1989年生まれ!当時双璧を成した高級乗用車セルシオとインフィニティQ45はどちらが良い?

日産 インフィニティQ45

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平成元年は「ビンテージイヤー」と言われる程に、日本車にとって記念すべき一年となりました。R32型スカイラインやユーノスロードスターのようなスポーツカー、またレガシィのような現代に続く名車の誕生もこの年のことでした。そんな中で一際注目を集めたのはトヨタと日産がそれぞれに、しかもほぼ同じタイミングで発表した二台の高級乗用車・・・。セルシオとインフィニティQ45。全長5メートルにも届く大きなサイズに大排気量V8エンジンを搭載し、欧米のライバルに挑戦状を叩きつけたこの二台は、しかしその後明暗を分かつことになっていきます。

今回はセルシオとインフィニティQ45、それぞれの魅力と特徴に迫ります。
Chapter
セルシオの「スタイリング」
インフィニティQ45の「スタイリング」
セルシオの「インテリア」
インフィニティQ45の「インテリア」
セルシオの「エンジン」
インフィニティQ45の「エンジン」
セルシオの「走り」
インフィニティQ45の「走り」
セルシオの「その後」
インフィニティQ45の「その後」

セルシオの「スタイリング」

セルシオのスタイリングはオーソドックスなラインを踏襲しながら、面の連続性を持たせ、またアンダーボデーに至るまで徹底した空力的処理を施されたものでCD値0.29。この優れた空力性能により高速での速度を稼ぎながら安定性を得る、つまり空気を味方につけた高速性能を手に入れていたわけです。ただただオーソドキシィを採っていたというわけではなかった、ということですよね。十分に研究実験がなされた確かな裏打ちのあるスタイリングだったということです。

ただし、そのテイスト、パッと見の印象はどこかメルセデス・ベンツを思わせるようなところがあって、完全なオリジナリティを発揮できていなかったところが惜しまれた部分ではありました。こうしたステータスのある高級車に、トヨタ自動車は当時まだ慣れていなかった。未開拓の領域に対してデザインという感性分野での冒険は控えた、という見方ができると思います。そんなあたり、まずは無難に地固めをしようと考えるのがトヨタらしい慎重な戦略だったと思います。

しかし、アメリカでは燃費に対する課税も厳しく、空力処理でスピードと燃費を稼ぐというセルシオのやり方は、じつはこの当時の最新のトレンドであり、アウディやBMWを筆頭に車体デザインには空力的要素を強く盛り込むことになっていきます。それはアウトバーンでの高速性、安定性、静粛性、を得るためにも必須項目。その意味でセルシオはトレンドの先頭を行っていました。

インフィニティQ45の「スタイリング」

「ジャパン・オリジナル」・・・インフィニティQ45のデザインテーマは日本独自の高級車像というものでした。従来から日産は次世代車のデザインスタディをさかんにおこなっていて、モーターショーにもARC-Xといった先鋭的なコンセプトモデルをぶつけてユーザーの反応を伺うという、やはりここでも「攻め」の姿勢で臨んでいたことがわかります。インフィニティQ45もそうした日産の当時の次世代車のデザインテイストの流れにあって、大きなキャビンを流麗なルーフラインがカバーするというエレガントなスタイリングが採られました。

正直賛否別れたグリルレスに七宝焼き唐草模様のエンブレムというフロントマスク、メッキを極力廃止した、装飾に対する抑制された考え方など、従来の高級車像とは大幅に異なった「チャレンジ」をこのクルマは行なっていて、そんな姿勢を「良し」とすれば諸手を挙げて受け入れるし、「否」となれば徹底的に否定されるという、両極端な心理を与える結果となりました。しかし「個性」とはそうしたものです。躊躇うことなくこうしたデザインを、しかも会社の旗艦となるようなクルマに施して来るというアグレッシブさが当時の日産そのものでした。

ただしこのデザイン、諸々問題も無いではなくて、たとえばグリルレスマスクのためどうしてもエンジンルームへの導風がうまくいかなくて、夏場の都心の渋滞ではオーバーヒートを起こしやすい傾向があったり、時にエンジンルーム内の温度上昇で燃料ホース内で燃料が沸騰状態となり空気を噛んでしまう「パーコレーション」状態を起こしてしまうなど、攻めた結果の弊害も少なくなかったといいます。

セルシオの「インテリア」

画像は輸出仕様「レクサスLS400」の画像です、ご了承ください。
セルシオのインテリアもまた従来トヨタ自動車が持っていた高級「観」をそのまま延長したような高品質なものとされ、布、革、木目とも、きめ細やかな仕上げと質感、耐久性を持つという日本車らしい仕立てとなっていました。

しかしさすがに海外でメルセデス・ベンツやBMWなどと渡り合うことを目的としているだけのことはあって、いわゆる日本車のドメスティックな高級観とは距離を置く洗練された印象でまとめられてはいましたが、メーターパネルには自発光タイプの美しく視認性も高い「オプティトロンメーター」が採用されるなど、トヨタがこれまで蓄積してきたノウハウもふんだんに盛り込まれました。

シートに対する評価は、残念ながら初代セルシオの、とくに初期モノに関してはちょっと弱かった部分で、この点はまだまだトヨタ自動車は発展途上であり、研究を進めなければならないと当時から認識していたようです。その証拠に、マイナーチェンジごとにシートの改善が加えられ、どんどん良くなっていったというのは、当時からセルシオを何台も乗り継いだ方から伺った感想です。

インフィニティQ45の「インテリア」

高級車のインテリアに木目を使わない・・・これもまた大きな冒険と言えました。インフィニティQ45のインテリアはシート素材こそベロアと本革が選べる常識的なマテリアルを選択しながら、木目パネルは使用せず、オプションながら、なんと漆塗りに蒔絵の文様を施した、まさしく「ジャパン・オリジナル」というべき特徴的な仕立てを持っていました。この「KOKONインスト」なるインテリアフィニッシャーは職人の手になるハンドメイドといわれ、その生産量には限りがあったのだとか。日産自動車はこの頃から他方、ローレルにも漆塗り調のパネルを用いてみたり、また現代でも本アルミパネル(スカイライン)や銀粉木目(フーガ)など、インテリアフィニッシャーにはかなりチャレンジングなところがありますよね。この「KOKONインスト」はまさしくそのハシリと言えるような存在。

インテリアデザインはモダンかつスポーティなもので、どちらかというと打ちっぱなしのコンクリートが露出しているような都会的なマンションの一室を思わせるクールな印象のもので、シートの形状もまたしかり。掛け心地はセルシオよりこちらのほうが優れているという評価も高く、決して見掛け倒しではない、機能も伴った「アバンギャルド」なインテリアだったことがわかります。

乗ってみればわかりますが、木目やメッキが無くとも、インフィニティQ45のインテリアのフィニッシュレベルはとても高くて、価格に見合うだけのものはあると感じることはできるものです。しかし、写真だけで見るとどうしてもわかりやすい「飛び道具」がなかったのが弱点で、つまり写真映えしないわけですよね。その分大きく損をしていたと思います。しかし日産としては、写真ではなく、実体験でこそ得られる高級感という、やはり従来の考え方から一歩踏み出した価値観をここでも見せつける、そんな気概を持っていたように感じられます。

セルシオの「エンジン」

4リッターV8「1UZ-FE」型は高い工作精度と品質管理によって高い静粛性と低振動、また低フリクションによる高出力好燃費を一挙両得するエンジンで、全世界的に高級車のパワーユニットとして強い影響を与えていくことになります。出力は控えめな260馬力(国内仕様)とされ、当時280馬力の規制一杯までパワーアップするクルマが多かった中、そのスペックはあまり目立ったものではありませんでした。しかし、各部精度の高さによる高い「効率」による「高性能」は理屈抜きのパフォーマンスで、誰もがそのバランスの高さに唸らされたものです。

ターボなどのデバイスや限界まで高められたチューニングというより、「総合性能」で勝利を得るという、まさしくトヨタ自動車の真骨頂とも言うべきこのV8エンジンがあってこそ、セルシオというクルマの名声は確立されたといって過言ではないはずです。

特筆すべきはその燃費の良さ。都内を普通に流しても7Km/Lは走ると当時の媒体も評価をしており、高速を走ると12Km/L程度まで伸ばした例もあったのだとか。トヨタはこのエンジンをアメリカの「燃費税」のボーダーラインをクリアすることを目的の一つとしていましたから、あらゆる面で効率を高めることに邁進し、それが燃費も動力性能も同時に高めた・・・そのノウハウは現代の低燃費エンジンにも引き継がれているものかもしれませんね。

インフィニティQ45の「エンジン」

セルシオと同じV8エンジンを採用したインフィニティQ45の排気量はその名のとおり4.5リッター。こちらは当時の規制一杯280馬力まで出力が高められ、輸出仕様では300馬力を絞り出していたという高性能エンジン。セルシオがどちらかというと全体のバランスで好成績を得ていることに対し、こちらはダイレクトでスポーティな「走り」の「楽しさ」を追求しているようなところがありましたから、キャラクターはまったく異なり、またそのことが面白さでもあったと思います。

インフィニティQ45はセルシオに対して燃費では明らかに劣っていました。しかしそのパワーフィールは軽やかでしかもダイレクト。セルシオのトランスミッションがあくまでもスムーズさを追求していたことに対し、こちらは、多少ショックが残っても変速ラグの少ない素早いシフトチェンジを追求したものになっていて、そうした面でもスポーティ、あるいは本当にスポーツカーのようなテイストを持ち合わせていたと言えます。筆者は乗ったことがありませんが、当時のポルシェ928にも通ずるものがある、という評価もあったほど。

日産はこの本格高級乗用車を「スポーツカー」にしたかったのだということがわかります。そしてその思想はやはり伝統や常識を重んじる高級車の顧客層には響くことがなかった。そもそもインターナショナルな高級乗用車の経験の少ない当時の日本が送り出す製品として、たしかに従来の価値観を踏み出すという「冒険」は必要だったかもしれません。そこは敢えて日産はチャレンジした。でもそれは理解されなかった。残念なことです。

セルシオの「走り」

画像はレクサスLS400。
セルシオの走りはとにかくスムーズで高い静粛性が大きな強みでした。これはトヨタが従来からクラウンなどで培ってきた静粛性、あるいはノイズ、振動を抑制するためのノウハウが大きく生かされたことは言うまでもなく、「源流主義」と称して、音や振動はその根源から断つという施策が展開されたおかげで、ここでもまたやはり低フリクションによる「高効率」を生み出すことができ、クルマ全体の総合力を高めることに貢献する、というクルマ作りの考え方を持っていました。

国内上級グレードはエアサスでしたが、これはさすがにヨーロッパの高速域では力不足とされ、輸出仕様はコイルばねの仕様がメインとなっていたようです。エアサスの車高調整機能は空力性能も左右するためトヨタとしては推進したいところでしたが、確かなロードホールディングを要求される欧米市場からのニーズにはコイルばねで対応していたというわけです。

重量感のある、しかもフラットでスムーズな乗り心地はそれまでのクラウンとも一線を画した他に例を見ないもので、どっしりと腰を落ちるけて悠々と走るという姿は正しく高級乗用車そのもの。そのスムーズさ、静けさを高く評価され、むしろ危機感さえ抱いたメルセデス・ベンツやBMW、ジャガーはこぞってセルシオを買い込み研究材料としていたことはあまりにも有名、そして当時の日本車として誇るべきエピソードと言えました。

インフィニティQ45の「走り」

当時の日産は「901運動」と称して、ハンドリングを重視したクルマ作りに傾倒していました。もちろんこのインフィニティQ45もその例に漏れず、十全な実験試験走行を重ねて、ドライバーにハンドルを握ることの楽しさや喜びをもたらすことを目標としていました。事実、エンジンの項でも書かせていただきましたが、このクルマの動力性能は高級乗用車というより「スポーツカー」のそれに近くて、馬力も非常に高い。そうなるとおいそれと快適性だけに振ったセッティングでは出せない、という考えもあったはずです。故にとても硬派な仕上がりを持った足廻りを持っていました。

目玉はアクティブサスペンション。油圧制御で車高のみならずロールやノーズダイブなども制御してしまおうというもので、画期的、かつ意欲的なシステムとして評価されましたが、これはのちの維持管理の面でおおきなハンデとなっていくのでした。まだ実績のないアクティブサスは未知数な部分も多く、その耐久信頼性については手探りな部分が多くあったのです。事実中古車になるとアクティブであるというだけで避けられてしまい、Q45はバネサスのほうが売れる、という事態にまでなってしまいます。

もちろんこれも日産の攻めた作りの結果。臆することなく様々なチャレンジを行ない、それを許可され、まるで「当たって砕けろ」式に作られたようなところのある、その意味では「自由」な気風のあるインフィニティQ45。しかしいつの世も同じで、評論家筋での評判がいいクルマというのは市場ではその反対、というジンクスにたがわず、やはりこの「走り」の面でもインフィニティはマイノリティな存在になっていくのでした。

セルシオの「その後」

セルシオはバブル真っ只中に登場し、当初相当な人気を博しプレミアも付くような長期納車待ち状態となるなど堅調なセールスを続け、その後のバブル崩壊後もすでに短期間で樹立できた「信用」や「定評」が礎となって高級乗用車としての地位を確かなものとしていきます。海外でもなかなか認知されなかった日本の高級乗用車として、このレクサスLSを足がかりに評判を高め目の超えた欧米の高級乗用車の顧客層を納得させることに成功します。

その後のセルシオ、レクサスの展開はもうご存知でしょう。二代目では軽量化と走行性能向上を図り、その中期モデル以降では今日に至る人気グレード「Bユーロバージョン」を設定。三代目では排気量アップを行ない動力性能と排気ガス、燃費対策に対応すると同時により力をつけてきた欧州のライバルを迎え撃つためのアップデートが随所に施され、完成度を高めていきます。やがて国内でもレクサスブランドが展開されるようになり、「セルシオ」はいよいよ「レクサスLS」へと統合されることに。

東洋の島国が世界に打って出た高級乗用車の、いわば「サクセスストーリー」を見せつけられているかのようです。しかし現行型のLS460は既に10年を迎えようとしています。以前ほどこのクラスのクルマの販売が堅調ではないという面があるにしても、そろそろ新しいモデルが出てきてもいい頃ではないでしょうか。既に定評のあるクルマのモデルチェンジは難しいと言われていますが、そこはひとつ国内トップブランドの誇りにかけて、誰もが納得する「現代の高級乗用車像」を見せつけて欲しいものです。

インフィニティQ45の「その後」

冒険的なスタイリング、先鋭的でモダンなインテリア、スポーツカーのような力強い走り・・・。インフィニティQ45は何から何までチャレンジングで常識外れな高級乗用車でした。しかし、そこがよかったのです。一般ウケはしなかったけれど、スタイル、インテリア、またエンジンやアクティブサスにしろ、マニア好みのするチョイスに溢れていて、いわゆる「技術の日産」を象徴するような存在感を持っていました。

高級乗用車としてどうあるべきか、それはマニアックなものでいいのか悪いのか、という議論は当時からありました。しかし結論としては、「好きになったらそれでいいじゃないか」というところに落ち着いたと思います。売れていようがいまいが、それは関係ないのです。気に入って、高額な車両代でも支払う価値があると思えばそれは高級車であると。

インフィニティQ45はその後、不評だったグリルレスマスクを改め、上品な印象のメッキグリルを新設しインテリアにも木目を用いるなどして、やや一般化が図られました。またそれ以前に、インフィニティQ45をベースとして日産はプレジデントを新しくしています。主にフロントマスクを格調あるクラシックな印象のものに変更し、インテリアにもショーファードリブン(運転手付きのクルマ)向けの装備やコノリーレザーなどを新採用して、日本向けの最高級車としてスタートを切ります。そしてこれが思いのほか長生きして、2000年代まで生産が続けられました。

海外ではインフィニティブランドに一定の評価が与えられ、Q45は代を重ねモデルチェンジをしていくことになります。しかしそのベースはほとんどシーマであり、初代Q45のような「一品入魂」といった風情からはやや遠ざかってしまいます。

さて。こうして見ると「手堅く保守的」なセルシオに「挑戦的でリベラル」なインフィニティQ45という構図に見て取れるような気がしてきます。あくまでも総合的に性能が高く、総合的に評価の高かったセルシオ。またあくまでも従来の価値観から一歩抜け出し新しい高級観の創造にチャレンジしたインフィニティQ45。あれから25年以上という月日が経過し今改めて当時のことを思い出してみると、なんと対照的でそれぞれに魅力を持った高級車であったかを再認識させられます。

個人的には・・・。挑戦してギャンブルに出て、でも敗れてしまったけれどそのチェレンジ精神を高く評価してインフィニティQ45を支持したい気持ちです。

皆様ならどちらを採りますか?

<前田恵之進>
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