ハンドルはどうして丸い?レーシングカーみたいなハンドルが普及しない理由とは?

レーシングカーのコクピットを覗くと、市販車では見たこともないような大量のスイッチを備えたハンドルが目に入ってくる。しかも握る部分は左右に分かれていて、見慣れた丸い形状ではない。

レーシングカーというのは走る機能に特化したクルマだ。ならば、市販車でも同じような形のハンドルが採用されてもおかしくないはずだが、そうはなっていない。なぜ、市販車のハンドルは円形が主流なのだろうか。

文・山本 晋也

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英語ではステアリングホイールと呼ぶ
最近ではフラットボトム型が増えている
何回転も回すためには円形がベストだ

英語ではステアリングホイールと呼ぶ

BMW M6 GT3

いきなり余談めく話で恐縮だが、クルマの操舵をコントロールするための入力装置を「ハンドル」と呼ぶのは和製英語で、英語では「Steering wheel(ステアリングホイール)」という。いわゆるハンドルについてネットで調べる際、海外情報を検索するときにはHandleでは思ったような結果にならないことは覚えておこう。

さて、この記事では「ハンドル」で進めるが、海外も含めて画像検索してもほとんどのハンドルは丸いカタチが基本だ。サーキットを走るレーシングカーはせいぜい180度程度しかハンドルを切らないので握る位置を固定しておいても大丈夫だが、市販車ではどんなにクイックでも2回転以上は回るため握る手を持ちかえる必要がある。

そのときに、どこを握ってもしっかりとハンドルを保持できることを考えると円形であることがベターなのだ。

最近ではフラットボトム型が増えている

ラフェラーリ D型ステアリング

ただし、実際にハンドルを回すときに気を付けてみると180度回したときに上下でグリップ部分の位置が異なっていることがある。じつはハンドルの円中心に軸がある設計や真円形状のハンドルは貴重な存在で、多くのクルマではハンドルは軸に対してオフセットしている。

それは直進状態でのハンドル位置を基準にメーターを見やすくしたり、足元を広くしたりすることを考慮しているからだ。最近のトレンドはフラットボトムやDシェイプと呼ばれる直進状態で底辺部分をフラットにした形状で、これは乗降性をよくするための工夫。

スポーツカーだけでなく日産のセレナやノートといったファミリーカーでも採用されている。

こうしたフラットボトム型のハンドルではクルクルと回しているときに、そのフラットになっているところを握ってしまうこともあるが、正しいハンドルさばき(手の持ちかえ方)を覚えておけばフラットな部分を握ってしまうことは、ほとんどない。それでも、こうした形状を嫌うドライバーは少なからず存在している。

何回転も回すためには円形がベストだ

GT-R 2017 ステアリング

そうした理由のひとつには、ハンドルを戻すときに自分の力は使わず、クルマが勝手にフロントタイヤを真っ直ぐにしようとする力(セルフアライニングトルク)を利用するには円形のハンドルのほうが操作しやすい、というものがある。

これは変わったクルマの話ではない。ほとんどの市販車では、ハンドルを切った状態からアクセルを踏んで加速すると、ドライバーが操作せずともハンドルが勝手に回って真っ直ぐの状態に戻ろうとする。その際、ハンドルを握らずに、手を添えておくだけでいいので楽チンなのだ。

こうした復元力をドライビングに活かしているのがドリフト競技の運転だ。そのためドリ車では円形のハンドルを使うことが標準的といえる。さらに操作性を考慮して、ハンドル位置がステアリングシャフトに対して偏心しないようにしている。同じく、公道を使うモータースポーツであるラリーのマシンも丸いハンドルを使っている。

モータースポーツ用のマシンであってもハンドルをたくさん回すような競技では円形がベストということだ。駐車などで何回転も回すような市販車においては丸いハンドルであることは正しい選択といえる。逆に、F1やGTのようなレーシングカーと同様のグリップが固定されたハンドルで市販車を乗りこなすのは高度なスキルが必要になるだろう。

アウディ e-tron GT concept

GTマシンのようなハンドルに憧れる部分があることは否定しない。しかし、市販車の操舵系メカニズムは従来通りである限り、大きいくくりとしては丸いハンドルが使われ続けるだろう。ただし、電動車両が本格的に普及するようになるとインホイールモーターの四輪操舵で真横に動くようなクルマが登場することも考えられる。

電気信号でハンドル操作を行なうような時代になると丸いハンドルのままとは限らない。レーシングカーのような形状を飛び越えてジョイスティックのような操作系になるだろう。事実、ジョイスティック状のクルマはショーモデルでは珍しくなかったりするのだ。

逆に、電気信号で操舵するようになればF1マシンのようなハンドルを採用しても誰もが違和感なく操作できるようになるのかもしれない。

山本 晋也|やまもと しんや

自動車メディア業界に足を踏みいれて四半世紀。いくつかの自動車雑誌で編集長を務めた後フリーランスへ転身。近年は自動車コミュニケータ、自動車コラムニストとして活動している。ジェンダーフリーを意識した切り口で自動車が持つメカニカルな魅力を伝えることを模索中。

山本 晋也|やまもと しんや