Vol.2 24歳独身男性会社員が、ブルジョアに憧れて初めて購入する車

ポルシェ981 ボクスター

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思いきり背伸びをして何かを手に入れたりすることが多い。ファッションでいえば、僕は中学1年生の頃に"裏原系”のブランドのジーンズやスウェットに数万円を費やしたり、新卒でサラリーマンとなって新品で購入したロレックスのコスモグラフ デイトナなどだ。

一見、馬鹿げているようだが、それを身に着けたときの高揚感は、自分をどこか別世界、いや別の一人の人間にさえしてしまう。これは体験したことのある人にしかわからないだろう。周りと異なる世界を感じることが増え、自分が自分ではなくなると感じることが増える。均質化していく世界でアイデンティティを確立するには、そのようなことの連続が必要だろう…。
Chapter
きっかけは、思いがけない時に現れる
彼が初めて購入した車は?

きっかけは、思いがけない時に現れる

とあるきっかけで、知人にそろそろ車を買ってみてはどうか?と勧められた。

いい腕時計を左腕に、高貴なファッションを身にまとい、高級車を乗り回すブルジョアなライフスタイルには憧れるが、正直買う気はなかったため、「いいですね」と受け流していた。

日々働いている僕からしたら乗る機会は少なく、買うとなったらこだわりを持って選びたい、そうなるとコストフォーパフォーマンスだけみたら絶対に割りに合わないためだ。
"車を足として、とにかく走ればよい"という価値観で選ぶのは僕の性に合わない。一方で、より好みをすると自分の年収では到底むりな車たちが並ぶ。そんなことを思いながら彼とは話をしていた。

数日後、また彼に会う機会があった。僕は「走りを愉しめる、高貴なファッションを身に纏うようなクルマが欲しい」と話していた。

しかしそんな車はいわゆる外車の高級ラインじゃないとなかなかないんだろうな、そりゃそうかと当たり前のことを考えていた。
そんな話をしていると、246号線沿いを真っ白なポルシェの911タルガが乾いたエンジン音を持って走り去っていった。

漫画でよくあるが、”ビビッ”と雷に打たれるような衝撃を感じた。走り去った後には完全に虜になっており、気づいたらメーカーサイトや中古車サイト、自動車メディアをあさっていた。

彼が初めて購入した車は?

それから1週間が経った頃、自分の年収で精一杯背伸びして、手に入れることのできる範囲内、とはいえ実際には背伸びを超えてジャンプしているほどの価格のポルシェを購入した。

2015年式のポルシェ ボクスター981、もちろんボディカラーは246号線で見た911タルガと同じ白で、幌はワインレッドをチョイス、エグゾーストノートを愉しむため、純正のスポーツマフラーをオプションで追加。

水平対向6気筒で2.7Lエンジン 265馬力をミッドシップに積んだ、最後のボクスターであり、NA最後のモデルになるだろう。
ボクスター981はまさに「走りを愉しめる、高貴なファッションを身に纏うようなクルマ」である。

出かける機会が多くなり、目的地よりも道中の方がエンジョイできるため、わざと遠回りして行くことさえある。もちろん同乗人には言えないが…。

思い切り背伸びすることで、また僕は憧れに近づいた気がした。ボクスターもまた僕を別の人間にしてくれたのだ。
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