四輪ジャーナリストがADIVAの三輪スクーターに乗ってみた。

アヘッド バイク

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text:橋本洋平、舘内 端 photo:長谷川徹 [aheadアーカイブス vol.189 2018年8月号]
Chapter
安定感と危うさの絶妙のバランスが面白い AD1 200(ガソリンモデル)
二輪メーカーの新たなマーケット戦略 AD1-E(EVモデル)

安定感と危うさの絶妙のバランスが面白い AD1 200(ガソリンモデル)

ADIVA AD1 200
車両本体価格:¥756,000(税込)
エンジン:水冷OHC単気筒4バルブ
排気量:190cc
最高出力:14kW/8,500rpm
最大トルク:17Nm/6,900rpm
乾燥重量:204kg


3輪車と書くと、どうしても幼少の頃に乗ったアノ乗り物を想像してしまう。2輪では安定感を出すこともできない子供向けの3輪車は、フロント1輪、リア2輪で支え、例え静止している状態であっても倒れることがない。だからこそ、小さな子供にはまず3輪車を与えようとなるのだろう。

だが、ここで紹介するアディバの3輪車は真逆だ。静止させた状態では車体を支えなければ、あっという間に倒れてしまう。2輪車と同様の要素があるわけだ。実はここがミソで、日本では静止させた状態で倒れる3輪車は、バイクと同じ扱いとなる。

そしてフロント2輪が生み出すトレッドも460ミリ未満でなければならないという法規もある。アディバ AD1 200の場合、ホイールは盛り上がっていてトレッドを広く見せているが、実はタイヤのセンター to センターは455ミリ。これで晴れて日本の道を走れるようになったのだ。

そのタイヤを支えるサスペンションの形式はなかなか面白い。4輪車のダブルウイッシュボーンサスペンションからヒントを得たというインディペンデント・クワトロ・ウイッシュボーン・サスペンションは、路面のギャップを吸収しつつ、かなりのバンク角まで許してくれる仕上がりとなっている。

一体どんな走りを展開するのか? トルクフルなプジョー製エンジンに喝を入れて走り出すと、やはりフロント2輪の効果は中々で、安心して街中を駆け抜けてくれる。ブレーキング時のノーズダイブはかなり抑えられており、安定して止まれる感覚がある。交差点などの低速コーナーではステアリングを切るだけで通過することも可能。

一方で、中高速コーナーになればバンクさせて駆け抜けるところが興味深い。2輪と4輪の感覚がミックスされたようなフィーリングは、全く新しい乗り物のように思える。いま、他社でも同様のものが存在するが、それよりも4輪感覚が高まったようなイメージだ。フロントのグリップを常に感じられるその安定感は、2輪に不慣れな人にもオススメできる。

そして大型のフロントスクリーンと屋根によって、雨風を直接受けないですむのは、かなりラクで快適性が高い。さらに荷物もシッカリと積載できるところも使いやすい。普段の僕はリュックをしょってバイクに乗るのだが、この時期はリュックと背中の間が蒸れてしまい暑くて仕方がない。

荷物をトランクに入れればそれも解消する。冬になればラジエター熱を利用した吹き出し口が手を温めてくれるし、USB電源だって完備している。これはシティコミューターとしてバッチリだ。

けれども、守られているばかりの4輪とは最終的に違う。自らが安定感を出さなければ成立しないという危うさが存在することも事実。その絶妙なバランスに心惹かれるのだ。間口は広いが、すべてを引き出すにはコツがいりそうなところ、そこに大人になった男の子はチャレンジしたくなるのである。

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text:橋本洋平/Yohei Hashimoto
自動車雑誌の編集部在籍中にヴィッツ、フォーミュラK、ロドスターパーティレースなど様々なレースを経験。独立後は、レースにも参戦する“走り系モータージャーナリスト”として活躍している。走り系のクルマはもちろん、エコカーからチューニングカー、タイヤまで執筆範囲は幅広い。「GAZOO Racing 86/BRZ Race」には、84回払いのローンで購入したトヨタ86 Racingで参戦中。

二輪メーカーの新たなマーケット戦略 AD1-E(EVモデル)

ADIVA AD1-E
車両本体価格:未定
モーター:ブラシレスDCモーター PM Inrunner
定格出力:11kW
最高出力:15kW
航続距離:130km
車両重量:182kg
*「AD1-E」はEV化によってガソリンエンジン搭載の兄弟車「AD1 200」と比べ、22kgもの大幅な軽量化を果たしている。
*写真はAD1 200


5年ほど前から次世代モビリティーとして3輪車に注目してきた。ただし、前2輪、後ろ1輪のリバーストライク(以下RT:私の造語)である。ネットを探ると欧米に仲間がいることが分った。動画を見ると、夜の公園で手作りのRTに嬉々として爺さんが乗っている。婆さんが乗っている動画もあった。

パリ(?)では、パリジェンヌ、パリジャンがノーヘルで陽気に通りを流している。サーキットでバンクさせて走る画像は気持ち良さそうだった。さらに雪上ではカウンターを当ててドリドリだ。

RTは新しいバイクのムーブメントになると思っていたら、イタリアのピアッジオやヤマハからRTが発売された。今度は電気RT、AD1-Eの登場だ。さっそく赤坂のアディバにお邪魔して取材をお願いした。

思い出すとホンダのEV-neo(2011年)以来、2輪の乗車経験がない。いきなり赤坂の広い通りに出て大丈夫だろうかと、2、3日前から夜も寝られなかったことはないのだが、内心ドキドキだった。しかし、AD1-Eはそんな不安を最初の1秒で吹き飛ばして私を甘美なバイクの世界に連れ出してくれた。

調子に乗って青山通りに出て左から右にヒラリ、ヒラリと車線変更し、絵画館の周りをグルグル回る。周回するほどにバンク角は深くなり、35℃の熱波も感じなくなった。

3輪とはいえバイクの感じが強い。前輪が2つのバイクとでも言えばいいかもしれない。ではバイクかというと、安定感が強く進路保持も左右の揺れも粘って、元の状態を維持しようとする。
ブレーキは秀逸だ。バイクの弱点のフロントのブレーキが思い切ってかけられ、しかも進路は乱れない。フロントブレーキをかけて2つの前輪に荷重を移動し、ゆっくりと倒し込むという、なんだが4輪のターンインのようなライディングが楽しめる。

バイクに比べると、倒し込みと引き起こしが粘る。AD1-Eの持っている左右の揺れ運動の固有振動数が低いようだ。それに合わせてゆっくり倒し込み、引き起こすとAD1-Eの気分を損ねず気持ち良くバンクしてくれる。モーターのパワーもトルクもコンセプトに照らして過不足ない。

さて、モータリゼーションの先駆的役割を果たした2輪車は、先進国から途上国に活躍の場を移した結果、新しい市場はなくなった。そこで2輪メーカーが仕掛けた新たなマーケット戦略がRTだ。自動車でいえば自動運転車か。

RTは安定性の高さで、自動運転車は自動運転性能で交通弱者の救世主になる。その可能性に私は期待したい。AD1-Eは'19年には市販されるという話だ。

▶︎2輪車と比べて部品点数が多いなど、構造的に重量が嵩む3輪車は、EVとの相性が極めてイイ。EVはエンジンのように回転の上昇を待たなくても必要なトルクを直ぐに発生させることができるので加速性能に優れ、アクセルのレスポンスも向上する。また静寂性に優れることから住宅地での走行も気をわずらわされることがない。

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text:舘内 端/Tadashi Tateuchi
1947年生まれ。自動車評論家、日本EVクラブ代表。東大宇宙航空研究所勤務の後、レーシングカーの設計に携わる。’94年には日本EVクラブを設立、日本における電気自動車の第一人者として知られている。現在は、テクノロジーと文化の両面からクルマを論じることができる評論家として活躍。
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