めざせ!転ばないバイク

「バイクは自立しないからいいんじゃん!」
そうかも知れません。いえ、でも世の中には「転ばないならバイクに乗ってみたい!」という人もいるのです。

自立する2輪のバイクは今のところまだ実現していません。
でも2輪より安定感のある3輪バイクはすでに存在しています。
ヤマハの3輪バイク〝トリシティ〟について開発者の高野和久さんにお話を聞いてみました。

text:岡小百合・サトウマキ photo:渕本智信 [aheadアーカイブス vol.170 2017年1月号]

Chapter
めざせ!転ばないバイク
転ぶときは 転びます。でも 怖くない!
他にもあります。 “目指せ! 転ばないバイク”

めざせ!転ばないバイク

-トリシティが登場した時、「これをバイクと呼んでいいのか」などという、少し意地悪な声も聞こえてきました。そこでバイクの定義をお聞きしたいのですが。

高野 バイクは曲がりたいと思った時にきっかけを作っているんですけど、そのきっかけは曲がりたい方向とは逆の方向にハンドルを切っているんです。そうした操作の結果、傾いて曲がっていくんです。傾いて遠心力でつりあいを取るんですよ。

だからオートバイの定義は何かと聞かれたら、自分たちの回答は「クルマとはハンドルの操作が違います」、それから「傾きます」ということになる。トリシティはそれと同じ動き方をするのでバイクだ、ということになります。

人間は本能的に常にバランスをとりながら動いているのですが、バイクはそうした動物的な本能に近い操作のスタイルを持っている乗り物で、操作感や乗り味などが人間の感覚になじむから、長い歴史を持ち得たのではないでしょうか。


-曲がりたい側にハンドルを切っていると思っていましたが、操作自体は逆だったんですね。

高野 意識されることはあまりないかもしれないけれど、基本的にはそうですね。


-そういう定義を持つバイクを開発する上で、高野さんが重視していることは何ですか。

高野 乗り物が安定しているという感覚を持って走れるということが大切なポイントです。よく「クイックなのが良いんだ」という話になりますけれど、私はそうは思わないんです。絶対的な安定感があって初めて、そこに運動性能がついてくると考えています。


-それは23年間にわたるレース車両開発の経験と関係はありますか。

高野 関係あるかもしれませんね。レーシングマシンはものすごいエンジンが載っていて、ものすごく軽くて、ものすごくクイックに走れるんですけれど、じゃあ何が最も重要視されているかっていうと、実は安定感なんです。

プロライダーは大抵、「安定して走れるという前提がないと、速くも上手くも走れない」と言います。私が手がけてきたマシンに乗るライダーはとんでもなく速く走る人が多かったですけれど、そういう方と、バイクの運転にあまり自信がないような人を比べても、実は差がないと感じていたんです。


-どういうことですか。

高野 プロライダーと一般の方の言ってることは、根本的にはあまり変わらないんです。「思うように上手く止まれない」とか、「ふらついちゃった」とか。運動性能がどんなに高いバイクであっても、基本的な操作には違いがありませんから。

乗り手が変わったからクルマの作り方が変わるということは、あまりないように思います。ずっとそう考えてバイクを作ってきました。

例えば以前携わった仕事の話なのですが、、バレンティーノ・ロッシの「こうしよう」に従ってバイクを開発していくと、誰が乗っても「いいですね、これ!」というようなバイクに仕上がる。ちゃんとしたものは誰が乗っても良いと分かるものなんです。


-トリシティでは、どのようにして安定感をめざしたのですか?

高野 バイクは操縦機構が集中しているフロント部分が安定を司っていますから、そこにある程度の質量を置いて、きちんとしたタイヤのグリップ力を持たせるといったことが、乗り物の安定感を作りだします。そのためには前に2つ車輪があるとそれを実現しやすいんですね。

それに加えて、フロントに1つの太いタイヤを置くよりも、2つの細いタイヤを置いたほうが、自然な乗り味にもなるんです。


-安定感と自然な乗り味を備えているわけですね。他にも前2輪のメリットって何かありますか。

高野 常に舗装の整った道ばかりを走るわけじゃないですから、例えば片方のタイヤがマンホールの上に乗るような場面では、2つのタイヤがグリップを助け合います。それも前2輪の良さです。


-安定をめざすなら、前輪の幅を広げて自立させる方向もあるのではないかと思うのですが。

高野 自立機能は将来的に挑戦しようと思っていますが、自立させようとすると、どうしても機構が複雑になるので大型化してしまうんですね。結果的に重くなるし、販売価格も上げざるを得なくなります。私たちはそこを追及するよりも、小型スクーターと遜色ない軽量コンパクトの魅力を味わっていただきたいと考えています。

ヤマハの「めざせ、ころばないバイク」はまだ研究途上にあります。トリシティーではまだそこまでは達成できていません。


-トリシティではトータルバランスの良さを実現した、ということなのですね。







-世間では、前2輪のデザインに驚かされた人が多いと思うのですが反応はいかがでしたか。

高野 日本ではまだ市民権を得ていないスタイルなので、キワモノ的な印象だったと思います。新しい存在に慣れるには、どうしても時間やきっかけが必要ですから。でも、きっとだんだん変わっていくはずです。数年後に見たら、印象が変わっていると思いますよ。


-だんだん街並みになじんでいくということですね。

高野 実際、ヨーロッパでの売り上げは好調です。特にパリやミラノでは上々の人気です。

ヨーロッパには石畳の道が多いでしょう? その石畳が、緯度が高いせいもあってか露が降りて濡れやすい。ただでさえデコボコしているのに、濡れてツルツルしているという、とんでもなく厄介な道なんです。さらに路面電車のレールが走っている場所も多い。

そういうところでは、前2輪ならではのフロント周りの安定感が強い味方になります。経験値が少ない人でも上手く操れると好評です。


-ある程度、乗りやすさがすでに証明されているということですね。実際にどんな風に乗られているのでしょうか。

高野 都市部で通勤に使う方が多いですね。3輪車としては車幅が狭いうえに、2輪車よりも安定感があることがトリシティの特長です。だから安定感を持ってカーブを曲がれますし、日本ではあまり推奨されないすり抜けも、ヨーロッパでは当たり前なので、渋滞の激しい都市部での便利な移動手段として非常に高く評価されています。


-では日本では、どのような方に乗ってほしいとお考えですか。

高野 まずバイクの免許を取得したばかりの初心者の方にもフロントの安定感を楽しんでいただけるはずです。

それと今月、排気量がアップした155㏄モデルが発売されます。これなら高速道路や自動車専用道路も走れますから、これまでオートバイに乗って来られた方にも、「普通のバイクと変わらない」と言って納得して乗っていただけると思っています。


-高速道路を走れるということのほかに、排気量を上げることで新たに加わった魅力はありますか。

高野 人間の感性の中には乗り物の動力性能に対して、「これぐらい走れば十分だ」というラインがあるように思うんですね。私の経験から言うと、自動車だけに乗られる方と比べて、オートバイに乗られる方は、その基準となるラインがちょっと高いんです。クイックイッと軽快に走らせる方が多いんですよ。

155㏄のモデルは、そのラインに十二分に達していると思います。エンジンの性能が非常に高くなっていますから。


-軽快さ、機敏さは、バイクの大きな魅力の1つに違いありませんね。

高野 バイクに慣れた方でも、155㏄のトリシティなら、「これならいいね」と、言っていただけるはずです。ヨーロッパではすでに販売が開始されているのですが、日本以上に交通の流れが速いミラノあたりでも、受け入れられています。ベテランのオートバイ乗りの方にもきっと楽しんでいただけると自信を持っています。






-トリシティはこれから、どう進化していくのでしょうか。

高野 普通の2輪車に比べると、リーニングするための機能が必要な分、複雑な機構になっているんです。しかしこれはネガティブなことではありません。2輪車ではやれないことができる可能性があると考えています。

自動車と2輪車って、ほぼ同じ時代に発明されていますよね。でも現在に至るまでの間に、自動車はオートクルーズをはじめとするさまざまな機構が加わって、自動ブレーキどころか、自動運転も夢ではないところまで来ています。

一方、2輪車はそんなに変わっていません。非常にシンプルで軽量かつスポーティーであることがバイクらしさとして重視されてきた結果だと思います。トリシティには、そこからちょっと外れているところまでを含めて、より機能を増やせる可能性と自由度があります。これからはそのあたりを追求していきたいですね。


-これまでの2輪車にはなかった技術が盛り込まれ、これまでの2輪車にはなかった楽しみが生まれるかもしれないということですね。

高野 そうです。より乗りやすい方向に進化するかもしれません。今まで2輪車では入っていけなかった領域に踏み込める可能性がトリシティにはあるのです。


-夢が広がる話ですね。

高野 トリシティから始まった技術的なチャレンジは、やり甲斐がありますよ。


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text:岡小百合/Sayuri Oka
大学卒業と同時に二玄社に入社。自動車雑誌『NAVI』で編集者として活躍。長女出産を機にフリーランスに。現在は主に自動車にまつわるテーマで執筆活動を行っている。愛車はアルファロメオ・147(MT)。40代後半にして一念発起し、二輪免許を取得した。


転ぶときは 転びます。でも 怖くない!

そもそも、バイクは転ぶモノ、と割り切ってはいても、転んだら身体も心も痛い。さらには、転かし具合によっては、お財布も心配しなくてはならない。そんなイヤな思いはしたくない、もうイヤだ。と思いながらも、乗り続けてしまうのがライダーの性。それだけの魅力がバイクにはあるのだが…。



もし、バイクが転ばなかったら?

そんな夢のようなバイクを、ヤマハ発動機が開発・研究している。“めざせ、転ばないバイク”。略して「めざころ」、なんだとか。前2輪、後ろ1輪の3輪バイク「トリシティ125」に搭載されている「LMWテクノロジー」は、その足がかりとして開発されたものだ。

「LMW=Leaning Multi Wheel(リーニングマルチホイール)」とは、バイクのようにリーン(傾斜)して旋回する3輪の総称として、ヤマハが独自に開発した機構のこと。前を2輪にすることで安定性を高め、リーンすることで乗りやすさを向上させているのだ。

3輪とはいえ、スタンドを立てないとバイクは倒れるし、コーナーで倒し込みすぎると、もちろん転ぶ。



実際に『トリシティ125』に乗ってみると、3輪に乗っている感覚がまるでない!? 他の3輪とは違い、ハンドルを取られることもない。意識して操作しなくてもセルフステアが利き、ハンドルに手を添えているだけで曲がって行く。

しかも、低速時の安定性がかなり高く、コーナリングもUターンもフロントが急に切れ込んだり滑ったりする感覚がないので怖くない。街乗りで渋滞にはまったときや、細かい交差点を曲がったりするのには便利! バイクに乗りたいけど怖い、と感じている人にはおススメだ。

しかし、残念なことに足着き性はあまり良くない。身長157cmの私でつま先つんつん。シートの前までお尻をズラしたら、べったりと着くので、慣れてしまえば怖くはないけれど、初心者に向けるのであれば、ここは、もう少し身近に感じさせて欲しいところ。



もうこれは、クルマでもなくバイクでもなく、『トリシティ』というまったく別の乗り物なのだと思う。新しいジャンルのモビリティとして見ると、もの凄くワクワクする。

未来の道路事情はどう変わっていくの? SF映画のように、クルマは空を走っているのかもしれない。だったら、もっと新しいジャンルのモビリティも登場しているはず。なんて、『トリシティ』に未来の乗り物の可能性を重ねてみたりした。


世界基準で作られたので排気量の割にやや大柄な印象。身長157cmでもシートの前寄りに座れば両足の踵まで着くが、通常の着座位置だとつま先がやっと届く程度になってしまう。多少の慣れで補えるけれど、初心者向けとするのであれば改善してほしい部分。


シート下のトランクは20ℓの容量で、たいていのジェット型ヘルメットが入る。けれどせっかく二人乗りできるのだから、もう一つヘルメットが入るスペース 、もしくはヘルメットフック的なものがほしいところ。ちなみに給油口も同じ場所なので見られたくないものはNG。


液晶のデジタルメーターの視認性は抜群にイイ。スピードメーターを中央にして、左側に時計とフェールメーター。右側に外気温度とオドメーターが並ぶ。ウインカーのインジゲーターランプが左右独立しているので間違えにくい。


メインキーでシート下のトランクの開閉がおこなえる。キーの差し込み口は、鍵穴へのイタズラや盗難を抑止するキーシャッター付き。ワンタッチで閉じられるのが便利。また格納式のコンビニフックが付いているので1kgまでのレジ袋やエコバッグが架けられる。


特徴的なフロントサスペンション部分。写真では分かりづらいが左右に2本ずつ正立式のフロントフォークがある。前が2輪になったのでフェンダーもそれぞれに装着。この排気量には珍しくディスクブレーキもダブルで装備されている。


トリシティ125

車両本体価格:¥356,400(税込)/¥399,600(ABS, 税込)
排気量:124cc
最高出力:8.1kW(11ps)/9,000rpm
最大トルク:10Nm(1.0kgm)/5,500rpm

*トリシティ155は2017年1月20日発売予定です。


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text:サトウマキ/Maki Sato
ファッション専門誌からバイク専門誌の編集部に転職した異例の経歴を持つ。現在はフリーランスのエディター&ライター。30代でバイクの免許を取得した。遅咲きながら、バイクへの情熱は人一倍、勉強熱心で努力家。ライディングの美しさには定評がある。


他にもあります。 “目指せ! 転ばないバイク”

YAMAHA MOTOBOT

「YZF-R1M」というスーパースポーツモデルに跨り、レーシングコースを駆け抜ける写真の青い“人物”。よく見ると背中や腕にどこか違和感が…。実はこれ、人間ではなく「MOTOBOT」というヒト型自律ライディングロボット。簡単に言えば、人間のようにバランスを取りながら自分でバイクを操作するロボットだ。

最近は、クルマの“自動運転技術”が大きな技術トピックとなっているが、ヤマハが2015年に発表したこのプロジェクトでは、乗り物側、つまりバイク本体には一切手を加えないのが特徴。フォーカスするのは、あくまで人間側の運転操作技術だ。

MOTOBOTは、普段バイクに乗っている人なら無意識に行なっているであろうアクセルやハンドル、ブレーキ、ギアチェンジなどといった操作を、各種センサーや大容量のCPUを駆使しながら、自ら考えライディングする。


さらに今後は、自律的な運転操作だけではなく、コースの最適なラインやマシン性能の限界を学習・判断し、走行を重ねることでラップタイムを向上させて行くようになるという。目指すは、MotoGPライダー、バレンティーノ・ロッシを超えるラップタイムだ。

このプロジェクトで期待されるのは、バイクを操るヒト側の情報と、それに対するバイクの挙動という両者の関係性が明らかになること。これらが解明されれば「より感動を与えられる、高性能で安全な車両開発につながる」というのがヤマハの狙いだ。

人間をより深く理解するためのMOTOBOTによって、どんなモビリティが誕生するのか。2020年の技術提供を目指し、現在も着々とプロジェクトが進められている。


KAWASAKI J (電動三輪コンセプトモデル)

can-am SPYDER F3 Limited

車両本体価格:¥3,230,000(税込)エンジン:水冷直列3気筒 
排気量:1,330cc(Rotax)  最高出力:115hp(86kW)/7,250rpm
最大トルク:130.1Nm/5,000rpm
http://jp.brp.com/spyder/

piaggio MP3 Yourban 300

車両本体価格:¥853,000〜(税込)
エンジン:水冷単気筒4ストロークSOHC4バルブ 総排気量:278cc
最高出力:22.4HP/7,500rpm 最大トルク:23.2Nm/6,500rpm
www.piaggio.co.jp/piaggio/index.html

can-am SPYDER F3-Sデイトナ500

車両本体価格:¥2,570,000(税込)
エンジン:水冷直列3気筒 総排気量:1,330cc(Rotax)
最高出力:115hp(86kW)/7,250rpm
最大トルク:130.1Nm/5,000rpm
http://jp.brp.com/spyder/

HONDA NEOWING (スポーツハイブリッド三輪コンセプトモデル)

HARLEY-DAVIDSON FREEWHEELER

車両本体価格:¥3,572,000〜(税込)
エンジン:空冷45°Vツイン
排気量:1,745cc
最大トルク:150.0Nm/3,250rpm

HARLEY-DAVIDSON TRI GLIDE® ULTRA

車両本体価格:¥4,387,600〜(税込)
エンジン:空冷45°Vツイン
排気量:1,745cc
最大トルク:151.0Nm/3,250rpm

ADIVA AR trike

車両本体価格:¥980,000(税)
エンジン:水冷ストローク単気筒
排気量:171.2cc
最高出力:15.5kW/8,000rpm
最大トルク:1.56kgm/6,500rpm
http://adiva.co.jp/

ADIVA AD3 400

車両本体価格:¥1,180,000(税込)
エンジン:Peugeotエンジン・
水冷4サイクル/ohc4バルブ単気筒
排気量:399cc
最高出力:27.4kW/7,250rpm
http://adiva.co.jp/

トヨタ i-ROAD(コンセプトモデル)

パワートレイン:電動モーター2個
バッテリー:リチウムイオン電池
最高速度:60km/h(日本)
1充電走行距離:50km(30km/h定速走行時の目標値)

BMW Motorrad Vision Next 100 (コンセプトモデル)