名車と出会う 日産ヘリテージコレクション

アヘッド 日産ヘリテージモデル

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「このシート、実は私も開発に携わったんです」
約300台のコレクションが収納される倉庫の終盤あたり。カメラマンである田村氏の愛車(1オーナー現役にして実走48万㎞!!)と同じ、シルバーメタリック塗装の「P10プリメーラ」をしげしげと見つめながら「この頃のニッサンは熱かったね!」などと話していると、学芸員の荒川さんが当時を振り返りながら説明を付け加えて下さった。

text:山田弘樹 photo:田村 弥 [aheadアーカイブス vol.189 2018年8月号]
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名車と出会う 日産ヘリテージコレクション

名車と出会う 日産ヘリテージコレクション

▶︎日産スポーツセダンの代名詞であるスカイラインはプリンス時代の初代モデルからR32型まで歴史を彩った名車たちがズラリ。

正確なことを言えば「日産ヘリテージコレクション」は博物館ではなく保管倉庫なので、荒川さんは学芸員ではない。氏はもともと日産で車輌開発に携わっていた方であり、現在はヘリテージマーケティング部門でその経験を生かしている。

そんな日産の〝生き字引〟から当時の話が聞けるなんて、オーナーにしてみれば涙モノだろう。ちなみにこの初代プリメーラがデビューした'90年代初頭は国産車が大躍進した時期。この頃運転免許を取得した筆者にしてみれば、夢のような時代だった。ホンダが初代NSXを、少し遅れてトヨタが70型から80型へとスープラをフルモデルチェンジさせたけれど、その中心にはいつも日産がいた。

そこで私はGT-Rのシートが大好きであり、いちジャーナリストの目から見ても「市販車用シートとしてあれだけ完成度が高いものは未だに現れていないですね」と伝えると、

「嬉しいですねぇ! あれも私とハセミさんとが開発にかかわったシートなんですよ」

と答えてくれた。なんということだ! ハセミさんといえば日産黄金期を支えた元ワークスドライバー、長谷見昌弘さんじゃないか。

「このシートには、実は色々な思い出があるんです…」

昔を思い出すかのように、荒川さんは話し出した。日産は当時ラリー活動を行っており、ワークス部門から追浜の総合研究所に「専用シートを開発して欲しい」という依頼があった。しかし最初は満足いくものができあがらず、当時エルゴノミクス(人間工学)に着目し始めていた市販車開発部門に、そのオーダーが舞い込んだのだという。
▶︎R32スカイラインGT-Rのセミバケットシート。肉厚を最小限にしながらもクッション性とホールド性を高い次元で両立させていた。またヘリテージコレクションでは動態保存された名車の助手席に乗るチャンスも。当日は'61/フェアレディSPL213と'83/スカイラインハードトップ2000ターボRSに同乗走行した(試乗スケジュールについては要確認)。

そこで荒川さんは当時のワークスドライバーである星野一義/長谷見昌弘氏の助手席で、ダートトライアルコースを実走して要望を確認した。技術的な要求に関しては、主に長谷見氏と話合いながら開発を進めたのだという。

「ちなみに長谷見さんはリラックスしながらドライブする天才肌で、星野さんは極端な集中型。ですからGT-Rの楕円形ハンドルは、握りやすさにこだわる星野さんの意見を取り入れたんですよ。星野さん、ハンドルを〝ギュー!〟と握りますからね(笑)」

そんなこぼれ話を挟みながらテンポよく話は続く。
▶︎往年の名車、歴代ブルーバードも展示。

「このカーボン・ケプラー製シートはワークス用に6脚作られ、いろいろなテストに使われました。そのうちの1脚は長谷見さんが『グループAスカイラインに使いたい』といって持って行かれました。

そして我々もでき映えが良かったことから『何とかこのシートを市販車に活かせないものか?』という話になり、これをベースとしてブルーバードSSS-R用に6台分12脚を作りました」

しかし残念ながら、このシートがブルーバードに搭載されることはなかった。そして遂にその性能が日の目を見たクルマこそが、あのR32スカイラインGT-Rだったのである。
「R32スカイラインが登場するときに、再び開発側から『これまでとは全くレベルが違うシートにしたい』という要望がありました。ですから見た目は当時のインテリアに合わせる関係から少し変わりましたが、このシートはGT-Rの文法通り『モータースポーツのノウハウをデチューンして市販車に盛り込んだ』ものだと言えるんですよ」

当時日産は、1990年までに技術世界一を目指すとして「901運動」というスローガンを掲げていた。これによってK11マーチのような小型車からP10プリメーラのようなセダン、そしてR32スカイラインGT-RやZ32フェアレディZのようなスポーツカーまで数々の名車が誕生し、そこに「アテーサ4WD」や「ハイキャス」後輪制御、マルチリンク式サスペンションといった技術が盛り込まれた。

特にその技術は、現代のヨーロッパ車たちが自慢げに誇っているけれど、その多くが日産車をはじめとした、90年代の国産車によって実用化されたものばかりである。そしてこのR32スカイラインGT-R用シートも、そのうちのひとつなのだ。
▶︎ニッサンR86VやR390といったプロトタイプカー、グループAやシルエットフォーミュラといった歴代レースカーも多数展示されている。 

座間にある日産ヘリテージコレクションには前述の通り約300台に及ぶクルマたちが展示されている。そしてそのどの個体にもこうした歴史がひとつひとつ、濃く、深く刻まれている。

どこからひもとくのかはアナタ次第だ。人によってはそれが黎明期のダットサンであり、第一期レース黄金期のKPGC10スカイラインであるのだろう。ともかくとても一日でを味わい尽くせるはずもないから、何度もアシを運んで見るのが最善のまわり方だと思う。そしてその度にガイドさんに話を聞きながら、知識を蓄え楽しんで行けば良い。

ちなみに荒川さん(と中山さん)は通常ガイドをしていないが、常任のガイドさんもその知識は当然プロレベル。それでもアナタの知的欲求が上回るようなら、おふたりが出てきてくれるかもしれない。

▶︎倉庫の入り口を守っていたのはMID4。NSXよりも早い'85年にこのデザインが発表されていた。
▶︎「たま電気自動車」は1947年に製造されたリーフのご先祖。'50年までに1100台を製造し商業的にも成功を収めた。
▶︎ラリーを走ったフェアレディ240Zたち。

日産ヘリテージコレクション

住所:神奈川県座間市広野台2-10-1
(日産自動車座間事業所)
展示台数:約300台/展示スペース:約5,600㎡
お問い合わせ:046(298)4355
見学はwebサイトよりお申し込みください。
https://nissan-heritage-collection.com/

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text:山田弘樹/Koki Yamada
自動車雑誌「Tipo」編集部在籍後フリーに。GTI CUPレースを皮切りにスーパー耐久等に出場し、その経験を活かして執筆活動を行うが、本人的には“プロのクルマ好き”スタンス。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
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