埋もれちゃいけない名車たち VOL.17 申し子のようなスポーツカーの行く末「フィアット バルケッタ」

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昨今では多くの自動車メーカーが、自分達は本来どういうブランドで何が求められているのかということに目を向け、自らの在り方を再考したりしている。培ってきた歴史の中に重要なモノが隠れているからだ。

text:嶋田智之 [aheadアーカイブス vol.133 2013年12月号]
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VOL.17 申し子のようなスポーツカーの行く末「フィアット バルケッタ」
フィアット バルケッタ

VOL.17 申し子のようなスポーツカーの行く末「フィアット バルケッタ」

その動きが最もハッキリと浮き彫りになっているのが、ランボルギーニを除く全てといえるブランドが〝フィアット〟グループに属するイタリアだろう。

フィアットはベーシック、アバルトはスポーツ、アルファロメオはスポーティ&ラグジュアリー、ランチアはエレガンス&ハイソサエティ、マセラティはハイパフォーマンス&ゴージャス、フェラーリはスーパースポーツ……といった具合に、歴史を下敷きにしたブランドごとの棲み分けを構築し、それに沿ったモデル展開をしている。価格帯やクルマの性格に意味のないダブりはない。

見事と感じる一方で、微妙な感情がないわけでもない。他ブランドにあるモデルとバッティングしそうなクルマは計画に載らないことを意味するからだ。ひと昔前にはアルファとフィアットに同じクラス、似た車体構成、けれど個性が全く異なるクルマが並行して存在したが、もはやそういうこともあり得ない。

例えば大衆向けのクルマ担当であるフィアットは、しばらくは実用車とはいえないスポーツカーは作らないといわれていて、実際のところ計画もない。〝フィアット・ブランドのスポーツカー〟は過去に幾つか存在した事例として、埋もれようとしている。

フィアットが最後に生産したスポーツカーは、1995年に登場した〝バルケッタ〟だ。〝小舟〟という名前が意味するとおり、小型大衆車プントのプラットフォームを基礎にして開発された、小さく可憐なオープンスポーツカーだった。

FWDのシャシーは運動性能を上げるためにホイールベースを切り詰め、専用開発の1.8リッターDOHCエンジンを搭載。数値は130馬力と平凡ながら車体が1090㎏と軽く、想像するより遥かに力強い加速力とシャープで俊敏なハンドリングが、ひとクラス上のモデル達を充分に追い回せるくらいの速さと走る楽しさを生んだ。

といってカリカリの硬派でもなく、低速域からの豊かなトルクと小粋なスタイリングで、日常を緩く気持ちよく過ごせる陽気な性格をも持ち合わせていた。そしてアルファのスパイダーよりも格段に安く、チープだけど貧乏臭くはなく、そうした存在であることを全く恥じていない潔さを纏っていた。つまりフィアットそのもの、だったのである。

もしかしたら二度と生まれてこない、フィアットの申し子のようなスポーツカー。ブランドらしさを際立たせるためとはいえ、そのブランドらしさに溢れたこうしたクルマがラインアップから外れていくというのは、やっぱりかなり寂しい。

フィアット バルケッタ

バルケッタは1995年から2002年にかけて生産されたフィアットのライトウエイトスポーツカーだ。大衆車のプントを基礎にしたとはいえ、設計も開発も本格的なスポーツカーのそれ。

安価ながら運動性能は極めて高いモデルに仕上げられていた。またシンプルで小股の切れ上がった印象のスタイリングは、フィアットの社内デザイン。これは現在に至ってもなお評価の高いスタイリングである。2004年から2007年にかけてフェイスリフト版がニュー・バルケッタとして復活したが、そちらのスタイリングの評価は初代ほどは高くない。

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text : 嶋田智之/Tomoyuki Shimada
1964年生まれ。エンスー系自動車雑誌『Tipo』の編集長を長年にわたって務め、総編集長として『ROSSO』のフルリニューアルを果たした後、独立。現在は自動車ライター&エディターとして活躍。

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