私の永遠の1台 VOL.13 ポルシェ 993カレラ

アヘッド ポルシェ  993カレラ

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レースだけで生きてきた僕は、特にF1には強い憧れを持っていて、「一番乗りたいクルマは?」と問われたら、迷わずに「何でもいいからF1」と答える。結婚したその年、レースに出るために貯金の全てをつぎ込み、1戦だけのレースに参戦したくらい、すべてをレースに賭けていた。

text:土屋武士 [aheadアーカイブス vol.172 2017年3月号]
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VOL.13 ポルシェ 993カレラ

VOL.13 ポルシェ 993カレラ

▶︎マニアの間では最後の911と呼ばれている。同モデルの生産終了により30年以上に渡るポルシェの空冷エンジンが幕を下ろした。室内レイアウトにおいてもナローを受け継いできた最後のモデルとなった。




そんなレースバカな僕に、強烈に印象に残っている1台がある。ポルシェ993だ。1995年、全日本GT選手権にタイサンポルシェGT2で初参戦するのが決まったとき、チームオーナーが「六本木のミツワに行ってこい。ポルシェを借りてあるからそれで練習しろ」と言ったのだ。

当時21歳の若造だった僕は、興奮状態だった。初めての左ハンドル、そして初めての六本木。それだけでも非日常なのに、目の前にはシルバーの993カレラ。エンジンをかけると、今まで感じたことのない背中に伝わる振動と野太いエンジン音。ここまでで、すでに舞い上がりは絶頂に達していた。

しかし、それも束の間。「いやいや、手強いぞ」と我に返った。オルガン式のクラッチペダルは重く、すごい違和感だ。これまで国産車しか乗ったことのなかった僕には、正直乗りにくい。

どうやったら快適に運転ができるのか、初めてのポルシェとの会話に四苦八苦したことを今でも鮮明に思い出せる。しかし慣れてくると不思議と安心感があった。特に高速を走っている時のドシッとした安定感。

これがRRのトラクションなのか、これがポルシェなのか、と走るにつれて運転の感覚が掴めて、自分のフィーリングと合ってくる感じがとても心地よかった。

そして向かった先は、同年代の仲間が集まる地元湘南のジャズ喫茶。一人一人、順番に助手席に乗せて134号線を走った。そりゃみんな大興奮。「俺、プロになっていつかポルシェ買うぜ!」 そう仲間の前で誓った。

このポルシェに乗って、初めてスポーツカーの興奮、楽しさを教わったと思う。「乗りこなしてみな!」と挑戦状を叩きつけられて、挑めば挑むほど味わいを感じられるその心地よさを。

最近はお行儀のいい、誰でもすんなり乗れるクルマが多い。それが世の中のニーズだから仕方がないかもしれない。でもスポーツカーはそれではつまらない。少々扱いづらくて、ご機嫌をとりながらじゃないと気持ちよく走ってくれない、そんな天邪鬼な方が「運転してる」気になれる。

そういう価値観があってもいいと思うし、僕はそのほうが好きだ。

アクセルを〝ドン〟と踏み込んだ時の、あの初めての感覚は今でもはっきりと覚えている。そんな印象的な〝何か〟を誰かの心に残せるクルマがどれだけあるだろうか。

きっと、こういうのが運命の出会いっていうのかもしれないな。

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text:土屋武士/Takeshi Tsuchiya
レーシングドライバー。1972年生まれ。神奈川県立湘南高校卒業。父親がレースガレージ「つちやエンジニアリング」を営んでいた影響で自身もレースの道に。「無冠の帝王」と言われながら、レーシングドライバー引退を宣言した2016年、スーパーGT300でレース人生初のタイトルを獲得。
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