オートバイのローダウンによって得るものと失うもの

アヘッド ローダウンによって得るもの失うもの

「いかに足つきをよくするか」身長157cmの私には、最初、ほかの何をおいてもそれが大事で、いやそれ以外のことは考えられないくらいだった。周囲は協力してくれると同時に、しかし、"ローダウンする"とは、イコール"車体のバランスが崩れる”ことなんだよ、とも教えてくれる。それはいったいどういう意味なのだろう? バイクのローダウンについて考えてみた。(若林葉子)

text:伊丹孝裕、サトウマキ、宮崎敬一郎 [aheadアーカイブス vol.181 2017年12月号]

Chapter
オートバイのローダウンによって得るものと失うもの
ライディングポジションの重要性
身長157cmの正義
Street Tripleの3気筒エンジンの魅力とは

オートバイのローダウンによって得るものと失うもの

ライディングポジションの重要性

ライダー・宮崎敬一郎/サトウマキ

4輪はシートのスライド量やその高さ、座面の角度、ハンドル位置といった様々な部分が調整可能だが、2輪の多くはそうした機構を持たない。ドライバーの体格や好みに車体側を歩み寄らせるのが4輪なら、車体の都合にライダー側が合わせるのが2輪である。

シート高やステップ位置、ハンドルの絞り角を可変できる一部のバイクも、せいぜい2〜3段階の中から選べる程度で、それでダメならパーツを交換するか、そのまま苦痛に耐えるか、体を鍛えるか。そうでなければ黙ってあきらめるか。
 
ドライビングポジションが決まらなければ開発のツメの甘さが批判される4輪に対し、ライダーは我慢強く寛容で、昔も今も「乗りこなせないのは自分が悪い」というのが基本スタンスだ。
 
もちろん2輪の開発陣が手を抜いているわけではない。4輪と比較すると圧倒的に車体がコンパクトゆえ、そもそも自由度が少なく、設計のプロセス的にもそうならざるを得ないのだ。
 
というのも、基本的に2輪の開発はエンジンの仕様とカテゴリーの決定から始まる。それが「1000㏄並列4気筒エンジンのスーパースポーツ」ならば、そのキャラクターは旋回性に特化したものになり、エンジンの搭載位置やホイールベース、スイングアーム長、キャスター角などのディメンションがおのずと決まっていく。
 
なぜなら、超高速域での高い機動力と安定性を両立させようとすればシートやステップの位置を高くして重心を引き上げ、それでいてタイヤには荷重を掛け続けられるようにハンドルは低くセットするのが今のところの最適解で、そこに極端な差は生まれない。

スーパースポーツにカテゴライズされるバイクの足つき性が良好とは言えず、例外なく前傾姿勢を強いられるのはそのためで、性能を追求すればするほどライダーの体格やバイクのスタイリングが限定されていくのである。
 
これは他のカテゴリーでも同様だ。クルーザーにもオフロードにもアドベンチャーにも最低限必要な車格や数値があり、それがハードルになるならスキルアップによって乗り越える。バイクは多かれ少なかれそういう側面を持つのだ。
 
とはいえ、多くの日本人にとって常につきまとうのが足つき性の問題だ。いくらコーナリングありきのスーパースポーツでもサーキット走行だけを楽しむライダーは少数派で、いくら走破性が高いアドベンチャーでも足が届かなければ走り出す気にもなれない。
 
道幅が狭く、アベレージスピードも低い日本は頻繁にストップ&ゴーを繰り返すことになり、足つきの良し悪しは肉体的にも心理的にも負担になるのは間違いない。

こうした問題は日本人と欧米人との体格差に起因するものだが、一体どれほど違うのか? 参考までに主要なバイクメーカーを抱える国の平均身長が次の通りである。(※小数点以下は四捨五入)

●日本
 男性172㎝・女性158㎝
●アメリカ
 男性178㎝・女性165㎝
●イタリア
 男性177㎝・女性163㎝
●ドイツ
 男性179㎝・女性166㎝
●イギリス
 男性178㎝・女性165㎝
●オーストリア
 男性179㎝・女性166㎝


これだけ違えば海外モデルを手強く感じるのは当然で、欧米をメインマーケットにする国産ビッグバイクも同様である。

その解決策として最もシンプルなのが車体のローダウン化だ。文字通り、シート高を低くして足つき性を向上させることを言い、主な方法としては①低い(薄い)座面のシートに交換する ②サスペンションの装着方法やセッティングを変更して車高を下げるという2つのパターンがある。
 
それを目的にしたオプションシートやサスペンションキットの効果は高く、片足のツマ先しか地面に届かなかったバイクでも両足が着くようになったり、それまで浮いていたカカトがベッタリと接地するようになるなど、その恩恵は大きい。特に公道では「足が届かなくてもそれを乗りこなすのが醍醐味」などと強がっている場合ではなく、安心もしくは安全のためにも積極的に活用すべきだ。
 
その一方でデメリットもある。既述の通り、バイクにはそれぞれ理想のディメンションがあり、シート高もサスペンションもライディングポジションもその実現のために設定されている。それゆえ、いたずらにそこから外れていくと代償としてハンドリングが悪化していくことが珍しくない。
 
例えばスポーツモデルのリアをどんどん下げてクルーザーに近づけていった場合、重心は低くなるため、車体の引き起こしや取り回しは軽くなることが多い。走り出しても低速域ではヒラヒラと動き、それに追従してフロントタイヤの舵角もつきやすくなるなど、その印象は往々にして良好だ。
 
ところがそのまま車速を上げていくと、その軽さがフロントタイヤの接地感を弱めたり、ハンドリングを鈍らせることがある。
 
これはリアだけを低くして、相対的にフロントが高くなってしまった時によく見られる傾向だが、だからといってフロントフォークのプリロードを弱めて簡易的にバランスを取るだけでは、特に高速域での挙動がフワフワとして落ち着かず、ショックの吸収性が悪化することも考えられる。
 
一概に「足つきをよくする」と言っても、その方法や車種が異なればハンドリングに様々な影響を及ぼし、ライダーのスキルや走るステージによっても症状が違ってくるのだ。
 
ゆえにローダウンは言葉ほど簡単ではない。もしもリアの高さを変更したなら、それに併せてフロントにも手を加えるのがセオリーであり、プリロードや減衰力のセッティングはもちろん、フロントフォークの突出し量や油面調整なども含まれる。
 
それらはいずれも知識と技術を伴ったプロが行うべき作業でもあり、それでいて決まった数値があるわけではないからライダーの感性やメカニックの洞察力も関わってくる。実はかなり厄介なのだ。
 
言い換えると、それを乗り越えられれば得難い一体感が待っているに違いない。ライディングポジションと各部のセッティングを追求したその先にこそ、いつまでも乗っていたくなるような理想のバイクがあるのだ。

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text:伊丹孝裕/Takahiro Itami
1971年生まれ。二輪専門誌『クラブマン』の編集長を務めた後にフリーランスのモーターサイクルジャーナリストへ転向。レーシングライダーとしても活動し、これまでマン島TTやパイクスピーク、鈴鹿八耐を始めとする国内外のレースに参戦してきた。国際A級ライダー。

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