ポルシェとBMWがベンチマークにされる理由

アヘッド ポルシェ BMW ベンチマーク

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若かりし頃は新型車の試乗となったら、とりあえずアクセルを床まで踏みこみ、コーナーへは可能な限り高いスピードを保ったまま飛び込んでみたいという衝動に駆られたものだが、最近ではもっと手前、いやむしろクルマが動きだす瞬間など微細な領域が気になるようになってきた。

text:石井昌道 [aheadアーカイブス vol.165 2016年8月号]
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ポルシェとBMWがベンチマークにされる理由

ポルシェとBMWがベンチマークにされる理由

アクセル全開での加速や限界的なコーナリングは、特にスポーツカーなどでは一つの大切な価値であり、緊急回避能力と言った、いざというときの安全性にかかわる部分なので、然るべき環境を整えたうえで(クローズドコースなどで)見極めておくべきだが、「ああ、いいクルマだな」としみじみ感じるのは日常的な走行シーンでの方が多い。

たとえば交通量が多めの幹線道路で目まぐるしく変わる交通の流れに対しての速度コントロールが無意識のうちにできてしまうエンジンやトランスミッションの反応などだ。

つまり、どれだけドライバーの意志が忠実にクルマへ伝わるのか。いわゆるドライバビリティの善し悪しが、クルマの印象を決定づける大きな要因だと思うようになってきた。これは軽自動車だろうがスポーツカーだろうが、変わりはない。
ドライバビリティで分かりやすく悪い例をあげれば昔ながらのCVTだ。アクセルを強めに踏みこむとエンジン回転数が先にあがって速度があとから上昇してくる現象は、ダイレクト感とは真逆のゴムが伸びるような感覚なので、ラバーバンドフィールなどと呼ばれる。

それは自動車メーカーもよく心得ているので、最近ではあまりギア比を変えすぎないようにしてなるべく違和感が出ないような制御を取り入れている。なので最近はだいぶ良くはなってきている。但し、加速側は進歩しているものの、減速側に課題もある。

アクセルを戻すとギア比がスッと高くなって空走するような感覚になり、前のクルマに近付き過ぎてしまったりする。それでブレーキをかけて、減速し過ぎて、また加速して、という悪循環に陥っていることが、実際の走行データを記録してみると意外なほど多い。
最近ではCVT以外の2ペダルも含め、自動車メーカーのトランスミッションを開発しているエンジニア達と交流して優れたドライバビリティについて議論することが多いのだが、決まってベンチマークとして出てくるのが、ポルシェのPDKとBMWの8ATだ。

個人的にも運転しやすいと実感しているが、実際の交通の中を走らせてデータをとってみても、無駄な加速、減速をしていることがほとんどなく、いかにドライバーの意志がクルマへ忠実に伝わっているかがわかるのだ。

なぜいいのか?まず変速のスピードやスムーズさ、適切なギア比などというトランスミッションのハードウエアに、アクセルペダルを踏む量やスピードなどから適切なギアを選択するソフトウエアがあげられる。

さらにエンジン側のトルク特性を含めたパワートレーンの秀逸さもさることながら、細かく観察していくと、アクセルペダルの角度とドライバーの右足の動かしやすさなど、ドライビングポジションまで追求している。

結局はクルマの全体的なパッケージングにまでいきつく。ポルシェやBMWは、スポーティで楽しいという以前に、人間が手足を使って動かす自動車というものをよくわかっているようだ。BMWの8ATは、ZF製でどの自動車メーカーも買うことはできるが、他社がポンッと付けても簡単に追いつくことはできないだろう。

とはいえ、トヨタのTNGAやマツダのスカイアクティブは人間中心に自動車全体の最適化を考えた思想を持っているので、ドライバビリティでも飛躍的にレベルアップを果たしている。ポルシェやBMWよりもリーズナブルなモデルのなかでのベンチマークとされる日も、そう遠くはないかもしれない。

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text:石井昌道/Masamichi Ishii
自動車専門誌編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦経験も豊富。エコドライブの研究にも熱心で、エコドライブを広く普及させるための活動にも力を注いでいる。
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