300ccクラスが増えた理由

アヘッド ヤマハMT-03

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カワサキ・Ninja250Rの登場以来、排気量250ccのバイクが活気を取り戻した。フルカウルスポーツだけでなくネイキッドやアドベンチャーモデルも出揃い、騒音や排ガス規制でラインアップが激減していた国産250ccもずいぶんと選択肢が増えてきた。これは東南アジア諸国のバイク市場の活況と、各メーカーがグローバル化を推し進めて生産コスト削減に成功したことで実現したものだ。

text:山下 剛 photo:長谷川徹 [aheadアーカイブス vol.183 2018年2月号]
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300ccクラスが増えた理由

300ccクラスが増えた理由

▶︎写真のヤマハMT-03は320cc。同じデザインで250ccの日本専用モデルであるMT-25と、全長、全幅、全高から、シート高、車重まで全く同じ。しかし最高出力で7ps、最大トルクは6Nm(0.7kgm)も数値が高い。そして注目したいのは、それぞれの最高数値が共に低い回転で発生しているところ。排気量の差は実際の走行において確実に走りの余裕を生み出している。

●MT-03
車両本体価格:¥567,000(税込)
排気量:320cc
最高出力:31kW(42ps)/(10,750rpm)
最大トルク:29Nm(30kgm)/9,000rpm
※写真は2017年カラー


しかしカワサキ・Ninja300やヤマハ・MT-03、ホンダ・CBR300のように、東南アジア諸国では300ccクラスのモデルが販売されている。海外メーカーではKTM・RC390やBMW・G310Rのように、250ccという排気量にこだわらないモデルを生産している。

今や250ccバイクは日本独自の規格といって差し支えないガラパゴス現象だ。かつて存在した軽免許(125超250cc以下)と、軽二輪車(250cc以下)を定めた道路車両運送法によって、250ccがひとつの境界線になった。さらに車検が必要となる境界も250cc超であることが拍車をかけ、250ccは車両の動力性能、購入費と維持費、手間を含めたコストパフォーマンスのバランスに優れる。

現在の二輪免許制度は原付(50㏄以下)、小型(125cc以下)、普通(400cc以下)、大型(400cc超)の4区分(厳密にはAT限定を加えた7区分)であるのに対し、諸外国では125、あるいは150ccを境界とした2区分としていることが多い。

EU加盟国はエンジンの最高出力も加味した4区分だが、それでも排気量区分境界は125ccのみ。世界的視点で見ると、排気量や最高出力の面で250ccの優位性は低く、諸外国では商品力に欠けてしまう。

日本の排ガスと騒音の規制はユーロ4に合わせた調整が行われた。同様に免許制度と車両運送法も諸外国との調和を考慮した改正が行われれば、メーカーはより自由に好きな排気量のバイクを作れるし、ユーザーの趣味性も実用性も高まって国内二輪市場が活性化する。

しかし公安委員会と国交省の壁は厚い。免許区分も車検も当面は今のままだろう。さらにいえば任意保険の現状も異なるため、すべてを世界標準にすることはかなり厳しい。メーカーにとっては相当にジレンマのはずだ。

日本の二輪市場規模が数%にしかならない現在、日本4メーカーによる250cc生産と国内販売には、ビジネスというよりは自国に対する愛着や尊厳、あるいは責務といった印象を受ける。250ccを生み出す300ccという土壌があってこその賜物だ。そう考えると、このバイクたちは今いちばん贅沢な乗り物である。どちらも大切に育てていきたい。

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text:山下 剛/Takeshi Yamashita
1970年生まれ。東京都出身。新聞社写真部アルバイト、編集プロダクションを経てネコ・パブリッシングに入社。BMW BIKES、クラブマン編集部などで経験を積む。2011年マン島TT取材のために会社を辞め、現在はフリーランスライター&カメラマン。
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