ひこうき雲を追いかけて vol.63 「負けない」強さ

アヘッド 光

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鈴鹿1000kmも終わり、2017年シーズンも残り2戦。スーパーGTのタイトル争いも終盤に近づいてきた。毎戦、録画予約をし、リアルタイムで見た後、もう一度録画した映像を見る。スーパーGTに関しては、ここ数年、そんな風にして、私にしてはわりと熱心にレースの行方を注視している。そして毎回、「勝つ」ことの難しさにため息をつく。

text:ahead編集長・若林葉子 [aheadアーカイブス vol.178 2017年9月号]

Chapter
vol.63 「負けない」強さ

vol.63 「負けない」強さ

ひいきの選手もいるが、一生懸命にレースを見ていると不思議なもので、どの選手にもそれなりに思い入れが出てきたりする。それは「1勝する」ことがどれだけ大変か、だんだん分かってきたからではないかと思う。勝ちにこだわり過ぎても勝てないし、かと言って守るばかりでも勝機を失う。

「実力がなければもちろんチャンピオンにはなれないが、実力だけでもダメ。実力プラスの何か。それは運かもしれないし、別の何かかも知れない」 そう話してくれたのはかつて世界GP125ccクラスで2度タイトルを獲得した坂田和人氏だった。

この間、J-Sportsで中継していたバドミントン世界選手権の女子シングルス決勝を見たが、これもすごかった。シンデュ・P.V.(インド)対 奥原希望。100分を超える試合は第3ゲーム終盤に到るまで奥原は常に苦しい状況にあった。

なのに決して諦めないその気迫。追い込まれて肉体も精神も限界にきているはずなのに崩れてしまわない強靭さ。なぜあんなふうに自分を保っていられるのか。普通じゃない。もっとも、普通じゃないからチャンピオンなのだけれど。

それで思い出したのが、少し前に美容院の待ち時間に手に取った雑誌の記事こと。雑誌のタイトルも書いた人のことも残念ながら覚えていないのだけれど、話題は昨年(2016年)10月のプロデビュー以来負けなしで、第30期竜王戦決勝トーナメントで最多連勝29の記録を達成した最年少プロ棋士、藤井聡太四段(14歳)の闘いぶりについてだった。

藤井四段は「負けない」将棋をする人だ。「勝つ」と「負けない」は同じことだが、それは闘いぶりにおいて違う。その微妙な違いについて書かれていた。最後まで読む前に店のスタッフに呼ばれてしまったが、このくだりは頭の片隅になんとなく残っている。

スーパーGTを欠かさず見ていたり、テレビでバドミントンやテニスの試合などをちょくちょく見ていると、 「勝つ」ことと「負けない」ことの、同じだけれどちょっと違う感じ、というのは分かる気がする。

「勝つ」ことはさておき、「負けない」ことは、「受け」ることにおける強さだというのが私の解釈で、窮地に立たされたときに崩れないでいられるためには、常日頃から自分についての冷静な分析と、目指すべき未来へのビジョンが必要だ。肉を切らせて骨を断つ、ということわざにも通ずるものがあると思う。

スポーツは奥深い。自分とはほとんど無縁の世界だが、学べることは多い。

さて、スーパーGTの今年のタイトルは誰の手に渡るだろうか。

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text:若林葉子/Yoko Wakabayashi
1971年大阪生まれ。Car&Motorcycle誌編集長。
OL、フリーランスライター・エディターを経て、2005年よりahead編集部に在籍。2017年1月より現職。2009年からモンゴルラリーに参戦、ナビとして4度、ドライバーとして2度出場し全て完走。2015年のダカールラリーではHINO TEAM SUGAWARA1号車のナビゲーターも務めた。
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