ひこうき雲を追いかけて vol.62 インプレッション

車 港

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自動車ジャーナリストや自動車メディアにとって自動車メーカーが主催する新車試乗会への参加は重要な仕事の一つだ。ありがたいことに(全ての車種ではないが)aheadもお声掛けいただいている。

text:ahead編集長・若林葉子 [aheadアーカイブス vol.177 2017年8月号]

Chapter
vol.62 インプレッション

vol.62 インプレッション

試乗するクルマの“性格”によって、開催場所は様々。都内で行われることもあるし、サーキットやメーカーのテストコースのこともある。ワインディング路のある近県や、ときには地方へ飛ぶこともある。

3時間運転して会場へ行き、向こうで3時間試乗して、また3時間運転して帰ってくる、みたいなことが続いたとき、「私、どんだけクルマが好きなんだ」と可笑しくなった。そう思うのは、まさか自分がクルマに関わる仕事をするようになるとは思っていなかったからで、そんな自分を今でも不思議に思う。

それはさておき、試乗会に行って思うのは「インプレッションって難しい」ということだ。というのも試乗会で初めて乗ったときの印象と、あとから広報車を借りて乗ったときの印象が異なることがあるからだ。

もちろん、最初に乗ったとき「このクルマいいな」と思ったのに、それが「全然よくないじゃん」みたいな極端なことは無くて(そういう意味でファーストインプレッションはとても大事)、短時間の試乗では気にならなかったことが気になったり、逆に試乗では気づかなかった魅力に気づいたり。そのたび、私にはクルマの評価なんて、とてもできないなぁと思うのである。

短い時間と限られた場所でそのクルマの本質を見抜き、それを一般的に考えられる広範なシチュエーションに置き換えて長所と短所を語れることが優れたインプレッションの条件の一つと言えるかもしれない。

誰かのインプレッションを、楽しみの一つとして読む人もいると思うが、オンナ友達の1人は、自分がクルマを買い替えるときだけダンナと新車の記事を読むそうだ。「そういうときは真剣よ」 そりゃそうだろう。そしてこう聞かれる。「〇〇〇と書いてあったけど、実際のとこどうなの?」

この仕事をするようになって、そんな風に聞かれることも多くなったけれど、結局のところ、誰かのインプレッションは大いに参考にはなるけれど決定打にはならない。そのクルマがどうであるかということと、自分にとって、あるいは自分の生活にとってそのクルマがどうであるかということはまた別のことだからだ。

私自身、試乗して「すごくいい!」と思ったのに、買ってみたらなんだか合わなくてすぐにそのクルマを手放したという苦い経験がある。今乗ってもそのクルマはとても優秀、クルマに罪はない。クルマは理屈で買うものではないということを、そのとき学んだ。誰かの意見を参考にしながらも、誰かの言うことなんて気にしない。矛盾しているけれど、最後は失敗を恐れない勇気が必要なんだと思う。

と言いつつ、毎月、私は岡崎五朗氏の原稿が上がってくるのを心待ちにしている。新車の発する言葉の、彼はとても優秀なトランスレーターだからである。

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text:若林葉子/Yoko Wakabayashi
1971年大阪生まれ。Car&Motorcycle誌編集長。
OL、フリーランスライター・エディターを経て、2005年よりahead編集部に在籍。2017年1月より現職。2009年からモンゴルラリーに参戦、ナビとして4度、ドライバーとして2度出場し全て完走。2015年のダカールラリーではHINO TEAM SUGAWARA1号車のナビゲーターも務めた。
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