かったように記憶しています。

特にトンネル内のカーブでは、R内での壁までの距離測定が難しいのか、なかなか上手く作動しないことがほとんど。ですが、モデルXではそういったシーンでも難なくクリアし、前方車両のあるなしの判断から加速減速までが非常にスムーズだった印象を受けました。

また国産車のシステムでは、ステアリングから手を離してしまうとシステムがキャンセルされてしまうのですが、モデルXでは作動が継続します(説明書では手を添えるよう警告していますが)。もちろん手を添えていることでの安心感は違いますが、この辺は完全自動運転を実現しているテスラの片鱗を感じさせてくれます。

パーキングアシスト機能については、今回のテスト設定条件が悪かったのか、試乗時間内に作動することはありませんでした。ですが、編集部スタッフが別日に見た時は、簡単に縦列駐車をこなしたそうです。
さて、今回試乗した75Dは、75kWのバッテリーを搭載して、数値状の最大航続距離は417km。もちろんこれは、一定の条件内でのテストデータです。

運転しての率直な印象としては、やはり電力消費がかなり早い感じでした。今回の試乗は市街地がほとんどでしたので、高速道路での巡航になれば、回生電力なども含めてもう少し改善されるのではないかと期待を残しておきたいと思います。

ちなみに現在、テスラは国内31箇所(予定も含む)に独自の充電ステーション「スーパーチャージャー」を設けています。モデルXはスーパーチャージャーで年間400kW・約1,600km分の電力が無料で提供されます。その他、サービスエリアや公共施設などに設置された急速充電器も、アダプターを装着して有料で使うことができます。

今後、インフラがさらに拡大していけば、モデルXは安心して乗れる極上のSUVになるはず。価格は1,000万円以上と、まだまだ庶民には高嶺の花ですが、モデル3が500万円を切ると目されていますので、リーズナブルなSUVが登場する可能性は十分にあります。

いずれにせよモデルXは、未来のイメージを現実のものにしてくれた胸ときめく1台です。エコロジーというイメージばかりが先行するEVにおいて、「楽しい」というクルマの大切な要素を持ったモデルでした。

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