FFの高級車は日本や海外でどのように開発されてきたのか?FR車と違う特性とは?

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FFレイアウトというのは、クルマの限られたスペースを効率的に客室や荷室に充てるための合理的なレイアウトで、主に実用車や小型車で用いられることが多いです。

中にはFFで高級車を成立させている例もこれまでにいくつもありました。

しかしここ最近は高級車といえばFRかAWDです。FFで高級車を作ることは難しいのか、FFは高級車にふさわしいのか・・・。今回はいくつかの例と共に、このあたりに注目してみます。
Chapter
FFの課題はハンドルの手応えとエンジンの前後動揺だった
近代FF高級車はこのメーカーから
日本におけるFF高級車の先駆けは?
けっこう多いアメ車のFF
国産のFF高級車は見渡すと少ない
やはりFRのほうがいいのか?

FFの課題はハンドルの手応えとエンジンの前後動揺だった

FFレイアウトというのは合理的なスペース効率をもつ代わりに、ドライブフィールにおいて課題があったのは確かです。

・ステアリングフィール
ハンドルを切ると前輪が向きを変えます。同時に動力を路面に伝えるのがFF。しかもクルマは加速の際に前を持ち上げますから前輪の接地状態というのは必ずしも安定しているわけではない。ましてや左右のタイヤが同じ状態の路面に接しているとは限らず、片側が空転する、あるいはその気配がハンドルに伝わってくる、これが高級車において嫌われる要素の第一でしょう。

FRなら前輪と後輪の役割が分割され、前輪は舵取りに専念できるため、ハンドルへのキックバックが少なく、素直なステアリングフィールを得やすいわけですね。

・エンジンのマウントと振動、動揺の処理
縦置きFFもありますがまずは横置きFFのお話を。横置きの場合、出力軸と同一方向にエンジンを搭載することになります。クランクシャフトからトランスミッション、ドライブシャフトからタイヤへと動力、というよりトルクは伝達されますが、この際にエンジンは出力軸の回転方向とは逆方向に動こうとします。

このために当然ながらエンジンはきちんと固定しなくてはならないわけですが、騒音や振動を考慮するとエンジンマウントもけっして強固なだけでは役不足で、騒音、振動処理のためにある程度の柔軟性や遊びを設けます。するとその遊びの範囲でエンジンは車両前後方向に動揺を反復し、それがクルマ全体の挙動に影響を及ぼします。俗にスナッチと呼んだりしますが、このスムーズネスのなさも課題となりました。

ちなみに縦置きFF車はこのあたり、比較的容易に対処ができているようです。またFR車はドライブトレーンそのものが前から後ろまで「長大」であり、その間に十全なマウンティングができるため、こうした問題は起こりにくいと考えられます。

また仮にエンジンが動揺しても横方向のため乗員が不快に感じにくいという面も。故に本来的、あるいは構造的に高級車に向いているというわけです。

しかし時とともにFF車における課題は改善され、合理的な横置きFFレイアウトでも高級車と呼ばれるクルマは続々と登場します。

近代FF高級車はこのメーカーから

イタリアのランチアはかなり昔から前輪駆動の高級車に関するチャレンジは続けていて、それは1950年代から。

近代の成功例でいうと、やはり世界的なFF高級車の潮流をつくった「テーマ」を挙げておくべきでしょう。1984年デビューのこのクルマはフィアット、ランチア、アルファロメオ、サーブの共同開発プロジェクトで生まれたクルマで各ブランドに姉妹車があります。

このランチア・テーマにおいてFFのネガはほとんど言っていいほど感じられず、ステアリングもスムーズでエンジンのマウントも十全、もちろん操縦性はFF車特有の前を軸に曲がっていくという性質を地で行くタイプではあったものの、要の前輪はあくまでも路面を捉えて離さず、常に安定したトラクションを得ることで殆ど破綻のない、高級車としてふさわしい操縦フィーリングを得ていました。

画像はそのFF横置きレイアウトにフェラーリ308クワトロバルボーレのV8エンジンをデチューンして詰め込んだ、8.32というモデル。当時門外不出だったフェラーリエンジンも、親会社のフィアットからの強い要請にエンツォが渋々承諾。

それでもフェラーリのエンブレムやバッジは一切取り付けることを認めず、唯一エンジンフードを開けるとエンジンヘッドにだけ「LANCIA by Ferrari」の文字があるというもの。地味な外観に熱いエンジン、まさに羊の皮を被った狼。さすがにフロントヘビーでこそありましたが、それでもFF特有のネガをほとんど感じさせなかったあたりはさすがでした。

ちなみに現行、二代目テーマはクライスラーからのOEMでFRです。

日本におけるFF高級車の先駆けは?

日本では1980年代後半まで高級乗用車はFRが定説でしたが、1985年、その均衡を破って登場したのがレジェンドでした。

ホンダは当時最上級でアコード、という会社でしたからこのクルマの開発にあたって当時のブリティッシュ・レイランド(BL)、のちのローバーとの提携を結び高級乗用車のノウハウを学びながら作られました。

当時BLからとくに指摘を受けたのが、サスペンションストロークに対する考え方だったのだとか。ホンダ車はMM思想(マンマキシマム・メカミニマム)があって、客室や荷室確保のために敢えてFFを採っており、さらにはエンジンルームを縮小化、またホイールハウスもできるだけ削減するためにサスペンションストロークを短く、という考え方でクルマ作りをしていました。

しかし、短いサスペンションストロークでは十全に前輪が路面を捉え続けることができない、しかも高級車らしいゆとりある乗り味を演出できないなどの理由から、この点においてホンダはBLから「ご指導」を受けることになります。その結果としてまだまだ十分とは言えないものの、初代レジェンドは高級車として遜色のない走り、乗り味を実現。またのちのホンダ車全般のサスペンションストロークに対する考え方を変えるきっかけとなった一台でした。

趣味の良い本革内装に国内、天童木工製の本木目パネル(現行型ではやめてしまった!)など、高級車としてのアイテム、または雰囲気作りも初挑戦ながら十分に堂に入ったもので、国内のみならず、アキュラブランドで発売された北米でも高い人気を誇るホンダの代表作となりました。

けっこう多いアメ車のFF

最近はまたFRに戻りつつありますが、1990年代~2000年代初頭にかけてのアメリカの高級乗用車にFFはかなり存在しました。

理由は諸々あって、FFのほうが室内を広く採れる、生産効率が良い、なにより合理的であるなどなど・・・、でも一番大きかったのは、なかなか従来の価値観から変われなかった自らを大きく変えたかった、というところだったような気がします。

セビルで言えば、ノーススターと呼ぶ新エンジン(これがのちにメンテナンスで色々問題が出ました)、以前と比べるとまるで欧州車のようなシェイプされたデザインに洗練された現代的なインテリアなど、いうなれば国際市場で通用する、非ドメスティックな高級車になろうとしていたように見受けられます。

乗ってみても従来のアメ車のあの良い意味での鷹揚としたおおらかさと、欧州車の正確さ、ややタイトな感じが上手くミックスされていて、なにより高級乗用車として落ち着いた気持ちで運転できるというある種の「才能」が感じられて、やはりFFになってもキャデラックはキャデラックなんだなあと納得させられました。

また、これだけ大きいと、マウントも十全に行えますし、振動騒音対策も、ここはそれ、アメ車の十八番といったところですからじつに良くできているわけです。FFのネガはほとんど、というより、FFであることを忘れていられるクルマでした。

この時代のアメリカ製FF高級車は、新世代の高級車として十分な魅力を発揮していたことは間違いありません。

国産のFF高級車は見渡すと少ない

レクサスではRX、NX、HS、CTがFF(中には4WDもあり)。カムリを高級車と呼んでいいのかは個人的に微妙なラインかな、という気がしますし、現行ティアナもどちらかというと大きな実用車といった雰囲気濃厚。アテンザはスポーツセダン的キャラクターですし、キザシもありますが、これも高級というより中級といった感じ・・・。そもそものレジェンドはAWD化されています。

見渡すとけっこう現時点での日本のFF高級車、少ないです。昔はディアマンテとかミレーニアなんかもあったのですが。

欧州車では最新のVWパサートは高級車の部類かもしれませんし、ちょっと前にあったシトロエンC6はもはや消えてしまいました。またルノーサフランももはやかなり下火。かろうじてプジョー508あたりでしょうか。キャデラックだと唯一XTSがFF。ビュイックはけっこうFFが多いものの、しかしやはり全世界的にFF高級車、気が付くと姿を消しています。

ということは、やはり自然淘汰されたというべきで、FFは高級車向きのレイアウトではない、ということになるのでしょうか。

やはりFRのほうがいいのか?

ミニバンの高級車ともいうべきアルファード。3.5リッターV6エンジン搭載車は280馬力のハイスペックをFFで吸収しています。もちろんVSCやTRCなどの補正技術もふんだんに盛り込まれて、前輪で吸収できるかどうかという以前にデバイスが制御します。そんな進んだ補正技術とともにFFの、しかもハイパワーな高級乗用車というのは不可能ではないということがわかります。

しかし、それでもFFの高級車が下火になっているのはどうしてなのか。

高級乗用車には、やはりFRという認識が根強くあって、それは製造コストが高くなる代わりに本来的に走行フィーリングが優れている、という判断なのでしょう。FFの場合、技術的に高級乗用車をなさしめても、製造コストが比較的安かったりなにより軽自動車と同じレイアウトというものでは、高級乗用車のオーナーとしてのプライドにも関わってくるわけです。

高級車に重要なのは、持ち主が「高級だ」と認識、あるいは認定することです。いくら作った側が「これが高級です」と言っても、やはり高額な出費をして手に入れる、それなりに社会的地位のある持ち主が「高級」と認めなければ高級車とは言えません。

ですから、以前はFFでも納得してくれたユーザーはたくさんいたのでしょうし、実際に機械としての洗練性も構築できはした、けれど、高級品としての信用や信任とは理屈じゃないと。やっぱりFR、これが「今の」常識のようです。

顧客のニーズやトレンド、常識は刻一刻と変化していますから、もしかするとFRが廃れていく時代は訪れるのかもしれません。

それはアコースティックギターにあくまでも拘るギタリストがいつまでいるか、という話にも似ていて、いずれ電子楽器でもアコースティックの音が十全に再現できて、それで十分、という認識が広まる(既に広まっている?)時代が来るかも知れない・・・。FFとFR、どちらを高級車に採用するかという話もそれに近いものがあるように思うのです。
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