Rolling 40's VOL.109 モーターショー裏読み

アヘッド ROLLING 40's

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東京モーターショーが毎年ではなく2年ごとに開催されるというところに私は注目している。クルマやバイクの進化は微々たるもので、毎年だと分かりにくいが、2年というスパンになると見えてくるものがある。

text:大鶴義丹 [aheadアーカイブス vol.179 2017年10月号]
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VOL.109 モーターショー裏読み

VOL.109 モーターショー裏読み

こんなクルマが発表された云々だけではなく、今年の第45回東京モーターショー2017は前回の2015年と何が大きく変わったのか、またその前の2013年、2011年と遡って比較していくとさらに面白い。

メーカーが発表する新モデルに関しては素直に、今度はこんなタイプが売り出されるのだと、新車発表会気分で楽しむことにしているが、新技術やコンセプトモデルに関しては、話は全く別である。そもそもその技術が方向性として「当たり」なのか、実現しそうなのかということを疑い深く見るが、大抵は「ハズレ」だと思うようにしている。

昨今の簡単な例を挙げると、電気自動車と水素自動車の対立軸。その2つが同居するとは思えず、社会インフラを含めた上で先読みは難しい判断だ。トヨタが指標にしてしまった水素社会というのも、数十年後に、どういう歴史として受け止められているかまだ分からない。また果てしなく進化し続ける自動運転技術と法律との関係も大きな壁だ。そしてディーゼルの生き残りはありなのか。

メーカーというのはある種無責任に技術自慢をしてしまうものだ。作り出した最先端の技術が、結果として黒歴史となっている可能性だってあるだろう。

私が知っている極端な例を挙げるなら、1958年にフォードが開発した、車体後部に小型原子炉を搭載したコンセプトカーだ。一度の燃料で一万キロを走行し、原子炉のモジュールが取替可能という。

1950年代という時代は、世界大戦後の石油不足が大問題になっていて、それを解決すべく「原子力カー」が考案されたのであろう。ガソリンのように燃料切れを恐れることなく、どこまでも走っていける理想のクルマとして、世界中が拍手を送ったという。

当然、技術的な問題を解決できず現実になることはないのだが、原子力エネルギーという未来像に対して、世の中が大きな夢と希望を持っていた時代であったということである。

今となっては原子力事故の傷跡の象徴でもある、福島県双葉町に設置された「原子力 明るい未来の エネルギー」 という大きな看板に書かれていた標語のようなものである。

つまり電気自動車や水素自動車やディーゼルでも、何十年後にはそういう「扱い」になっている事だって十分にあるということだ。だがそういう技術革新、新機軸を夢見なくなってはお終いである。間違った方向であれ、勇気を持って新しい扉を叩いていたという歴史的事実でもある。

そういう意味では、今回のモーターショーでの最大の関心事は、自動運転の「レベル3の壁」である。

レベル0は運転自動化なし。今現在ではほとんどの一般的なクルマはこのレベル0である。レベル1は運転支援で、ハンドル操作や加速・減速などの運転のいずれかを、クルマが支援する。高速道路でのレーンキープ支援や、かなり一般化してきた自動ブレーキシステムなどはここに部類される。

レベル2は部分運転自動化で、昨今では日産の自動運転技術、プロパイロットなどの、ハンドル操作と加速・減速などの複数の運転支援、自動駐車システムがこの範疇である。つまり今現在、私たちはこのレベル2にいる。しかし、これだって10年前には考えられなかった進化だ。私たちの予想以上に技術革新のテンポは早いのだろう。

レベル3は条件付き自動運転で、アウディなどの「ハンドル手放し」の自動運転コンセプトカーがここに踏み込んでいて、周囲の状況を確認はするが、緊急時はドライバーに任せるというもの。つまり事故などの責任は最終的にドライバーにあるということだ。

レベル4は高度自動運転で、ここに至ると、ドライバー自体が不必要になるが、交通量や、天候、視界など、環境が整っているという条件は必要になる。そしてここに至ると、発生する事故の責任は誰にあるのかという問題がいよいよ避けては通れない。

レベル5はSF映画に出てくる完全自動運転で、あらゆる条件下でも、自律的に自動走行をする。

自動運転中の事故の責任はまだ国もメーカーも保険会社も検討中の状態で、やっと国土交通省などでも、「自動運転における自動車損害賠償保障法(自賠法)の損害賠償責任の課題」として論議が始まったばかりである。

だが現段階ではレベル3以上の事故の場合、クルマの所有者・ドライバーの過失は問いにくくなるという方向のようで、実際に自動運転レベル3に対応した自動車保険を損保ジャパン日本興亜が2017年7月から発売しているというのだから、未来の足音は思ったより早く近くに来ているとも言える。

余談だが、モーターショーが行われるたびに、果てしなく伸びていく速度やターボという響きに夢を見ていた「昭和の子」である私たち世代。たまにはそういう話題も欲しいと思ってしまうが、叶わぬ夢であろう。

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text:大鶴義丹/Gitan Ohtsuru
1968年生まれ。俳優・監督・作家。知る人ぞ知る“熱き”バイク乗りである。本人によるブログ「不思議の毎日」はameblo.jp/gitan1968
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