“つなぐ” メルセデス・ベンツ日本 社長 上野金太郎 インタビュー

アヘッド メ ルセデス・ベンツ・コネクション

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ここ数年のメルセデス・ベンツは何かが違う。そう感じている人は多いかもしれない。その理由を探るべく、2012年12月に代表取締役社長兼CEOとなった上野金太郎氏にインタビューした。

まとめ:まるも亜希子 photo:渕本智信 [aheadアーカイブス vol.143 2014年10月号]
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“つなぐ” メルセデス・ベンツ日本 社長 上野金太郎 インタビュー

“つなぐ” メルセデス・ベンツ日本 社長 上野金太郎 インタビュー

Kintaro Ueno
1964年東京生まれ。早稲田大学卒業後、メルセデス・ベンツ日本入社。以降、営業、広報、ドイツ本社等々を経て、2013年2月よりメルセデス・ベンツ日本代表取締役社長兼CEOに就任。

1987年に入社して以来、営業部・広報部・社長室、ドイツでの本社駐在と様々な部門を経験してきた、生え抜きの人物だ。長いことメルセデス・ベンツを見てきた上野社長だが、なぜ今、リスキーともとれるプロモーションを次々と展開していくのだろうか。ドイツ本社の方針と、足並みが乱れることはないのだろうか。

「確かに本社のルールでは、いろいろとやってはいけないことがあります。でもそれはあくまで、欧州の感覚だと思うんです。そうしたルールにとらわれず、日本というマーケットにいちばん合ったマーケティングをしていくことが僕の役割だと思っています」

上野社長のこの方針には、自身の営業、またマーケティング担当副社長時代の経験が影響している。当時の社内は、実績が思うようにあがらないと、ダメな理由を考えてばかりいた。が、あるときそれには全く意味がないと気付き、どうしたらできるのか、どうしたらよくなるのかを考えることにシフトしたのだという。

できない理由を10考える時間があるなら、できることを3つ考えようではないか。そうすれば同じ労力でもポジティブな労力になる。これが、上野社長の経営哲学のベースだと感じる。

さらに上野社長は、マーケティングの在り方にも独自の視点を持つ。

「僕たちは製品に絶対的な自信を持っています。それでも、僕が、キャラクターの起用など突飛なアイデアを出すのは、まだメルセデスを知らない人に知ってもらうためなんです。決して、キャラクターに頼って売ろうとしているわけではありません。販売店さんには、露出とサプライズと賑やかしは僕に任せてくださいと言っています。必ずショールームにお客様を導きますから、きちんと対応してください、と」
もうひとつ、上野社長肝いりの大きな取り組みとして、カフェ&レストランと〝クルマを売らない〟ショールームをひとつにした「メルセデス・ベンツ・コネクション」がある。六本木にある店舗は、常にビジネスマンや女性グループなど、普通にコーヒーや食事を楽しむ人たちで賑わっている。

「これも本社とはかなり議論を交わしました。めちゃくちゃ経費のかかる実験だと言ったくらいです。メルセデスは高いクルマで、私には関係ないと思っている人に、どうしたら知ってもらえるだろう。実はそんなに高くないんだな、手の届く価格帯のものもあるんだな、と思ってもらえる。その取り組みとして、本社はこれをベストプラクティスだと認めてくれました。メルセデス・ベンツ・コネクションの成果を受けて、本社主導で世界展開がスタートしたのが、メルセデスmeなんです」

これは上野社長の取り組みが、世界のメルセデス・ベンツの未来をも変えたと言えるのかもしれない。そして上野社長にはこのように、経営者としての長期的なビジョンがしっかりあるのだと感じる。
近年、本社や株主からのプレッシャーなどで、短期的に利益をあげるべく無理な経営や変革を行う経営者が目立つ中で、長期的な視点に立った経営は想像以上に難しいことなのではないだろうか。

「例えば、新車購入時から3年間、無償で修理をしますという『メルセデスケア』というサービスを作ったのですが、まだまだ認知されていないんですね。それではブランドが完全に確立できているとは言えないのです。大きく訴求したことは、しっかり実現しないといけない。メルセデスは有言実行の会社だと思ってもらえるように、しっかりやっていきたいのです」

また上野社長は、顧客満足度はもちろん、従業員満足度も大事にしないと会社はうまくいかないと話す。

「僕は入社以来、この会社にとてもよくしてもらいました。だからこの会社が好きだという人たちと一致団結して、愛されるブランド、儲かる会社にしていきたい。そして辞める時には、あの人が社長でよかったね、会社のことを思っていろいろやってくれたんだね、と言われたいですね」

上野社長のリスキーともいえるチャレンジは、誰にも負けないメルセデスへの愛があるからこそ、できることなのかもしれない。

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text : まるも亜希子/Akiko Marumo
エンスー系自動車雑誌『Tipo』の編集者を経て、カーライフジャーナリストとして独立。ファミリーや女性に対するクルマの魅力解説には定評があり、雑誌やWeb、トークショーなど幅広い分野で活躍中。国際ラリーや国内耐久レースなどモータースポーツにも参戦している。
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