おしゃべりなクルマたち Vol.95 自由の国フランス

アヘッド おしゃべりなクルマたち

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フランスで二輪四輪を巡る“締め付け”がこれほど厳しくなったことがあっただろうか。最近、こんな想いを抱いている。この国はもう少し“緩い”と、たかをくくっていた。

text: 松本 葉 [aheadアーカイブス vol.164 2016年7月号]
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Vol.95 自由の国フランス

Vol.95 自由の国フランス

まずはスピード違反取り締まりがますます厳しくなっている。レーダーがメキメキ増設される一方で、たとえば私が住むコートダジュールの高速は一定区間の最高速度を130km/hからなんと110km/hへと引き下げ、フランス全土を唖然とさせた。

自動車雑誌『ENGINE』6月号で日本の高速道路の規制速度引き上げについて寄稿したモータージャーナリストの清水草一氏が、イタリアとフランスを『弱肉強食の掟が支配した世界は、見るに堪えない堕落を見せた』と記しておられたが、その通りだ。

“パリのカフェでワインのんで赤い顔してノルマンディまでがーっと2CVで走った”フランスは今や影も形もない。12度の赤ワインをグラス1杯飲んで、30分後に運転してアルコールチェックに遭遇すると、計算では吐いた息に0.25ml/lのアルコールが検出されるが、これで3年間の免許停止となる。もちろんこんなことに、ため息は出ても文句を言う気はないのだが、驚くのは行政による車両管理だ。

まずはバイク。来年から二輪および三輪に車検が義務付けられる。理由はこれまた安全。整備不良が事故を増発しているというのが行政の説明だ。当然のことながらライダーズ団体は整備不良による事故は全体の0.3%以下、早急にすべきは道路環境の整備と猛反発、繰り返しデモが行われたが、ライダーの主張が聞き入れられることはついぞなかった。

四輪の話題にも事欠かない。今年の7月1日から1997年以前に製造された四輪が平日の朝8時から夜の8時までパリ市内に入れなくなった。こちらは汚染対策。5万1,300台が対象となると言われるが、山ほど走るプジョー205もルノーサンクもパリの街から姿を消す、そういうことになる。

2020年には我がパンダも平日のパリに入れなくなる。2011年以前に製造された車両が同じ運命を課せられるから。こちらの対象台数は200万台。

澄んだ空気は気持ちがいい。ここに異論は、まったくないが、それでも、良い措置ですね、とはパリに住まぬ私でも言えない。現在の欧州の最大の問題は貧困。雇用を脅かすような措置には疑問を感じざるをえない。旧いクルマを所有するのは郊外に住む貧困層、買い替えまで手が回らぬ彼らが仕事に行くために使っているのだ。

「どうやって働きに行けばいいっていうの」、インタビュアに噛み付いた女性がいたが、その通りだ。まず時間通りに走らない電車を含めた公共交通の整備をしてから、こういう措置をすべきだ! と私は怒り、それから思う。

個人の意思が最優先され、みんな勝手もので誰に縛られることなく自由に生きている国。私が子供の頃、教えられたフランスのイメージっていったい誰が作ったんだろう。ぜんぜん違うじゃないか。

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text : 松本 葉/Yo Matsumoto
自動車雑誌『NAVI』の編集者、カーグラフィックTVのキャスターを経て1990年、トリノに渡り、その後2000年より南仏在住。自動車雑誌を中心に執筆を続ける。著書に『愛しのティーナ』(新潮社)、『踊るイタリア語 喋るイタリア人』(NHK出版)、『どこにいたってフツウの生活』(二玄社)ほか、『フェラーリエンサイクロペディア』(二玄社)など翻訳を行う。
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